第23回(2024年度)解析学賞

受賞者

業績題目

田中仁(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)

直積型分数冪積分作用素の重み付きノルム不等式や掛谷問題に関連する最大作用素などの実解析学的研究

内藤雄基(広島大学大学院先進理工系科学研究科)

球対称解をコアとする非線形楕円型・放物型方程式の精密解析

福島竜輝(筑波大学数理物質系)

ランダム媒質から誘導される複雑な系上の統計力学模型の解析

【選考委員会構成】
小池健一,後藤竜司(委員会担当理事),貞末岳,柴田徹太郎,高橋太,高山茂晴(委員長),種村秀紀,和地輝仁


受賞者

福島竜輝(筑波大学数理物質系)

業績題目

ランダム媒質から誘導される複雑な系上の統計力学模型の解析

受賞理由

確率論は統計力学との関わりも深く,近年でも統計力学に由来する問題に双方の研究者が取り組んでいる状況である.福島竜輝氏は統計力学模型の中でも特にランダム媒質中で発展する模型について数々の結果を与えている.
ランダムなポテンシャル項を持つシュレディンガー作用素に対応する拡散方程式を考えると,この解は Feynman-Kac の公式によりブラウン運動を用いて明示的に表現できる.例えばポテンシャルが正の無限大の値を取るとき,この表現は障害物に衝突すると即座に死滅するようなブラウン運動という統計力学模型に対応している.このような死滅時間を持つブラウン運動の解析はランダムシュレディンガー作用素の固有値の解析との関連で,1970年代から盛んに研究されてきた.特に1990年代ごろは E. Bolthausen 氏や A.S. Sznitman 氏といった研究者が多くの結果を与えた.
福島氏の研究は多岐に渡っておりすべてを説明し尽くすことは困難であるが,近年の代表的なものとしては J. Ding 氏,R. Sun 氏,C. Xu 氏らとの共同研究のランダム環境中のランダムウォークの挙動に関するものが挙げられる.福島氏らはランダムシュレディンガー作用素の固有値の詳細な解析などを行うことで固定したランダム媒質中で生存すると条件付けたランダムウォークに関する局所極限定理を与えることに成功し,Sznitman 氏による局在化の結果を大きく進展させている.またランダム媒質に関する平均をとることで自己吸引的なランダムウォークが,ある大きさの球を埋め尽くすという ball covering に関する未解決問題も解決している.この解析ではランダム媒質ではない模型の問題をランダム環境中のランダムウォークに帰着させる手法で行ったことは非常に興味深い.
その他,ランダム媒質中のディレクティドブラウン運動やランダムな風景の中のランダムウォークなど多様の模型に対して研究を行っている.これらは解析学賞にふさわしい優れた研究業績である.