代数学賞 のページ |
| 1998年度 | 梅村浩(名大多元数理) | 斎藤毅(東大数理) | |
| 1999年度 | 藤原一宏(名大多元数理) | 宮本雅彦(筑波大数学) | |
| 2000年度 | 原田 耕一郎(Ohio States Univ.) | ||
| 2001年度 | 池田保(京大理) | 庄司俊明(理科大理工) | |
| 2002年度 | 栗原将人(都立大理) | ||
| 2003年度 | 渡辺敬一(日大文理) | ||
| 2004年度 | 寺杣友秀(東大数理) | ||
| 2005年度 | 松本耕二(名大多元数理) | 中村郁(北大理) | |
| 2006年度 | 花村昌樹(東北大理) | 吉田敬之(京大理) | |
| 2007年度 | 坂内英一(九大数理) | 吉岡康太(神戸大理) | |
| 2008年度 | 伊山修(名大多元数理) | 谷崎俊之(阪市大理) | 並河良典(阪大理) |
| 2009年度 | 小木曽啓示(慶大経済) | 雪江明彦 (東北大理) | |
| 2010年度 | 都築暢夫(東北大理) | 寺尾宏明(北大理) | |
| 2011年度 | 石井志保子(東工大理工) | ||
| 梅村浩氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:パンルヴェ方程式と微分ガロワ理論の研究 |
パンルヴェは19世紀終わり頃、動く分岐点をもたない2階の常微分方程式 を研究し、既知の古典関数によっては積分できそうにない6種の 微分方程式の族を得た。 これが パンルヴェ方程式の起源である。この方程式は、搖籃期の後、長い間注 目されることがなかったが、1970年代後半からの岡本氏の研究などで 息をふきかえし、数理物理への応用も相まって、近年、 注目を集めるようになった。とくに、 パンルヴェ方程式の解が古典的ではなく真に新しい関数であるかという問題は、新しい特殊関数の発見の見地からも重要な問題であった。梅村氏は、 西岡氏の研究を代数幾何の手法により一般化し、この問題解決への 道筋を作った。さらに、梅村氏は、岡本、野海、渡辺氏らとともに、 この方法を用いて最終的結論に到達した。 また、同氏は、パンルヴェ方程式の持つ代数構造の解明を行い、 多くの重要な結果を得た。これと関連して、 ガロワ体のピカール・ヴェッシオ理論の代数幾何的に明快な 基礎付けにも成功した。これらの業績は、微分方程式の代数的理論の 基礎として大変重要なものであり、 世界的に高く評価されている.
| 斎藤毅氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:数論幾何におけるガロワ表現の研究 |
代数体, 局所体, 有限体上の定義された代数多様体の$\ell$進コホモロジー をとればそれらの体のガロワ表現が得られ, これを用いてゼータ関数という 代数多様体の性質を反映する重要な関数が得られる. この関数と代数多様体の 持つ幾何的性質, 代数的性質の関係を調べることは基本的ではあるが大変 困難な問題である.斎藤毅氏はこの困難な問題を取り上げ, 有限体や局所体上定義された代数多様体の上の順な分岐をもつ $\ell$進層のゼータ関数の$\epsilon$因子 を, 精密化されたチャーン類で表わすことに成功した. この結果は斎藤秀司, パーシン(Parsin)の結果の拡張になっており, 数論幾何に様々な応用を もたらした. また, 代数体上の代数多様体の場合にも, ドゥリーニュ(Deligne)の結果を一般化して, $\ell$進層から $\ell$進コホモロジーをとって得られる代数体のガロワ表現の行列式を計算し, それをヤコビ和型のヘッケ指標で表わすことに成功した. 代数体上の代数曲線の退化に関しても, 任意種数の代数曲線の導手と判別式の 関係を導き, オッグ(Ogg)による楕円曲線(種数1)の場合の結果を一般化した最 終的なものを得ている. これらの結果を証明する手法は, 現代数学の最先端の結果を駆使するきわめて 難解なものであるが, 得られた結果は大変深く重要なもので世界的に高く評価 されている.
| 藤原一宏氏の業績 |
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| 受賞業績の題目: 数論的幾何の研究 |
代数多様体という幾何学的対象のゼータ関数と、解析的に定義される保型形式との関係は整数論において非常に基本的なものであり、このような関係が存在することは現在広く信じられている。ワイルズによるフェルマー予想の証明に利用された、楕円曲線とモジュラー形式の関係を与える谷山−志村予想はこの関係の最初に見いだされた例である。この予想は、志村多様体という代数多様体の特別なクラスについては、いくつかの場合に証明されている。 その証明にはエタール・コホモロジー、セルバーグのトレース 公式等の現代数学の最高の技法が駆使される。セルバーグのトレース公式の一般的な形は難解であるが、しばしば、これをレフシェッツ型のより幾何学的なトレース公式で代用することができる。 藤原氏はリジッド解析空間のコホモロジーについての基礎的研究を行い、レフ シェッツ型のトレース公式についてのドリーニュ予想などいくつかの有名な予想を解決した。さらに、数年前からは、谷山ー志村予想についての ワイルズの結果をヒルベルト・モジュラー形式に拡張することを試み、これについても著しい結果を出している 。とくに、テーラー・ワイルズの方法を公理化した可換環論的手法は強力であり、すでに多くの研究者によて利用されている。藤原氏のこの方面の研究はヒルベルト・モジュラー形式に止まらず、多変数の保型形式の理論に大きな影響を与えつつある。
| 宮本雅彦氏の業績 |
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| 受賞業績の題目: 頂点作用素代数と有限単純群モンスターの研究 |
頂点作用素代数(Vertex Operator Algebra、以下 VOAとよぶ)は、 Frenkel-Lepowsky-Meurmann および B.Borcherdにより公理化された代数系で、 その研究は有限単純群モンスターのいわゆる Moonshine現象(モンスターと保型関数、保型形式との間の関係)を説明することを動機として、現在 Moonshine VOA とよばれている特別な VOAが構成されたことに始まりました (Frenkel - Lepowsky - Meurmann, 1988年)。このVOA とよばれる代数系は モンスター、保型関数ばかりでなく、Lie環論さらに数理物理学における共形場 理論を背景に持つ近年極めて注目を集めているものであります。 Frenkel-Lepowsky-Meurmann による Moonshine VOAの構成は極めて難解な ものでありましたが、宮本氏は近年の一連の研究により、Moonshine VOA を含むある種のクラスの VOA の構造を解明し、併せて Moonshine VOAをまったく 異なる視点から再構成しました。この構成の理論は、Moonshine VOAを多くの人に親しみやすいものにしたばかりでなく、VOAの研究にとって多くの貴重なアイデア(宮本の自己同型、コード VOAおよびその表現論など)を提供する独創的なものであります。とくに、この方法は今までに知られていなかった無限に多くの有限自己同型群をもつホロモルフィック VOAの構成を可能にするものであることは注目に値すると思います。宮本氏によるこれらの業績は、その独創性において世界的に高い評価を得ております。
| 原田耕一郎氏の業績 |
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| 受賞業績題目:有限単純群の研究 |
今年度の代数学賞は長年にわたる原田耕一郎氏の 有限単純群についての仕事全体に対して贈られるものである。 有限個の元からなる群を有限群と呼び、自明でない正規部分群を持たない群を 単純群とよぶ。有限単純群は一般の有限群を組み立てている基本のブロックとして重要であり、その分類問題は群論における100年以上にわたる懸案であった。それは、多くの研究者の仕事をあわせることにより、 1981年に最終的な解決をみた。 原田氏の初期の仕事は、その有限単純群の分類問題において決定的な貢献をし ている。 有限単純群をその2-シロー群により特徴付ける一連の仕事、特に、Gorenstein との共著論文である"Finite groups whose 2-subgroups are generated by at most 4 elements" (Memoire of AMS, 1974, No 147, vii+464 ページ)は分類 問題の根幹に関わる重要な結果である。有限単純群の分類定理の証明は 帰納法が基本であるが、この結果は帰納法が順調に適用出来るようになる 前の段階の一番難しい部分を解決した必要不可欠な貢献であった。 さらにHarada 群(あるいはNorton がコンピューターを用いて最終的に 構成を完成したので Harada-Norton 群)と呼ばれる位数 $273030912000000=2^{14}\cdot 3^6\cdot 5^6\cdot7\cdot 11\cdot 19$の 散在型の単純群の発見は、26個しかない散在型有限単純群の一つとして、 彼の名前とともに永久に残る結果である。 有限群の研究は有限単純群の分類の完成により、大きな変革を受けた。 原田氏は、有限単純群の分類の簡易化よりも、新しい研究方向を模索し、 Moonshine, モンスター群、VOA(頂点作用素代数)などの方向へ、 群論の広がりをめざして先駆的に仕事を展開する。1つの 単純群モンスター群の世界が他の全ての群の世界と対等なほどの広さと 深さを持つという確信を持ち、有限群の研究者達をこの新しい研究方向へ と導いた。(昨年度の代数学賞受賞者の宮本雅彦氏の研究も 原田氏の影響のもとにはじまったと言える。) 原田氏はこれらの群論の新しい立脚点を求める仕事と同時に、日本語の 優れた教科書(群論、1998年岩波書店、寺田至と共著;モンスター、 1999年岩波書店;群のひろがり、執筆中、岩波書店)を執筆し、群論の啓蒙、 宣伝にも力を注いでいる。 また、30年以上海外に在住しながら、日本の有限群論の世界的な リーダーとして、日本の群論研究者の育成および協力にも努力し、 日本の群論の興隆のためにも力を注いできた。これらの様々な活動を通じての 影響力の大きさも原田氏の研究それ自身の重要性と共に、今回の受賞に値する 要因である。
| 池田保氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:保型形式の研究 |
保型形式論は整数論、代数幾何学、表現論、多変数函数論等が交錯する 極めて興味深い分野であります。保型形式からは実に多様な $L$ 函数が 得られます。この $L$ 函数の解析的性質、また異なる保型形式の $L$ 函数の 間に存在する関係を明らかにすることは、所謂 Langlands functoriality の予想として、保型形式論の困難かつ主要な課題の一つです。 池田保氏は保型形式論の分野で卓越した研究をしてきました。初期の仕事では GL(2) の三重 L 函数について極の位置を決定しました。続いてシンプレク ティック群のアイゼンスタイン級数についてのジーゲル・ベイユ公式の拡張を 詳しく考察しました。最近になって氏が証明した楕円モジュラー形式から 高い次数のジーゲルモジュラー形式への lifting の存在 (所謂 Duke-Imamoglu 予想)は保型形式論での突破口として 世界的な注目を集めています。氏はさらに進んで高い次数の ジーゲルモジュラー形式の間にもある種の lifting があることを突き止め、 部分的には証明しました。 このような優れた、また意欲的な業績は「代数学賞」にふさわしいものと 考えます。
| 庄司俊明氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:有限シュヴァレイ群の表現論の研究 |
有限 Chevalley 群は有限単純群の中で主要な位置を占ると同時に,実単純 リー群やp進単純代数群の有限体上の類似でもある重要な群です. 有限 Chevalley 群の既約指標を決定するという問題は,20世紀初頭に G. Frobenius が有限体上の SL(2)の既約指標を計算したことに端を発する 古典的問題であると同時に,実単純リー群やp進単純代数群の 無限次元表現論とも密接に関連する現代的問題でもあります. 庄司俊明氏は,有限 Chevalley 群の既約指標の決定に関して 一連の傑出した業績をあげてこられました.特に,中心連結な 簡約代数群に対する Lusztig 予想の解決は,これまで多くの数学者の 挑戦を拒み続けてきたこの難問の最終的解決へと大きく 迫る極めて重要な成果です.庄司氏は,また,有限 Chevalley 群の 既約指標の羃単元での値を計算する庄司アルゴリズムの発見により, 指標の具体的計算への道を開かれました.これらの仕事は国際的にも 高く評価されており,各方面で今後ますます, その重要性が認識されていくものと考えられますので,「代数学賞」 授賞に誠にふさわしい業績といえます.
