報告 日韓女性数学者シンポジウム 2011
「日本と韓国の女性数学者の現状と今後の課題」

報告 日韓女性数学者シンポジウム 2011
「日本と韓国の女性数学者の現状と今後の課題」

去る 9 月 30 日, 日本数学会秋季総合分科会・第 V 会場において, 表題の集会を開催した. 日本数学会主催, 日本数学会男女共同参画社会推進委員会の後援である. 集会の目的は, 日本と韓国の女性数学者の現状および今後の課題についての意見交換であり, そのために, 日本と韓国の数学者たちによる講演及びパネル討論を行った. この集会のために韓国から 3 名の女性数学者を招聘し, また, 日韓数学会の交流事業のために来日された大韓数学会代表団の 3 名の数学者(男性)にもご参加いただいた. 参加者総数は, 約 25 名であった.

16 時から 1 時間半という短時間の集会であったが, 盛りだくさんの報告・提案・意見交換 があり, 会の目的は十分に達せられた. 会場の設営にご尽力くださった信州大学の皆様, 集会にご参加くださった皆様に感謝申し上げたい. 以下に, 集会の内容を簡単に報告する.

日本数学会理事長・宮岡洋一氏(東京大学)の開会挨拶に続き, 二つの基調講演を行った. 一つ目は韓国女性数学会理事長・Young Hee Kim 氏(韓国女性数学会理事長, Chungbuk National University), 二つ目は日本数学会男女共同参画社会推進委員会委員長・宮岡礼子氏(東北大学)によるものである.

Kim 氏は, “Current Status and Issues of Women Mathematicians in Korea”と題し, 韓国における科学工学分野の女性研究者の現状と女性研究者への支援事業, 韓国女性数学会について講演された. 著しいデータとして, 数学では, 学部卒人口は男女概ね同数(日本の状 況とは全く異なる)であるのに対し, 修士課程修了, 博士課程修了, 助教, 准教授, 教授と, だんだん男女の人数差が開いていき, 教授では 90%が男性となること(2008 年のデー タ)が紹介された. しかし 2005 年から 2008 年にかけて徐々に女性研究者の雇用が拡大してきたことも報告された. また, 韓国女性数学会(会員数 387. 内, 男性会員数 18)については, 政府への提言, 研究集会開催, 顕彰事業, 若手研究者への旅費援助, 一般向け講演会等の開催, 等を行い, 女性数学者の活動の活発化や雇用拡大に貢献してきたとの報告があった.

宮岡礼子氏は「日本の女性研究者育成支援政策とその現状」と題して講演された. 女性研究者育成支援政策の紹介, 少子化のなかで女性という資源を活用することの必要性, 一方で, 男性研究者の子供の数の平均が 2 であるのに対し女性研究者の 2/3 は子供がいないという現状, 女性研究者の家族との別居率の高さ等が指摘された. また, 先進国における女性科学者の割合(2010 年)について, 最低は日本の 13.6%, 次いで韓国の 15.6%, ドイツの 21.3%,等のデータが紹介された. なお, 日本数学会における女性会員の割合は約 6%(学生会員で は 19%), 評議員や各種委員会における女性の割合も概ね 6%である.

基調講演の後, パネル討論を行った. パネリストは, Sun Young Jang 氏(前韓国女性数学会理事長, Ulsan University), JongHae Keum 氏(KIAS 副理事長), OhNam Kwon 氏(Seoul National University), 森田康夫氏(日本数学会元理事長, 東北大学), 小谷元子氏(日本数学会理事, 東北大学), 進行役を小磯深幸(日本数学会理事, 九州大学)が務めた. 以下に, その内容と, パネル討論後の質疑応答の内容を報告する.

まず始めに, 韓国における女性数学者のネットワーク, それが女性数学者の雇用拡大を促したこと, 女性が直面する共通の困難を共有することによる効果について報告がなされた. また, 2003 年から 2005 年にかけて韓国の主要国立大学に女性教授のポストが新設され, たとえばソウル国立大学(SNU)の数学教室・数学教育教室では, 2003年に3名であった女性教授数が 2011 年には 8 名となっていることが報告された. また, SNU女性教員評議会の働きかけにより, ソウル国立大学では, 2010年よりSTC(Stop Tenure Clock)制度が施行されているとの報告もあった. これは, 女性教員の妊娠・出産・子育て期間中, テニュア取得のための審査期間を定められた年限以内で延長できるという制度である. 以下は, 日韓に共通する話題である. 女性の数学教員や数学者が少ないという事実の背景には, 数学や数学者に対する誤ったイメージがあることが指摘された. 即ち, 数学は男性が得手とする分野である, 数学者には奇人変人が多いという先入観である. また, 高等学校(特に日本)や大学における数学の女性教員が少ないことから, 女子学生が数学の教員を自分の将来像として思い描きにくいことも指摘された. さらに, 女性が専門的な職業と家庭生活を両立させることにおけるさまざまな困難がパネリストからも聴衆からも報告された. こういったことから, 男女共同参画は政治的問題・社会的問題・文化的問題であること, 環境整備, 法整備, ワークシェア, 子育て中の評価や子育て後の復帰プログラムの必要性等が指摘された. さらに, 優れた女性研究者育成のためには裾野を広げることが不可欠であり, そのためには多様なロールモデルが必要であるということも語られた. また, 数学者(男女にかかわらず)が, 一般向けの講演や著作をもっと行い, 数学や数学者に対してより良い認識をもってもらうための努力をすることの必要性も語られた.

女性研究者の育成や環境改善は男性研究者の育成や環境改善にもつながるとの指摘があったことも記録しておきたい.

最後に, 前述の Sun Young Jang 氏が閉会の挨拶をされ, 日韓の今後の協力・交流と男女共同参画の進展を期待する言葉を述べられた.

なお, 全体の司会・進行は平田典子氏(日本数学会理事, 日本大学)が担当された. また, 本シンポジウムの世話人は, 平田典子氏, 小谷元子氏, 小磯深幸が務めた.

(文責:小磯深幸(九州大学))