第三回(2011年度)福原賞
受賞者 | 業績題目 |
片山聡一郎(和歌山大学教育学部) | 非線形波動方程式の大域的古典解の研究 |
高橋太(大阪市立大学大学院理学研究科) | 非線形楕円型偏微分方程式に関する非退化臨界点の研究 |
中野史彦(学習院大学理学部) | シュレディンガー方程式および関連する数理物理モデルの解析学的研究 |
【選考委員会構成】
竹井義次(委員長),中村周,中村玄,小川卓克,長澤壯之,倉田和浩,杉本充,中西賢次,林仲夫,足立匡義,柴田徹太郎,小林孝行,木村弘信,西原健二
受賞者 |
中野史彦(学習院大学理学部) |
業績題目 |
シュレディンガー方程式および関連する数理物理モデルの解析学的研究 |
受賞理由 |
中野史彦氏はシュレディンガー方程式を中心に,物理学に現れる数学的構造の研究において優れた研究結果を挙げ,現在もさらにその研究領域を広げつつある,注目すべき数学者である.初期の業績で注目すべきものは,量子ホール効果に現れるホール伝導度の厳密な導出である.伝導度の厳密な導出は,やや形式的な場合の多いホール伝導度の量子化の議論と,シュレディンガー方程式の時間発展とを結ぶ,重要な結節点である.また E. Lieb の切り開いた多体クーロン系の固有値評価(「物質の安定性」)に関するいくつかの優れた論文も書いており,その研究の視野の広さが窺われる.近年において注目すべき研究成果は,アンダーソン・モデルに代表されるランダム・シュレディンガー作用素のスペクトルの詳細な構造を記述する「準位統計」の研究であろう.準位統計は,アンダーソン局在(スペクトルが稠密な点スペクトルである状態)が得られたモデルの,ボックス近似が真のモデルに近づく時の固有値の漸近的な分布を調べる問題で,近年におけるこの分野の中心的な研究課題になっている.中野氏は,固有値だけではなく,固有関数の空間的分布を含めた,「エネルギー・座標」空間でのポアッソン型の分布の証明などで注目を集めた.さらに最近では,ドミノタイリングなど,準周期系の統計力学に関わる研究においても多くの研究成果を挙げており,更なる活躍が期待され,その業績はまさに福原賞授賞にふさわしいものである. |