| 栗原将人氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:岩澤理論の研究 |
栗原将人氏は高次元局所類体論,代数的数論,岩澤理論などを研究しているが, 中でも岩澤理論について非常に優れた研究成果を得ている. 岩澤健吉氏は,1955年ごろから代数体に対するヤコビ多様体の類似を探すという 問題意識から, ${\bf Z}_p$ 拡大, つまり代数体の無限次ガロア拡大でそのガロア群が $p$-進整数環 ${\bf Z}_p$ と 同型になるものの研究を始め,「アーベル体の円分的 ${\bf Z}_p$ 拡大の イデアル類群の $p$ 成分に,この ${\bf Z}_p$ 拡大のガロア群を作用させたとき, その特性イデアルが $p$ 進 $L$ 関数で生成されるだろう」と予想した. この予想は岩澤主予想と呼ばれ,1984年 B. Mazur と A. Wiles により証明された が,岩澤理論は現在の整数論における最も重要な理論の一つとなっている。 さて岩澤の主予想に出てくる特性イデアル類は,イデアル類群の 0 次の Fitting ideal であるが,栗原氏は 0次の Fitting ideal について 岩澤主予想を精密化した予想を提出し, それが幾つかの重要な場合に成り立つことを示した. さらに,高次の Fitting ideals についても若干の条件の下で予想を提出し, 幾つかの場合にこの予想が成り立つことを示した. このように,栗原氏は岩澤主予想の精密化に成功すると共に, 高次の Fitting ideals と $p$ 進 $L$ 関数の関係にも新しい光を当てた. また, R. Greenberg は「総実な体 $k$ については,円分 ${\bf Z}_{p}$ 拡大の 岩澤不変量は消える」と予想しているが,この予想は岩澤理論における最大の 未解決な問題の一つである.これと関連して,栗原氏は,「有理数体 ${\bf Q}$ の 最大アーベル拡大のイデアル類群は非常に大きな無限生成の群であるのに対して, その最大実部分体のイデアル類群は消える」ことを示した. この結果は,整数論の専門家の誰もが予想しなかった驚くべき結果であり, 総実な体とそれ以外の体の違いを際立たせるものである. さて,有理数体上の楕円曲線 $E$ について,円分的 ${\bf Z}_p$ 拡大の $p^n$ 次 の 中間体での Tate-Shafarevich 群の位数の $p$ 羃部分を $p^{e_n}$ とするとき, B. Mazur は, この楕円曲線 $E$ が $p$ の上のすべての素点で ordinary reduction を持ち, さらに若干の条件を満たせば, 適当な非負整数整数 $\lambda, \mu$ と整数 $\nu$ があり, 岩澤の類数公式と類似の公式 \[ e_n = n{\lambda} + p^n{\mu} + {\nu}, \hspace{1cm} n >> 0 \] \noindent が成り立つことを示した.しかし "ordinary" の仮定をはず すと全く手が付いていなかった. これに対し栗原氏は,楕円曲線 $E$ が modular で素数 $p$ で supersingular reduction を持つ場合の Tate-Shafarevich 群の位数の $p$ 羃部分を $p^{e_n}$ を求めた. とくに栗原氏は,素数 $p \neq 2$ が $L$ 関数の1での値 $L(1, E)$ を 周期 $\Omega(E)$ で割った比を割り切らない場合には, $n >> 0$ のとき, \[ e_n = [n{\lambda} + p^n{\mu}], \hspace{1cm} \lambda = -\frac{1}{2}, \hspace{1cm} \mu = \frac{p}{p^2-1}. \] \noindent となることを証明した.ここで $[*]$ は Gauss の記号である. この公式には不変量として分数が現れており, これは既知のものからの形式的な類推を退けるものであり, 岩澤理論の研究に新局面をもたらした.
| 渡辺敬一氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:可換環論の研究とその特異点理論への応用 |
渡辺氏の主な業績は、代数幾何学的な対象である特異点理論を可換環論的側面 から深く研究した(している)ことである。 代数幾何学と可換環論との関わりは 古く、Hilbert, Noether, そしてとりわけ近代の Zariski, Grothendieck , Hironaka などの研究にひきつづき、可換環論は今も様々な様相を呈している。 まず Nagata などによる現代的な基礎付けの後に,70年代にはより具体的 な可換環論が展開されてきた。一方,Hochster-Roberts, Hochster-Huneke らによる Frobenius 作用を用いた研究や、Homology 代数的手法による研究も盛んである。 渡辺敬一氏はこの様な中の常に主流にあり,重要な結果を与えつづている。 q初期の研究ににて、「不変式環がGorenstein 環になる為の条件を群が特殊線形群 に含まれる」と言う非常に分かりやすい性質で与えた。 また、それに引き続く完全交叉になる為の条件に関する研究や、 次数付環の理論とくに後藤-渡辺の $a$-不変量の研究(後藤氏 との共同研究)などはすでに可換環論の standard となっている。 今回、代数学賞の受賞対象となった研究は、専門的に言えば、 「F-rationality 及び Boutot type の定理の研究」と言って良い。 これは、1980 年代後半に Hochster-Huneke によって始められた、 正標数の環のイデアルに対する tight closure の理論に関するも のである。この理論の初期の段階から、渡辺氏はその重要性に気付き、 最初に、局所コホモロジーにおける Frobenius 作用という 観点から F-rational ring の定義を与え、標数 0 の環において 有理特異点という性質が直和因子に遺伝するという Boutot の定理の F- rational 版に対する反例を構成した。さらに、Frobenius 写像の分裂と、 特異点解消における相対的標準因子の係数 (discrepancy) との関連を発見し、 その後の Smith, Hara の定理、すなわち 「rational singularity = F-rational type」の発見のきっかけとなり、 さらに最近の multiplier ideal の環論的方向からの研究に重要な影響を与えている。 これらは、Frobenius 作用の観点から特異点の分類を行うもので、 tight closure 理論の立場からも主要な結果ともいえるものである。 さらに、これら正標数における Frobenius 作用の性質(F-pure, F-regular) の特徴付けを行い、これらと標数 0 の場合の特異点の性質 (log-canonical, log-terminal) との間の重要な関連づけを行った。また、 tight closure 理論から派生した Hilbert-Kunz multiplicity という 不変量による非特異性の判定条件 (吉田氏と共著) も著名な結果である。 以上のように、渡辺氏は非常に多くの優れた研究成果を上げ、当該分野では国際的にも 最も注目される研究者の一人であるが、一方で、渡辺氏は若手の研究者の 啓発にも多くの力を注いでいて、 多数の日本の可換環論研究者、特異点研究者が渡辺氏の指導を受けてき ている。
| 寺杣友秀氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:周期積分と多重ゼータ値の研究 |
寺杣氏は,代数多様体のホッジ構造,さらにはモチーフの構造に広い意味で関連 する多彩な研究を行ってきました.とりわけ,周期積分を成分とする行列式 を具体的にガンマ関数などを用いて表示する公式,周期積分として現れる超幾何 関数の積公式など,古典的な楕円積分のルジャンドルの関係式,ガンマ関数につ いてのガウスの積公式の一般化と看做せる公式を様々な場合に証明しました. 周期積分の行列式公式についてはのちに斎藤毅氏と共同で非常に一般的な公式を 与えています.斎藤氏の$\ell$(エル)進版の結果と共にこの結果のモチビック な類似も与えており,その一つの応用として,ランク1のモチーフは代数的 ヘッケ指標に付随したものであろうというDeligneの予想を支持する結果を導 いています.\par また,リーマンゼータ関数の正の整数点における値の一般化である多重ゼータ 値についての研究も著しいものです.これについては,セルバーグ型の超幾何積 分を冪変数でテーラー展開すると係数は多重ゼータ値で書けること示し ,その後,多重ゼータ値がある相対コホモロジーの周期積分 としてとらえられることを用いて,具体的な幾何学的対象を構成することにより, 多重ゼータ値の生成する有理数体上のベクトル空間の次元の上限についてのZagier 予想を解決しました.この予想はこの分野での一つの懸案であったものです. さらに最近Deligne氏との共同研究で,多重ゼータ値のアソシエーター関係式 から二重シャッフル関係式を導くという著しい結果も証明しました.
