第23回(2024年度)解析学賞

受賞者

業績題目

田中仁(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)

直積型分数冪積分作用素の重み付きノルム不等式や掛谷問題に関連する最大作用素などの実解析学的研究

内藤雄基(広島大学大学院先進理工系科学研究科)

球対称解をコアとする非線形楕円型・放物型方程式の精密解析

福島竜輝(筑波大学数理物質系)

ランダム媒質から誘導される複雑な系上の統計力学模型の解析

【選考委員会構成】
小池健一,後藤竜司(委員会担当理事),貞末岳,柴田徹太郎,高橋太,高山茂晴(委員長),種村秀紀,和地輝仁


受賞者

田中仁(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)

業績題目

直積型分数冪積分作用素の重み付きノルム不等式や掛谷問題に関連する最大作用素などの実解析学的研究

受賞理由

田中仁氏は,実解析学の分野において30年に亘って目覚ましい成果を挙げ続けてきた.最近5年間に亘る成果も極めて目覚ましい.長らく懸案であった問題を解決したり,自身の以前の研究を深化させたり,また,多くの共同研究者と共に成果を挙げてきた.モーリー空間論を深化させた研究,ポテンシャル論に由来する研究などもあるが,以下では,(1)初期からの研究(掛谷問題と関連する最大作用素),及び,(2)最近の主たる研究(直積型分数冪積分作用素の重み付きルベーグ空間上の有界性)について詳述する.(1)「掛谷集合」に関する掛谷問題では,猪狩惺氏,Bourgain や Wolff らの研究に影響を受けつつ,適切な最大作用素の探索と付随する重み関数を伴う Fefferman-Stein 型の不等式の研究を精力的に行ってきた.幾何学的な「掛谷的複雑さ」を表現する数学的手段の不足を補うべく,一貫してこの問題に取り組んできた.(2)Fefferman-Stein に始まる「直積空間上の実解析」の分野では,Sawyer-Wheeden が示した分数冪積分作用素に対する重み付きノルム不等式の「自然な直積版」を与えることに成功した.重み関数を用いて,cube の直積である rectangle の大きさを cube の2進分割を考慮に入れながら測るという,幾何学的にも興味深い条件を与えた.更に,薮田公三氏との共同研究で与えられた Carleson 型の埋め込み定理の直積版を考えた.関数と重み関数のペアに対して特別な cube の集合を定義し,帰納法を用いて埋め込み定理の直積版を考えたのである.以上のようなことから,田中仁氏は,特に実解析学の分野の発展に対して多大な功績を産出し続けた屈指の功労者であり,その貢献度の大きさから,日本数学会解析学賞を授与されるに相応しい研究者であると断言できる.