| 松本耕二氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:ゼータ関数の解析的挙動の研究 |
ゼータ関数は素数の分布状態を調べるためにオイラーが導入した特殊関数で、 その関数論的な性質が整数論的な問題にしばしば大きな知見をもたらすことは、 よく知られています。そこで解析的整数論では、ゼータ関数やL関数、 その他様々な方向に一般化されたゼータ関 数の解析的な性質を詳しく調べることが、中心的な研究テーマになっています。 松本耕二氏はこれまで一貫して、種々のゼータ関数の解析的な挙動について 調べてきました。その研究は、大きく四つに分けることがで きます。 (1) ゼータ関数の値分布理論の精密化と一般化 (2) ゼータ関数やL関数などの二乗平均についての結果 (3) ゼータ関数の Universality の理論の一般化 (4) 多重ゼータ関数に関する結果 これらはいずれも、ゼータ関数のとる値の分布のもつ不思議な性質を 関数論的な手法を使い、確率論的な視点から詳しく調べた研究だと いえます。ゼータ関数にまつわる問題で一番重要なのは零点の分布で、 これが素数分布に重要な影響を持ち、ひいてはリーマン予想を生 んだことは有名ですが、これ以外にもゼータ関数には非常に 面白い性質がたくさん知られています。 ゼータ関数の零点問題は「0という値のゼータ関数による逆像」を 考えているわけですが、では値域を拡げて「ある領域のゼータ関数に よる逆像」を考えるとそれはどう分布するのか? これが (1) の値分布理論の問題意識で、Bohr が始めた理論です。また、(3) の Universality の理論とは、「コンパクト集合内で正則な関数はほとんどすべて、 ゼータ関数の平行移動によって一様近似できる」ことを 主張するもので、1975年頃に Voronin によって指摘された不思議な性質です。 松本氏はこうした古典的な理論を見直し、(1) においては Bohr の理論の 精密化・一般化に成功しています。その結果、Bohr がその存在 だけを示していた密度に関して、特別な場合に「密度の漸近的挙動まで求め ることができる」というような興味深い進展がありました。 (3) は、$\sigma$ をあらかじめ固定した実数として $\int _0^T |\zeta (\sigma + it)| ^2 dt$ の値を詳しく計算する問題です。1950 年頃 Atkinson は、ゼータ関数の $\sigma =1/2$ (critical line と言う) 上での挙動を調べる目的で、現在 Atkinson の方法と呼ば れている新しい方法を導入し、注目すべき結果を得ました。 松本氏は Atkinson の方法を $\sigma =1/2$ 以外の値に対して拡張し、一 般の $\sigma$ に対して二乗平均の式を得ています。このときの研究から、 松本氏は「ゼータ関数では $\sigma =3/4$ の線を境にし て、何か質的な変化が起きているらしい」という興味深い指摘をしています。 ゼータ関数が $\sigma =1/2$ の線で折り返しの構造を持 つことは関数等式が証明されたときから指摘されていたことですが、 なぜ 3/4 にも質的な変化があるのか、まだその真の理由は分かって いません。近年の整数論の広がりによって、ゼータ関数の種類は多種多様に 増えています。そうした新しいゼータ関数についても古典的 な Bohr の理論や Atkinson の方法、 Universality の理論があてはまるか どうかについて、松本氏は (1)(2)(3) の中でそれを精力的に 調べてきました。こうした仕事は、値分布理論と Universality 理論の関係など、 理論間の関係を明らかにしていく上でも大変興味深い ものです。 (4) の多重ゼータ関数は近年活発に研究されているテーマですが、松本氏は 多重ゼータ関数を「古典的な Barnes のゼータ関数のある 一般化」という視点から捉えており、最近は Mellin-Barnes 積分などを用いて 解析的な研究を進めています。 以上の結果を見てわかるとおり、松本氏は古典的な大理論を精密化することから 始めて、それを広い範囲のゼータ関数に一般化し、そ れによって理論間の関係を探っていく方法をとっています。値分布論、 Universality の理論、いずれもゼータ関数の確率論的な現象を巧 妙に捉えた不思議な結果ですが、こうしたものに新たな光を当て、それを 精密化・一般化したことは非常に重要で、松本氏の一連の研究 はまさに代数学賞にふさわしい画期的なものと言えます。
| 中村郁氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:アーベル多様体のモジュライ空間とヒルベルト概型 の研究 |
最近10年ほどの間の中村郁氏の業績は大きく2つにわけられます。 (1) アーベル多様体のモジュライ空間のコンパクト化: 代数幾何学において、モジュライ空間は基本的な研究対象です。しかし、 それに代数幾何学の手法を有効に適用するには、モジュライ空 間のコンパクト化、しかも付加する点がモジュライ的特徴付けを持っていることが 重要です(幾何学的コンパクト化)。そのため、P. Deligne 氏、D. Mumford 氏による代数曲線のモジュライ空間の幾何学的コンパクト 化以来、種々のモジュライ空間のコンパクト化が研究 されてきました。アーベル多様体のモジュライ空間の場合には、佐武コンパクト化 が知られていましたが、それは前述の意味で幾何学的 ではありませんでした。幾何学的コンパクト化を構成するのに、 基本的にはモジュライ空間上の任意の(開)曲線に沿っての極限点に幾 何的対象を「自然に」対応させることができればよいのですが、 それ以前の、Mumford 氏, 浪川幸彦氏、中村氏、G. Faltings 氏・C.-L. Chai 氏らによる研究では、極限となる幾何的対象を種々定義できていたものの、 どれが自然かわからず、そもそも自然な幾何的対象の存 在自体も不明でした。中村氏はV. Alexeev 氏と共同で、中村氏・浪川氏が 1980年頃までに見つけていた対象の代数化に成功しました (1999)。これが重要な躍進となり、幾何学的コンパクト化についに成功しました (中村 1999, Alexeev 2002)。 (2) $C^n /G$ の McKay 対応に関する研究: $n=2$(2次元) として、$SL(n, C )$ の有限部分群 $G$ に対して、 $Y= C ^n/G$ の最小特異点解消を $f : X → Y$ とすると、$G$ の (非自明な)既約表現と $f$ の例外因子の間の対応(McKay対応)が知られて いましたが、その高次元化 ($n≧3$) はオイラー数予想な どと関係し、重要な問題でした。$n=3$ (3次元) では、最小特異点解消は、 極小モデル理論においてクレパント特異点解消とよばれるも ので置き換えて、McKay 対応の定式化が予想されていました。$Y$ のクレパント 特異点解消は1990年代になって、$G$ の型に応じた議論 により存在が証明されましたが、さらに、$G$ によっては複数個のクレパント 特異点解消が存在するなどの困難がありました。中村氏は 伊藤由佳理氏と共同で、曲面のヒルベルト概型の視点で2次元の McKay 対応を 精密化しました(1996)。さらに、中村氏は3次元でG が可 換の場合には、$G$-ヒルベルト概型がクレパント特異点解消となることを証明し、 $G$ が非可換の場合も同様であろうと予想しました。 これにより、クレパント特異点解消の選択に絡む曖昧さがなくなり、 3 次元の 場合の定式化が大きく進展しました。まず、伊藤氏・中島 啓氏により、議論が改良され、K 群を用いた定式化がなされました(2000)。 最後は、T. Bridgeland 氏・A. King氏・M. Reid 氏により、 3次元の場合にはG-ヒルベルト概型がクレパント特異点解消となること (中村予想の解決)、さらに導来圏を用いた McKay 対応の定式化 が確立されました(2001)。この$G$-ヒルベルト概型の導入は中村氏による 重要な寄与です。 (1), (2) の何れの業績も、一貫してモジュライ的視点により本質的な 寄与がなされており、代数学賞を授与するのにふさわしいもので あります。
| 花村昌樹氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:混合モチーフの研究 |
「モチーフ」を一言で述べるなら,代数多様体全体のなす圏から加法的な圏を自然に構成し, そこにおいてホモロジー代数を展開し,代数多様体の様々なコホモロジー理論の背後にある 普遍的コホモロジー理論を見出すこと,ということになるでしょう. モチーフのアイデアは1970年代の Grothendieck にさかのぼります. 彼は Weil 予想を解決するためエタールコホモロジー理論を開発し, 有限体上の多様体の合同ゼータ関数を, エタールコホモロジーへのフロベニウス作用の固有多項式で表示しました. Weil 予想で残された部分, すなわちフロベニウス作用の固有値の絶対値 に関する予想を解決するアイデアとして,モチーフの概念が登場したのでした. Weil 予想自体は Deligne が別の方法で解決しましたが,Grothendieckのモチーフの哲学は, Deligne の混合 Hodge 構造理論で導入された「重さ」(weight) の概念と融合して, 「混合モチーフ」の概念へと発展したのです. 少し専門的になりますが,Grothendieck の純モチーフと混合モチーフの違いを説明したいと 思います. 基礎体$k$ を固定しておきます.$k$ 上の射影的かつ非特異な多様体に対して 定義される種々のコホモロジー理論 (Weil コホモロジー理論)の背後に共通原理として 潜むものが Grothendieck の $k$ モチーフの圏 $\cM_k$ です. 彼は,「標準予想」を仮定すると,$\cM_k$ が存在して 半単純なアーベル圏をなすことを示しました. 一方,射影的とも非特異とも限らない一般の多様体の一般コホモロジー理論についても, その共通原理として混合モチーフの圏 $\cMM_k$ があると予想されました. $\cMM_k$ は$\cM_k$ を含む圏ですが,半単純な圏ではありません. 半単純でないことから,$\cMM_k$ においては拡大群 Ext など, 非自明なホモロジー代数理論が展開されます. 実際 $k$ 上の多様体 $X$ のモチヴィックコホモロジー$H^n_M(X,\bZ(r))$ を $\cMM_k$ における高次拡大群($\cMM_k$ の導来圏 におけるmorphismの空間)として定義すると, これが $k$ 上の多様体の普遍的なコホモロジー理論を与えることが期待されました. S. Blochは,多様体 $X$ の代数的サイクルや Chow 群 $CH^r(X)$ を一般化して, 高次サイクルや高次 Chow 群 $CH^r(X,q)$ を導入するとともに, 高次 Chow 群と代数的 $K$ 群の関係を明らかにしました. Bloch の仕事は,滑らかな多様体$X$ に対するモチヴィックコホモロジーと高次 Chow 群との 間の等式 $$ H^n_M(X,\bZ(r)) = CH^r(X,2r-n) $$ を強く示唆するもので,これがその後の$\cMM_k$ の構成の道標となりました. この等式は,多様体 $X$ のモチヴィックコホモロジーが $X$ の幾何学的不変量であるばかりでなく, 数論的にも重要であることを示します. その理由は,数論的多様体(有限体や代数体上定義された多様体)の ゼータ関数の整数点における零点の位数や, そこでの冪級数展開の最初の係数を予想する公式 (Tate予想,Birch-Swinnerton予想,Lichtenbaum予想,Beilinson予想, Bloch-Kato予想)においては, 代数的 $K$ 群や Bloch の高次 Chow 群が基本的な役割を果たすからです. このように混合モチーフの圏$\cMM_k$ の圏の構成は, 代数幾何学および数論幾何学における基本的問題ですが, 花村氏はこの構成問題に本質的な貢献を行ないました. $k$上の混合モチーフの圏 $\cMM_k$ それ自身が存在するかどうかはまだ不明ですが, 花村氏は $\cMM_k$ の導来圏に相当するはずの圏 $\cDM_k$ を構成し, $k$ 上の多様体 $X$ に付随する混合モチーフと呼ぶべき対象 $M(X)\in \cDM_k$ を定めました. これらを用いて,花村氏は非特異な多様体 $X$ に対する公式 $$ CH^r(X,2r-n) =\Hom_{\cDM_k}(M(\Spec(k)),M(X)(r)[n])$$ を証明しました.この等式はBlochの高次 Chow 群を, $\cDM_k$ におけるmorphism の空間(「モチヴィックコホモロジー」)として表現しています. また$t$-構造の理論を用い,いくつかの予想を仮定すると, $\cDM_k$ から$\cMM_k$ に相当する部分圏を取り出すことも可能となります. 花村氏とは独立に,Voevodsky とLevine も それぞれ同様の性質をもつ圏の構成を行っていますが, 方法はまったく異なります. (VoevodskyとLevineの構成した圏が同値であることは すでにわかっていましたが,花村氏は自身の構成した圏と彼らの圏が 同値であることを示しました).花村氏の$\cDM_k$ の構成は, 「$\cDM_k$ の対象とは,射影的で滑らかな多様体に付随するモチーフの``複体''である」 という自然な着想に基づいています. 具体的には,Deligneがその混合Hodge構造の理論において用いたhypercovering を改良した cubical hyperresolution の手法と 新しい``複体''概念の導入によりこの自然な着想を実現しているのです. 多少不正確にはなりますが,もう少し具体的にいうと, $\cDM_k$ の対象はデータ $(K^m,f^{m,n})$ です.ここで $$K^m=\bigoplus_{\alpha\in I(m)}(X_\alpha,r_\alpha)$$ は適当な集合$I(m)$ で添字付けられた非特異射影多様体 $X_\alpha$ と Tate twist に対応する整数 $r_\alpha$ の組で, $f^{m,n}=(f^{m,n}_{\alpha,\beta})$ は$K^m$ から$K^n$ への``境界写像''で、 $X_\alpha \times_k X_\beta$ 上の Blochの高次サイクルにより与えられます. 通常の複体においては、境界写像 $K^m \to K^n$ は$n=m\pm 1$ の場合のみにあるのですが, 花村氏はこれを一般化しているわけです. さて花村氏はこのようにして $\cDM_k$ を構成しましたが, この構成は Bloch の高次 Chow 群をホモロジー代数的に扱うことを可能とします. これは少なからぬ利点で,たとえば花村氏自らこの理論を用いて, Goresky-MacPherson の交叉コホモロジーの理論を``交叉Chow群''あるいは `交叉高次Chow群''の理論へと発展させています. また花村氏は氏の混合モチーフ理論を更に発展させ, パラメータ付混合モチーフともいうべき「混合モチーフ層」の理論を構築しつつあります. 多様体 $X$ 上の混合モチーフ層の圏 $\cMM(X)$ は, $X$ 上の Perverse 層の圏や Hodge 加群の圏の共通原理として その存在が期待されているものであって, $X=\Spec(k)$ の場合の$\cMM(X)$ が上述の$\cMM_k$ にほかなりません. $\cMM(X)$ の構成はまだ未完成で,花村理論の今後の発展が期待されます. モチヴィックコホモロジーは代数幾何学および数論幾何学において重要な役割を担う研究対象であり, 花村氏の仕事はこの分野に大きな実りをもたらすものと期待されます. 氏の業績は国際的にも高い評価を受けており, 代数学賞受賞にふさわしいものです.
| 吉田敬之氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:保型形式と周期の研究 |
最近10年ほどの吉田敬之氏の業績は大きく3つに分けられます. \medskip (1) Hilbert modular form の周期に関する志村の予想の解決 保型形式の理論において, 周期の研究は重要なウェイトを占めています. 保型形式の周期とは, 保型形式が定義されている多様体のサイクルで保型形式を積分して 得られる量のことです. 保型形式から得られる $L$ 函数の特殊値をこのような周期と関係付けて調べるのが保型形式の周期の研究の基本的な手法であるといえます. たとえば $n$ を $0 < n < k$ なる整数とするとき, 一変数の重さ $k$ の尖点形式 $f$ に対して周期 $\int_0^\infty f(it)t^{n-1}dt$ を考えることができますが, これらの周期の本質的部分は $\varepsilon=(-1)^n$ のみによって定まることが知られています. これを $c^\varepsilon(f)$ で表すと $L$函数の特殊値 $L(n,f)$ は2つの周期 $c^+(f)$, $c^-(f)$ によって表される, というのが古典的な Eichler-志村の理論です. 志村五郎氏はこの理論をさらに総実代数体上の Hilbert modular form に対して拡張しました. $F$ を $n$ 次の総実代数体, $\mathbf f$ を $F$ 上の Hilbert modular form とします. 志村氏は $\mathbf f$ から生ずる $L$函数を深く研究し, このような$L$函数の特殊値が, $F$ の $n$ 個の無限素点における符号分布に応じて得られる $2^n$ 個の周期で表されることを示しました. さらに志村氏はこの $2^n$ 個の周期が本質的には $2n$ 個の周期の組み合わせによって得られると予想しました. 吉田氏はこの問題に取り組み, 重さが非常に小さい特殊な場合を除いてこの志村の予想が正しいことを証明しました. (2)Siegel modular form から生ずる $L$函数の特殊値の研究 モチーフとは大雑把にいうと, 代数多様体のコホモロジーの直和成分から得られる仮想的な対象です. モチーフ $M$ から得られる $L$ 函数の特殊値 $L(n, M)$ は $M$ から得られるある種の周期で表されるというのが有名な Deligne の 予想です. 一般に, 種々の保型形式に対してモチーフを対応させることができると信じられています. 吉田氏は次数 $m$ の Siegel modular form $f$ に対して対応するモチーフの存在と Deligne の予想をひとまず仮定すれば, (1) $f$ は高々 $m+1$ 個の基本的な周期をもつ, (2) $f$ から生ずる種々の $L$ 函数の特殊値はこれらの基本的な周期の組み合わせによって表される, という2つのことを示しました. 吉田氏のこの仕事は Siegel modular form から生ずる $L$ 函数の研究に一つの明快な見通しを与えたものとして評価されています. (3) Artin の $L$ 函数の対数的導関数の特殊値の研究 志村氏はCM型のアーベル多様体の周期を深く研究し, それらが単項関係式という関係式を満たすことを示しました. これを用いて志村氏はある種の双線型形式 $p_K(\sigma, \tau)$ を定義しました. これは志村の周期記号と呼ばれています. $K$ をCM体で $\mathbb Q$ 上 Galois 拡大であるもの, $\psi$ を $G=\mathrm{Gal}(K/{\mathbb Q})$ の表現で複素共役に関するある種の条件を満たすものとします. 吉田氏は Artin の $L$函数 $L(s, \psi)$ の対数的導関数 $L'(s, \psi)/L(s,\psi)$ を考察しました. 吉田氏は多くの数値計算に基づき, 特殊値 $\exp(L'(0, \psi)/L(0,\psi))$ が志村の周期記号を用いて表されることを予想し, 特殊な場合にはこの予想が実際に成り立っていることを示しました. さらに吉田氏は新谷氏の錐体分解と Barnes の多重 $\Gamma$ 函数を用いて絶対周期記号 $g_K(\sigma, \tau)$ を定義し, 志村の周期記号は本質的には絶対周期記号で表されると予想しました. この絶対周期記号を用いることにより, 吉田氏の予想はより精密な形で定式化することが可能になりました. また吉田氏は加塩朋和氏との共同研究において, この予想の $p$ 進的な類似についても研究を進めています. これらの予想は Hilbert の第12問題の解決につながるものとして多くの研究者の注目を集めています. 以上のように吉田氏の研究は $L$ 函数の特殊値と保型形式の周期の研究を本質的に深めるものであり, 代数学賞を受賞するのにふさわしいものであるといえます.
| 坂内英一氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:代数的組合わせ論の研究 |
多重可移群,距離正則グラフ,堅いデザイン,アソシエーションスキーム,ヤコビ形式と コードの重さ枚挙多項式,4つの重さをもったスピンモデル,フュージョン代数,重複がない 置換表現の指標表,... 坂内氏の業績リストは組合せ論を中心に,多岐な分野にわたる厖大なものです. しかしこれらの研究すべてを貫く中心軸は,坂内氏自ら命名し精力的に研究を推進した 「代数的組合せ論 algebraic combinatorics」であるといっていいでしょう. アソシエーションスキームは,統計学の分野ではすでに60年にわたって使われている概念です. しかし1970年代後半,Delsarte の理論に触発された坂内氏は, アソシエーションスキームの中でも P スキームと Q スキームと呼ばれるものの研究・分類が特に重要であることに気付きました. この発見から生まれたのが 伊藤達郎氏との共著 {\it Algebraic Combinatorics I, Association Schemes} (Benjamin, 1984) です. P スキームかつ Q スキームであるようなアソシエーションスキームに重点をおいて記述した はじめての単行本(教科書)として, 本書は広くこの分野の研究者の支持を受け, それに伴って「代数的組合せ論」という用語も普及定着していったのです. アソシエーションスキームとは,可移置換群がみたす性質を組合せ論的概念に 公理化したもので,有限集合 $X$ とある公理系を満足する $X$ の 2項関係 $R_0, R_1, \dots, R_d$ からなっています.その公理の一つは \begin{itemize} \item[(*)] $i, j, k \in \{0,\dots, d\}$ を任意に与え,$(x,y) \in R_k$ とする.このとき $ (x,z) \in R_i, (z,y) \in R_j$ をみたす $z \in X$ の個数は, $(x,y)$ に依存せず $i, j, k$ だけで決まる数 $p^k_{ij}$ である \end{itemize} というものです. アソシエーションスキーム $\frak{X} = (X, \{R_i\}_{i = 0,\dots,d})$ の 関係 $R_i$ の隣接行列($(x,y) \in R_i$, $\not\in R_i$ に応じて $(x,y)$ 成分を 1 または 0 とおいて得られる行列)を $A_i$ とします.$A_0, \dots, A_d$ が生成する $M_X(\bf C)$ の部分代数 (Bose-Mesner 代数) $\frak{A}$ の 基底 $A_0,\dots, A_d$ に関する構造定数が $\{p^k_{ij}\}$ です. 各関係 $R_i$ が対称であるとき $\frak{A}$ は可換代数で, 原始巾等元 $E_0, \dots, E_d$ を基底に選ぶことができます. 基底の変換行列 $P$ を $A_i = \sum E_j P_{ji}$ で定義し, $Q = n P^{-1}$ とおきます. 有限群 $G$ の共役関係が定めるアソシエーションスキームでは $P$ が $G$ の指標表になっているので,一般の場合にも $P, Q$ を $\frak{X}$ の指標表といいます. Bose-Mesner 代数 $\frak{A}$ は Hadamard 積に関しても閉じています. $n = \vert X \vert$ とおいて,基底 $nE_0, \dots, nE_d$ が定める Hadamard 積に関する構造定数を $\{q^k_{ij}\}$ としましょう. 二つの $d+1$ 次正方行列 $B_1= (p^j_{1,i})$, $B_1^* = (q^j_{1i})$ を考えます. $B_1$ が3重対角行列である $\frak{X}$ を P スキーム, $B_1^*$ が3重対角行列であるとき Q スキームと呼びます (P スキームや Q スキームでは直交多項式が付随して定まることが本質的であって, 坂内氏の研究でも直交多項式は随所に使われ重要な役割を果たします). Delsarte は,P スキーム,Q スキームにおいては, コード理論,デザイン理論を統一的に扱うことができることを指摘しました. これが示唆するのは, P スキーム・Q スキームを中心とする代数的組合せ論が, 幅広い分野の諸問題に対して統一的なアプローチを可能とするのではないかということです. 坂内氏は実際このことを積極的に主張し,かつ自ら結果を出すことで, 代数的組合せ論が多くの分野に関係し豊富な研究対象をもつことを実証してきたのでした. 1990年代以降坂内氏が行なってきた研究のいくつかをあげます. \begin{itemize} \item[(a)] {\bf Subschemes:} アソシエーションスキームにおける関係をグループ分けして 新たな関係を作るとき,いつまたアソシエーションスキームになるかを論じました. ここで得られた条件は ``Bannai-Muzichuk condition'' と呼ばれています (J. Algebra {\bf 144} (1991)). \item[(b)] {\bf Fusion algebras:} 数理物理学の共形場理論に付随するフュージョン代数と アソーシエーションスキームとの関係を論じました. 類似しながらまったく異なった立場から 研究されてきた対象を,はじめて統一的にとらえたものと評価されています (J Algebraic Combin. {\bf 2} (1993)). \item[(c)] {\bf Spin models:} 絡み目不変量を与える Jones の スピンモデルとアソーシエーションスキームとの関係は F. Jaeger が注目したものです. 坂内悦子氏との共著では,絡み目における有向交点の4つの型に対応して 4種類の重さをもつスピンモデルを研究しました (Pacific J. Math. {\bf 170} (1995)). \item[(d)] {\bf Jacobi forms:} Brou\'e-Enguehard (1972) の結果を4変数多項式環 の場合に拡張しました.すなわち小関道夫氏との共著論文で, 4変数多項式環への複素鏡映群作用の不変式環から, コード理論を通して Jacobi 形式が構成できることを示しました (Proc. Japan Acad. {\bf 72} (1996)). この論文以後,坂内氏と整数論研究者との 共同研究が増加します. \item[(e)] {\bf Multiplicity-free representations:} 最初期からの研究テーマですが, 近年の仕事としては,未解決問題だった $\displaystyle 1^{GL(2n,q)}_{GL(n,q^2)}$ の 明示的分解があります(J. Algebra {\bf 265} (2003). 田中太初氏との共著). 斜交群の誘導表現の自己準同型環の指標表の決定も 重要な仕事でしょう(川中氏,Song 氏との共著, J. Algebra {\bf 129} (1990)). \end{itemize} 以上の例が示すとおり坂内氏は幅広い研究分野で顕著な業績をあげており, 現在も球面充填の代数的組合せ論を中心に精力的な研究を続けています. また代数的組合せ論の世界的リーダーとしての二十年にわたる活躍は. 多数の若手研究者に強い刺激と鼓舞とを与え,同分野が今日の隆盛を見る原動力となりました. こうした功績は,代数学賞受賞にまことにふさわしいものです.
| 吉岡康太氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:ベクトル束のモジュライの研究 |
吉岡氏は代数的ベクトル束,とくに代数曲面上のベクトル束のモジュライ空間について, 精力的な研究を行なっています. 代数曲面上のベクトル束は, いわゆる Hitchin-小林対応を通じて実4次元多様体上の インスタントンと結びつき, 微分位相幾何の Donaldson 不変量や理論物理におけるゲージ理論とも関連します. 当然さまざまな立場から数多くの研究があるわけですが, そのなかにあっても吉岡氏の成果は第一級のものです. 吉岡氏の業績はおおむね三種類に分けることができます.第一はモジュライ空間の ベッチ数の計算に関わるものです.${\bf P}^2$ 上の場合にはじまり, さまざまな曲面上のベクトル束について計算を行なっていますが, まずは最初の公表論文である {\it The Betti numbers of the moduli space of stable sheaves of rank 2 on ${\bf P}^2$} (J. reine angew. Math. {\bf 453} (1994)) について説明します. この論文では ${\bf P}^2$ 上階数が 2 で $c_1$ が $-H$ ($H$ は超平面のコホモロジー類) となる安定ベクトル束のモジュライ空間 (の Gieseker コンパクト化)のベッチ数を決定しました. W. Barth らによる従前の研究では, $c_2$ の値が小さい場合にしか計算ができていませんでしたから, 画期的成果と言えます.証明は Weil の合同ゼータ関数を使って, 有限体上定義される安定ベクトル束を数え上げる問題に帰着します. 引き続く一連の論文では,線織面や楕円曲面上のベクトル束を扱いますが, そのさい,曲面を blow up したり偏極を取り替えたりすると, モジュライ空間のベッチ数がどう変化するか(爆発公式,モジュライ空間の chamber 構造) といった興味深い考察が行なわれます. モジュライ空間のベッチ数についての吉岡氏の結果は, 直後に Vafa-Witten が S 双対性予想を発表すると, 予想を裏付ける実例として,一躍脚光を浴びることとなりました. S 双対性の物理的な意味は,高エネルギー領域と低エネルギー領域の対称性ですが, これを摂動級数に対する関数等式として翻訳すれば, インスタントンのモジュライ空間のオイラー数の母関数が 保型性をもつ,という予想になります. 吉岡氏の計算結果をながめると,${\bf P}^2$ 上の場合は Hurwitz 類数が現れて,確かに保型形式に なっていますし, 線織曲面や楕円曲面の場合も母関数はテータ関数を用いて表示することができて, やはり保型形式が現れるのです. なお S 双対性予想自体の数学的に厳密な証明はまだ知られていませんし, 母関数がなぜ保型性をもつべきなのか, という疑問に対する原理的説明も,数学サイドからは存在しないのが現状です. 吉岡氏の第二の業績は, K3曲面やアーベル曲面上のベクトル束のモジュライの詳細な構造論です. 論文 {\it Some examples of Mukai's reflections on K3 surfaces} (J. reine angew. Math. {\bf 515} (1999)) では,$X$ を K3 曲面,$v =(r, c_1, c_2) \in H^{even}(X,{\bf Z})$ を「向井ベクトル」としたとき,階数 $r$, チャーン類 $c_i$ をもつ $X$ 上の 安定ベクトル束のモジュライ空間 $M = M(v)$ (向井茂氏によって非特異な複素シンプレクティック多様体の構造をもつことが わかっているが,大域構造はよくわからない)が, $X$ 上の $d = d(v) = \vert v \vert$ 個 (ただし $d(v)$ は向井ベクトル $v$ の自然な「長さ」で,Riemann-Roch 定理から $M$ の次元の半分と一致します) の点をパラメトライズする Hilbert 概型 $X^{[d]}$ というわかりやすい複素シンプレクティック多様体 から双有理変換や複素構造の変形を行なって得られること, また Bogomolov-Fujiki-Beauville 内積付き格子 $H^2(M,{\bf Z})$ が $v$ の直交補空間と 同型になることといった興味深い結果を, 丸山正樹氏がベクトル束のモジュライ理論に導入した「初等変換」を 一般化することによって示しています. 一方 {\it Moduli spaces of stable sheaves on abelian surfaces}, ( Math. Ann. {\bf 321} (2001)) では Fourier-Mukai 変換を駆使し, アーベル曲面上のベクトル束のモジュライについて K3 の場合と類似の結果を証明しました. 業績の第三は, {\sc H. Nakajima and K. Yoshioka}, {\it Instanton counting on blowup, I} ({Invent. Math.} {\bf 162} (2005)) に始まる中島啓氏との共同研究で,物理学者 Nekrasov が定義した ゲージ理論の分配関数に関わります. この分配関数は,無限遠直線に沿って frame づけられた ${\bf P}^2$ 上の 階数 $r$ のベクトル束(物理的対象としては無限遠方では消滅するインスタントン) のモジュライ空間から定義され, ${\bf R}^4$ の ${\rm SU}(r)$ 同変 Donaldson 不変量と考えられるものです. Nekrasov 予想とは, 上の分配関数の主要項と,リーマン面上の周期積分で与えられる Seiberg-Witten プレポテンシャルと呼ばれる量が一致するであろう,という主張です. 前掲論文では,広田方程式の一般化である blow-up equations という微分方程式系を詳しく解析することによって Nekrasov 予想の解決に成功しました (中島・吉岡論文とは独立に Nekrasov-Okounkov も同予想を証明しています). 低エネルギー極限 Donaldson 不変量と 高エネルギー極限 Seiberg-Witten 不変量が等価であるという Witten 予想の 背景にあるのが Seiberg-Witten プレポテンシャルですから, 上の結果は, ${\bf R}^4$ 上における Witten 予想に対する数学的定式化を与えたことになります. このテーマについては中島・吉岡両氏による解説 {\it Lectures on instanton counting} (in: {\it Algebraic Structures and Moduli Spaces}, CRM Proc. Lecture Notes {\bf 38}, AMS, Providence R.I., 2004) があります. \vspace{3mm} 以上の簡単な解説では必ずしも意をつくしていませんが, 代数曲面上のベクトル束のモジュライ理論における吉岡康太氏の業績は 独創的であるとともに深い内容を含み,代数学賞を受賞するにふさわしいものです。
| 伊山修 |
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| 受賞業績の題目:高次 Auslander-Reiten 理論の研究 |
伊山修氏は, 多元環および整環の表現論から出発して, Cohen-Macaulay 加群の表現論の分野においてきわめて斬新なアイデアを提供し, それを適用することで幾多の未解決問題を解決してきました. 氏が提供したアイデアのうちで際立ったものを挙げるとすると, 「削除理論」と「高次元 Auslander-Reiten 理論」であろうと思われます. 削除理論 rejection lemma とは, 整環の表現とその拡大整環の表現とを比較する理論です. Bass 整環の理論で重要な役割を果たしたこの概念を,氏は概分裂完全列を有する Krull-Schmidt 加法圏である $\tau$-圏という形に公理化して, $\tau$-圏における削除理論を構築し ({\it A generalization of rejection lemma of Drozd-Kirichenko}, J. Math. Soc. Japan, 1998; {\it Some categories of lattices associated to a central idempotent}, J. Math. Kyoto Univ., 1998), その応用として,有限表現型整環の Auslander-Reiten quiver を組み合わせ論的に 特徴付けました (伊山氏自身による解説 {\it Representation theory of orders}, In: Algebra -- representation theory, Kluwer Acad. Publ., Dordrecht, 2001 参照). さらには Artin 環上の加群がかならず準遺伝的自己準同型環をもつ 加群の直和因子となることを証明しました. その系として,ホモロジー代数における一連の未解決問題(中山予想を含む) の一つであった「有限次元多元環の表現次元の有限性」が導かれますし ({\it Finiteness of representation dimension}, Proc. Amer.Math. Soc., 2003), また副産物として,整環から定まる Solomon ゼータ関数の形に関する「Solomon の第二予 想」も同時に解決されました ({\it A proof of Solomon's second conjecure on local zeta functions of orders}, J. Algebra, 2003). 整環の表現論において中心的役割をはたす加群圏上の関手圏は, Auslander 多元環上の加群圏の一般化と捉えることができます. Auslander-Reiten 理論とは,Auslander 多元環に対するホモロジー代数的考察 (ある種の性質をもつアルティン環の圏と別の性質をもつアルティン環の圏との間の 森田同値性)を,より一般の多元環の圏と加群の圏との対応へと拡張したものです. Auslander 多元環は,大域次元と支配次元がともに2であるという条件で特徴付けられます. より高い大域次元と支配次元をもつ多元環(高次Auslander 多元環)と森田同値となる 加群圏を見出すことは, Auslander による表現次元理論 (1971) にさかのぼる問題ですが, 多元環に対応する加群圏をどう定式化すればよいのかが,大きな問題でした. 伊山氏は,大域次元が $n+1$ 以上,支配次元が $n+1$ 以下の環の圏に対応する加群圏は, 有限次元環上の加群の圏の 極大$(n-1)$直交部分圏($n$-クラスター傾斜部分圏)の同値類である,と定式化して 二者の間の森田同値を示し, 高次 Auslander-Reiten 理論として提唱するとともに, Auslander-Reiten 双対性や概分裂完全列,商特異点上の極大$(n-1)$直交部分圏,等を与えました ({Higher-dimensional Auslander-Reiten theory on maximal orthogonal subcategories}, Adv. Math., 2007; {\it Auslander correspondence}, {\it ibid}). 氏の高次 Auslander-Reiten 理論は,Fomin-Zelevinsky のクラスター多元環に端を発する Buan-Marsh-Reineke-Reiten-Todorov, Geiss-Leclerc-Schr\"oerらによるクラスター傾斜理論(3次 Auslander-Reiten 理論)を含む形で 現在進行中ですが,すでにいくつかめざましい成果が挙っています. I. Reiten 氏との共同研究では, 高次 Auslander 多元環の一種である Calabi-Yau 多元環上の傾斜理論を, 非可換クレパント特異点解消の理論に応用しました. また吉野雄二氏との共同研究では,三角圏の$n$-クラスター傾斜部分圏の mutation 理論 を構築して,ある種の商特異点上における rigid Cohen-Macaulay 加群の分類に用いました. 伊山氏の論文はおおむね短く,非常に簡潔に書かれていますから, 一読すると無機質な抽象論という印象を与えるかもしれません. しかし事実は少し違うようです. 組み合わせ的手法を主体とした機械的アプローチでは到底到達し得ない, 膨大な具体計算がまず背景にあり, その集積を深い洞察力によって高度に抽象的な理論へと昇華させているのです. 伊山氏の研究歴はまだ十年程に過ぎませんけれども, すでにその独創的かつ高水準の業績は国際的に高い評価を得ており (昨2007年8月ポーランドで開催された第12回 International Conference on Representations of Algebras and Workshop において, 栄えある第1回 ICRA Award を受賞したことは,そのよい例証といえるでしょう), 代数学賞を受賞するにふさわしいものです.
| 谷崎俊之氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:リー代数と量子群の表現の研究 |
谷崎氏は,複素半単純リー代数の表現論を中心として, 関連する量子群,Kac-Moodyリー代数やアフィンHecke代数の表現論など, 表現論の多岐にわたる分野において卓越した業績をあげてきました. なかでも柏原正樹氏との共同研究で, 代数解析的手法にもとづきアフィン・リー代数に 関するKazhdan-Lusztig 予想を証明したこと, 最近では Beilinson-Bernstein対応が量子群についても成立することを示したことが, 特筆すべき成果です. 以下では谷崎氏の研究の中心的なテーマである Kazhdan-Lusztig 予想と その周辺の話題に的を絞って説明します。 複素半単純リー代数 $\mathfrak{g}$ の表現論における基本的問題は, 最高ウエイト $\lambda$ が定める既約 $\mathfrak{g}$ 加群 $L(\lambda)$ の指標決定ですが, 1970年代 Kazhdan と Lusztig は, ワイル群 $W$ の Kazhdan-Lusztig多項式を用いると, 反支配的ウエイト $\lambda$ と $W$ の元 $w$ に対し, $L(w\cdot\lambda)$ の指標が種々の $y \in W$に関する Verma 加群 $M(y\cdot\lambda)$ の指標の線形結合として明示的に書けると予想しました. $M(y\cdot\lambda)$ の指標は計算できるので, 予想が正しければ既約 $\mathfrak{g}$加群の指標が決定できます. Kazhdan-Lusztig予想は,柏原-Brylinski と Beilinson-Bernstein とが独立に,代数解析手法により 問題を $\mathfrak{g}$ の旗多様体 $X$上の$\mathcal{D}_X$加群の言葉に 翻訳することによって解決しました. その過程で証明された 「自明な中心指標を持つ有限生成$\mathfrak{g}$加群のなすアーベル圏は, $X$上の連接$\mathcal{D}_X$加群のなすアーベル圏と圏同値になる」 という事実が Beilinson-Bernstein 対応と呼ばれるものです. 正標数の半単純代数群の既約指標に関しても Lusztig は類似の予想を提示していたのですが, 複素半単純リー代数の場合が解決すると, 彼は予想をアフィン・リー代数 $\widehat{\mathfrak{g}}$ やパラメータ $q$ が1の巾根の場合の量子群 $U_q(\frak{g})$ の表現にまで拡張し, アフィン・ワイル群に関するKazhdan-Lusztig多項式を用いて それらすべてを統一的に定式化しました. またこれらの表現の圏を比べることで,$G$ に関するKazhdan-Lusztig予想を$\widehat{\mathfrak{g}}$についての予想に帰着させる構想 (Lusztig プログラム) を 1980年代後半に発表, 以後 Lusztig プログラムの完成が表現論の最重要課題となります. 谷崎氏は M. Kashiwara and T. Tanisaki: {\it Kazhdan-Lusztig conjecture for symmetrizable Kac-Moody Lie algebras II} (Progress in Math. {\bf 92} Birkha\"user 1990) に始まる柏原氏との共同研究により, $\widehat{\frak{g}}$ を含む種々の状況における Kazhdan-Luszitg 予想の解決に成功しました. 上記論文では対称化可能な Kac-Moody リー代数に対しての Kazhdan-Lusztig 予想, すなわち,支配的正則ウエイト $\lambda$ に対し $M(w\cdot \lambda)$ の指標が Kazhdan-Lustig 多項式を用いて $L(y\cdot\lambda)$ の指標の線形結合として表示されること,が示されています. 証明には無限次元旗多様体上定義され 有限余次元のSchubert多様体に台を持つ左$\mathcal{D}$加群と, 無限次元スキーム上の混合ホッジ加群を用います. さらに、{\it Kazhdan-Lusztig conjecture for affine Lie algebras with negative level II}, Duke Math. J. 1996 では, Lusztigプログラムで必要とされる アフィン・リー代数 $\widehat{\frak{g}}$に対する Kazhdan-Lusztig予想を解決しました. 今度は反支配的正則ウエイト $\lambda$ に対し $L(w\cdot \lambda)$ が $M(y\cdot \lambda)$の線形結合として表され, 有限次元 Schubert多様体に台をもつ右$\mathcal{D}$加群が使われます. この第二論文とほぼ同時期に Kazhadan-Luszitg が $U_q(\mathfrak{g})$ と $\widehat{\frak{g}}$ の間の圏同値を証明し, Andersen-Jantzen-Soergel が $G$ と $U_q(\frak{g})$ の表現を(標数が十分大きいとき)関連づけたので, 谷崎氏の仕事とあいまって Lusztig プログラムはおおむね完成したのでした. 以上に関連して谷崎氏は柏原氏との共著論文で, 対称化可能な Kac-Moodyリー代数のワイル群に付随する放物的 Kazhdan-Lusztig多項式 の幾何学的実現を,Schubert 多様体の交差コホモロジーを用いて与えました. ここから放物的 Kazhdan-Lusztig 多項式の係数が正の整数であることがわかります. Kazhdan-Luszitg 多項式の係数については一般的な予想がありますが, 柏原・谷崎は現在のところ最も一般的な結果です. 谷崎氏の最近の注目すべき成果は, Beilinson-Bernstein対応の量子群への一般化です. 半単純リー代数 $\mathfrak{g}$ に付随した 旗多様体 $X$と $\mathcal{D}_X$加群の圏の$q$類似として, 量子群 $U_q(\mathfrak{g})$ に付随した量子旗多様体 $X_q$ と その上の$\mathcal{D}$ 加群の圏が Luntz-Rosenberg により導入されました. ここでは $q$ は超越元とします. 量子旗多様体は「非可換射影的スキーム」であり,具体的には $U_q(\mathfrak{g})$ の双対 Hopf代数の次数付き部分代数上の 次数付き加群の圏をねじれ部分圏によって割った商として定義されます. また $X_q$上の $\mathcal{D}$加群の圏とは, $X_q$上の $q$差分作用素の環 $\widetilde{D}$ 上の ある種の次数付き加群の圏をねじれ部分圏で割った商です. Luntz-Rosenberg は, Beilinson-Bernstein対応の $q$類似として, $X_q$ 上の $\mathcal{D}$加群の圏と $U_q(\frak{g})$ の商に対する加群の圏とが 圏同値であることを予想しました。 $\widetilde{D}$ は定義によって非常に大きな代数になり,扱いが難しいのですが, 谷崎氏は $\widetilde{D}$ をより扱い易い部分代数 $D$ で置き換えて $X_q$上の $\mathcal{D}$加群の圏を再定義することで, Luntz-Rosenberg の予想(の変形版)を証明しました (T. Tanisaki: {\it The Beilinson-Bernstein correspondence for quantized enveloping algebras}, Math. Z. 2005; 通常の旗多様体の場合, $\widetilde{D}$ から構成しても, $D$ から出発しても, $\mathcal{D}_X$加群の圏は互いに同値になります). Beilinson-Bernstein 対応のさらなる拡張として, $q$ が1の巾根の場合の量子群についても,谷崎氏は精力的に研究を進めています. Bezrukavnikov-Mirkovic-Rumynin が示した, 正標数のリー代数の表現から定まる導来圏と 旗多様体上の$\mathcal{D}$加群の導来圏との同値性 (Beilinson-Bernstein対応の導来圏版)に 想を得たもので,各方面の注目を集めています. 以上のように、谷崎氏は一貫して Kazhdan-Lusztig予想, Beilinson-Bernstein対応という, 表現論の最も本質的な問題に果敢に挑戦し, 卓越した業績を挙げています, これらの結果を中心にリー代数,量子群の表現論への氏の貢献は多大であり, 代数学賞を受賞するにふさわしいものです.
| 並河良典氏の業績 |
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| 受賞業績の題目:3次元 Calabi-Yau 多様体と正則 symplectic 幾何の研究 |
並河氏は自明な標準因子をもつ多様体,特に3次元 Calabi-Yau 多様体と 高次元正則シンプレクティック多様体の研究において顕著な業績をあげてきました. 複素代数多様体は一般に複雑な構造をもっていますが, 「極小モデルプログラム」という自然な手順を踏むと, 標準因子が正,自明,負という3種の多様体に分解すると考えられています. このうち自明な標準因子をもつ代数多様体,より一般には 自明な標準因子をもつケーラー多様体は,さらに3種類の 基本要素に分解できます (Bogomolov 分解).3種とは 複素トーラス,Calabi-Yau (以下では略して CY)多様体, 正則シンプレクティック(以下では正則を省略)多様体で, このうち幾何学的にも興味深い後2種が並河氏のフィールドです, 2次元では CY もシンプレクティックも同じ$K3$曲面です. $K3$曲面とその変形の理論は豊かな内容をもち, 当然その高次元化が期待されますが, 3次元以上になると, これら2種には共通部分がありませんし, 性質も大きく異なります. また極小モデル理論を考えると,特異点をもつ場合をも扱う必要がでてきます. 並河氏は特異点付き CY 多様体,シンプレクティック多様体の変形理論 を研究し,特にスムージングに関して決定的な結果を証明しました. 最近ではリー環の随伴軌道の閉包について, そのシンプレクティック特異点解消を分類しポアソン変形を考察するなど, 研究の幅を広げつつあります. 並河氏の業績の第一は,3次元 CY 多様体のスムージング理論です. 3次元 CY 多様体は$K3$曲面の3次元版としてのみならず, 数理物理の弦モデルにおけるコンパクト化の材料として,多方面から関心をもたれています. 代数幾何からしても物理理論からいっても, 端末特異点を許して考えるのが自然なのですが, そのために変形論はかなり複雑になってしまいます. $K3$曲面の場合,変形の障害空間(接束の第2コホモロジー)が消えるため, 変形空間は必然的に非特異でした.しかし3次元以上になると 一般に障害空間は消えません. それにもかかわらず, 特異点のない CY 多様体の変形空間はスムーズであることが, 微分幾何的手法で示され (Bogomolov, Tian, Todorov), $T^1$持上げとホッジ理論を用いると代数的に証明することもできます(Z. Ran). 川又雄二郎氏との共著 {\it Logarithmic deformations of normal crossing varieties and smoothing of degenerate Calabi-Yau varieties}, Invent. Math. 1994 において, 並河氏は Ran の議論を対数幾何の思想で洗練し, 3次元単純正規交叉多様体 が非特異な CY 多様体に 平坦変形(スムージング)できるための十分条件を与えました. これは R. Friedmanが曲面で得ていた結果の飛躍的拡張で, 3次元 CY 多様体がミラー対称性で脚光を浴びていたこととあいまって 大きな注目を集めました. 一方同じ年発表の Y. Namikawa: {\it On deformations of Calabi-Yau $3$-folds with terminal singularities}, Topology 1994 に始まる一連の論文(Steenbrink氏との共著 Invent. Math., 1995 を含む)では, 端末的特異点のみをもつ3次元 CY 多様体がスムージング可能である条件を決定しました. たとえば $\Q$分解的な特異点しかなければ可能です. この定理のひとつの応用は Bogomolov 分解の一般化で, 小平次元0の3次元非特異射影的多様体は適当なエタール被覆をとると, a) 単連結,あるいは b) $K3$曲面と楕円曲線の直積に双有理同値, あるいは c) アーベル多様体に双有理同値のいずれかになる,というものです. 端末特異点よりも広いクラスである 標準特異点を許した3次元 CY 多様体の変形やスムージングも,興味ある問題です. 一般には未解決なのですが,並河氏はこの問題に関して 数理物理の文脈から提出された Morrison-Seiberg 予想を 解決しました (Y. Namikawa: {\it Global smoothing of Calabi-Yau threefolds, II}, Compositio. 2001). 3次元 CY が一段落すると, 並河氏の研究対象は高次元シンプレクティック多様体に移りました. ここでも特異点が問題となります. 商やモジュライとして自然に得られるシンプレクティック多様体は, 多くの場合特異点をもつので, 非特異なものを得るにはシンプレクティック特異点解消をするか, 変形でスムージングする必要があります. 例えば O'Grady は, ベクトル束のモジュライとして現れる10次元特異シンプレクティック多様体から, 前者の方法によって非特異シンプレクティック多様体の新種を構成しました. 並河氏はまず 特異点つきの変形理論と周期写像の基礎を固め, 次いでスムージングの問題に取り組んで, シンプレクティック特異点つきシンプレクティック多様体 $X$ に対する 以下の命題 a) b) が同値であることを証明しました (Y. Namikawa: {\it On deformations of $\mathbb{Q}$-facorial symplectic varieties}, Crelle J. 2006). \begin{itemize} \vspace{-2mm} \item[a)] 非特異シンプレクティック多様体による特異点解消 $f \colon Y \to X$ がある \vspace{-3mm} \item[b)] $X$ は(平坦)変形でスムージング可能 \end{itemize} \vspace{-2mm}\noindent 実をいうと証明時点では,$X$ についてひとつ仮定がついていたのですが, 一般型多様体に対する極小モデル予想が解決した現在,仮定はもはや不要です. 証明のポイントは, $\Q$分解的端末特異点つき正則シンプレクティック多様体 $Y$の変形が全て局所的に自明という, 3次元 CY の場合とは正反対の事実です. 現在並河氏が研究しているのは,羃零軌道から得られるシンプレクティック特異点です. 半単純リー群 $G$ の Lie環$\g$ への随伴作用を考え,$\0$を一つの冪零軌道とすると, 閉包 $\overline{\0}$ の特異点は全てシンプレクティックになります (Panyushev). このような特異点がいつシンプレクティック多様体によって特異点解消できるかを, 並河氏は決定しました. B. Fu は $\overline{\0}$ のシンプレクティック特異点解消がみな Springer 射 (適当な放物部分群 $P$に対する等質空間の余接束$T^*(G/P)$からの自然な射)であることを 証明していました. 並河氏は Springer 射に対する A, D, E型向井フロップの概念を導入し, $\overline{\0}$のシンプレクティック特異点解消を一つ与えると, どんなシンプレクティック特異点解消も, もととなるものに A, D, E型向井フロップを何度か施すことによって得られること, それらの特異点解消が互いに変形で移り合うことを示しました (Y. Namikawa: {\it Birational geometry of symplectic resolutions of nilpotent orbits}, Adv. Stud. Pure Math., 2006). かならずしも双有理的でない一般の Springer 射に対しても並河氏は類似の結果を得ています. 以上のように変形理論・特異点理論を 自明な標準因子をもつ多様体のクラスで高度かつ有用に展開した並河氏の業績は, 代数学賞にふさわいものです.
| 小木曽啓示 |
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| 受賞業績の題目:一般化されたカラービ・ヤウ多様体の研究 |
小木曽氏はK3 曲面, 楕円曲面の研究から出発し, その高次元版である広義Calabi-Yau 多様体に関する研究を行なってきました. これらは数論, 群論, 複素幾何学といった多方面にわたる数学と密接にかかわりがあり数理物理学とも深い関係を持つ分野であります. 氏の研究業績を5つにわけて概説します(以下I-Vにおいては敬称略). I:楕円曲面: 90 年代初頭, 塩田によりMordell-Weil 格子の理論が提唱された. 氏は塩田と共同で, 最も基本的な場合である有理楕円曲面のMordell-Weil 格子を完全に記述した[1-34](業績リストの論文番号). この結果は現在に至るまで国内外の多くの研究者に引用される基本的な結果である. また, Viehweg との共同研究において,代数曲面に対するShafarevich 予想を, 楕円曲面族の場合に解くことで完全に解決し[1-17], 後のViehweg-Zuo による一連の華々しい研究への1つの原動力を与えた. II:K3 曲面の群対称性: この分野に関する氏の研究は数多くあるが, おそらく氏が最も気に入っていると思われる研究は, 射影K3 曲面の1次元小変形に伴う全自己同型群の変動を明らかにした研究[1-12]であろう. 一般4 次曲面の自己同型は自明なものに限るが, その任意の非自明な射影変形には必ず全自己同型群が無限群になる4 次曲面が稠密に含まれるという意外な事実が系として従う. III. 狭義CY多様体: 3 次元狭義CY 多様体に付随するファイバー空間構造に対する粗分類定理を確立し, 第2Chern 類を収縮する特徴的なファイバー空間構造を明らかにした([1-33, 28, 26, 18, 2-7] 等). その1 つの応用として, 与えられた3 次元狭義CY 多様体に付随するabelian ファイバー空間の構造は(一般に無限個あるが) 同型を除いて有限個になることを示した. これら一連の研究で, 小木曽氏は1998年度日本数学会賞建部賞を受賞している. また, P5 内の一般(2, 4) 型完全交差型3 次元狭義CY 多様体には法束が(-1, -1) である任意次数の非特異有理曲線が存在することを示し, その応用として, 任意のケーラー多様体とは決して同相になり得ない3 次元Moishezon 多様体を構成した[1-30]. また近年, Nam-Hoon Leeとの共同研究において, 互いに双有理であるが互いに同相でなく, しかもrigid(すなわち非自明な小変形をもたない)だが平坦変形では移りあう3次元射影的CY多様体対の存在を, 射影空間のHilbert Schemeの連結性定理(Hartshorne)を用いて示している[3-4]. これら2つの研究[1-30, 3-4]は, (既存する)多様体に潜む, ある意味病理的であるが極めて意外性に富む現象の発見に関するものであり, 氏の数学的趣向の一面を如実に示す研究といえよう. IV. K3 曲面のFM 対: 1994 年にKontsevich はHomological ミラー予想を提唱し, 広義CY 多様体の研究に対する新たな視点を与えた. その枠組の中にFourier-向井(FM) 対は自然に現れる. まず, FM 対が無限に増大していくK3 曲面列の存在を導来圏のMukai-Orlov の理論と擬素数(almost prime number)に関するIwaniec の理論との接点を見出すことにより示した[1-16]. この研究を出発点に細野氏, Lian 氏, Yau 氏とのK3 曲面のFM 対, 導来圏の自己同値群に関する一連の共同研究[1-9,10,11, 2-2,3] が始まる. [1-9] ではK3曲面の導来圏の自己同値群の向井格子への表現を”ほぼ”完全に決定している. この研究において残されていた指数2の不確定性も, 後にHuybrechts らによって解決され, 最終型に至っている. [2-2] はK3 曲面のFM 対の個数を類数の言葉で明示的に与える基本的な結果である. [1-10] では, 塩田により30 年位前に(FM 対とは全く独立に) 提唱された古典的問題「クンマー曲面からもとのアーベル曲面は一意に復元できるか?」 に対する否定的完全解決を, 問題とFM 対との関連を明確にすることで鮮やかに与えている. V. コンパクト超ケーラー多様体: 狭義CY 多様体と並んで基本的なCY 多様体であるコンパクト超ケーラー(HK) 多様体の双有理型変換群について, [1-2] で非射影的な場合の群論的構造を決定し, [1-4] で射影的な場合のTits 型定理を示すことで, 非可換自由群と双有理変換群の更なる関係[1-1], より詳しい構造研究等への出発点を確立した. この研究は, K3 曲面の自己同型に関する先立つ研究([1-12] 等) の高次元化であるとともに, McMullen 氏による複素力学系の視点からの非射影的K3 曲面の自己同型に関する研究に触発されたものと思われる[1-3, 2-1]. 現在, 氏はHK 多様体のファイバー空間とそのMordell-Weil 群にも関心があり, 特異ファイバーの構造定理(Hwangとの共同研究)[3-2], generic fiberのPicard 数は常に1であること, Mordel-Weil群の変形における振る舞い[3-3] 等の基本的な結果を確立した. 特に, generic fiberのPicard 数が常に1であるという事実は意外性に富むものであり, 松下とVoisinによるLagrangianファイバー空間構造の変形法の比較によってなされるその証明は斬新である. 応用として, 現在知られている変形同値を除き5種あるHK 多様体に作用可能なアーベル群の階数は20 以下であること, 20 であるものが, (O’Gradyによる10次元HK多様体の変形の中に) 存在することを示している. また, 2n 次元HK 多様体の代数次元に関して, それらは常にn 以下または2n であること, ある種のコンパクトケーラー多様体に対してその極小モデルが存在すれば, 0, n, 2n のいずれかになること, 代数次元がn の場合には代数還元写像としてLagrangian ファイバー空間がとれること, 最初の非自明な場合である4 次元の場合には代数次元は0, 2, 4 のいずれかになること等を, Campana , Peternell との共同研究で示している[3-1]. 以上のように, 小木曽啓示氏は, 代数多様体のもっとも基本的なクラスのひとつである広義Calabi-Yau 多様体に関し, 多彩かつ重要な業績を次々と発表してきており, 国際的にも高く評価されています. 以上の業績は2009年度代数学賞受賞にふさわしい業績といえるものです.
| 雪江明彦 |
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| 受賞業績の題目:概均質ベクトル空間の数論的・幾何学的研究 |
雪江明彦氏は,概均質ベクトル空間の軌道の研究とその数論への応用に関して,多くの優れた幾何学的な方法を提出し,概均質ベクトル空間のゼータ関数の解析を通して,軌道と関係して現れる数論的な量の密度に関しての新たな結果を示し,また概均質ベクトル空間の軌道についての新たな問題を提起するなど,概均質ベクトル空間の理論及びその数論への応用の研究を大きく飛躍発展させました. 概均質ベクトル空間の生成点全体は,閉体上では一つの軌道をなしますが,一般の体上でこれらの軌道を記述することは重要で困難な問題です.一連の論文(Prehomogeneous vector spaces and field extensions, Invent. Math., 1992(D. Wright と共著), II, Invent. Math., 1997(A. Kable と共著), III, J. Number Theory, 1997)において,雪江氏は13個の概均質ベクトル空間に対し,一般の体上での生成点の集合の有理軌道(rational orbit)を決定しました.多くの場合,有理軌道の集合から,2,3,4,5次の多項式の分解体の同型類への自然な写像が構成され,その写像の各点の逆像が具体的に記述されるという形で与えられています.これらの結果は,概均質ベクトル空間の有理軌道が数論的な意味を持ち,代数体上の概均質ベクトル空間のゼータ関数を通して,2,3,4,5次拡大体の密度定理を導く可能性を示唆しており,その後の研究の出発点となっています. 概均質ベクトル空間の有理軌道の情報は,ゼータ関数の係数に反映されますが,直接ゼータ関数の係数に現れるのは整軌道(integral orbit)の情報です.整軌道の情報から有理軌道の数論的な量の密度定理を導くには,D. Wright により考え出された,filtering processと呼ばれる方法があります.しかし,これを実行するには,ゼータ関数の解析的な性質について,詳細な情報が必要になります.ゼータ関数の解析的性質を調べるには,概均質ベクトル空間の特異集合の有理軌道の考察が不可欠です.雪江氏は (Shintani zeta functions, London Math. Society Lecture Series, 183, 1993)において,概均質ベクトル空間の軌道を幾何学的不変式論の立場から考察し,有理軌道のMorse stratification を用いてゼータ関数の解析的性質を考察する一般的プログラムを提出し,それを4次拡大体に対応する場合に,膨大な計算により実行し,ゼータ関数の主要部を決定しています.雪江氏は,これを用いて,二つの素点での条件を付した4次拡大の個数の判別式に関する密度を決定し,さらに条件を付けない場合の予想を提出しています(Density theorems related to prehomogeneous vector spaces,数理解析研究所講究録1173,2000).この結果は,B. Davenport-H. Heilbronn、及び B. Datskovsky-D. Wright の3次体の結果からの大きな前進です.この予想の有理数体上の場合は,ゼータ関数を用いない方法により,2005年 M. Bhargavaにより解決されました. 雪江氏は,2変数エルミート形式の対の空間の場合にも,一般的プログラム実行し,その結果を用いて,A. Kable との共著(The mean value of the product of class numbers of paired quadratic fields I, Tohoku Math. J., 2002, II, J. Number Theory, 2003)で,定められた2次拡大体を含む,$Z_2 \times Z_2$ の形のガロア群を持つ4次拡大(biquadratic extension)の場合に,類数と単数基準の積の密度を与えました.これは,D. Goldfeld と J. Hoffstein による2次体の結果の拡張を与えています. 5次拡大に対応する概均質ベクトル空間は,概均質ベクトル空間のなかでも最も複雑なものです.雪江氏は(On the space of quadruples of quinary alternating forms, J. Pure Appl. Algebra, 2004, A construction of quintic rings, Nagoya Math. J., 2004, On the number of quintic fields, Invent. Math., 2005)において,この空間の整軌道から,整数環上5次の環(quinary ring)の同型類への判別式を保つ軌道ー環写像(orbit-ring map)を構成しました.これは,4個の5次の交代行列の組から,整数環上5次の環のを構成するもので,B. N. Delone, D. K. Faddeev が2変数の3次形式から,3次の環を構成した結果の大きな一般化です.この結果と,ゼータ積分の収束域を決定することにより,5次体の個数の判別式に関する評価を与えました. Oppenheim 予想は,不定値二次形式の整数点での値に関する予想ですが,G. A. Margulis により,エルゴード理論の問題と解釈され,証明されました.雪江氏は,一連の論文(Prehomogeneous vector spaces and ergodic theory I, Duke Math. J., 1977, II. Trans. Amer. Math. Soc., 2000(D. Witte,R. Zierau と共著),III, J. Number Thoery, 1998)において,Margulis の結果が,対称行列のなす概均質ベクトル空間の軌道についての結果と見なすことが出来ることに注意し,この類似を一般の概均質ベクトル空間で考察するという問題を提出し,いくつかの場合にこれを実行し,概均質ベクトル空間と関係して現れる高次形式についての数論的な結果を示しました.これは,概均質ベクトル空間の軌道についての研究の新たな方向への展開と思われます. さらに,対称行列のなす概均質ベクトル空間を用いて,正規化されない玉河数の密度の研究を進めています. 雪江氏は,新谷卓郎氏により創始された概均質ベクトル空間の理論の数論への応用について,幾何学から多くの優れた方法を導入し,所期の予想を超える多くの深い結果を示し,この研究を大きく発展させ、更にに研究を進めています.その研究は,M. Bhargava の一連の研究にも大きな影響を与えています.以上のように、雪江氏の業績は,代数学賞にふさわしいものです.
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