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2023年度日本数学会出版賞

2023年度日本数学会出版賞は以下の方に授賞されます。

岡本健太郎『アートで魅せる数学の世界』(技術評論社、2021年)
美しい図版に溢れた魅力的な本である。数学の世界には視覚的に美しいものが数多く存在する。本書は視覚をきっかけとして数学の世界に存在する興味深い対象を紹介する著作で、各対象の背景にある数学的な内容を、まったく手を抜かずに、しかもわかりやすく解説する姿勢が貫かれている。さらに折り紙と関連する作業や、表計算ソフトを用いたグラフィックの演習など、単に見るだけではなく読者が自ら数学的対象を観察し、考えることができるような工夫がなされている。五感を通して数学を楽しむ機会を提供する良書であり、数学の普及に大きく貢献するものと期待される。
飯高茂
飯高茂氏は代数幾何学に関する本格的な教科書や入門書を執筆し、その分野の研究と教育において大きな役割を果たすとともに、数学を専門としない一般の読者にも楽しめるような書籍を執筆し数学の普及に貢献してきた。また、様々なシリーズの編集にも携わっており、その中の一つであるシリーズ「数学のかんどころ」は素朴な話題から専門的な対象までを取り上げ、数学ファンから専門的な数学を学び始めた学生まで幅広い層に向け、読者を引き込む工夫がなされた優れた書籍を多数刊行している。飯高氏の長年にわたる精力的な出版活動による数学の研究・教育・普及への寄与は出版賞に値するものである。
梅田亨
梅田亨氏による日本語の単行本には、月刊誌「数学セミナー」の連載から生まれた「徹底入門解析学」、「森毅の主題による変奏曲(上)(下)」の他に、放送大学のテキスト「代数の考え方」がある。いずれの著作も啓蒙的である一方で、読み物としての魅力にも溢れている。教科書でとり上げられる内容を扱ってはいるが、そこには独自の切り口による警句が満ちている。「連続函数のリーマン積分可能性には一様連続性が必要」だという<迷信>についての「歴史的」考察はその一例である。「思う存分時間をかける贅沢を味わってほしい」との意図のもとに書かれた、決して単純に「わかりやすい」わけではない本によってこそ伝えられる数学の醍醐味もある。梅田氏の著作は、学生のみならず広い分野の理系の研究者、そして数学ファンにとって貴重な資料であるだけでなく、研究・教育の道標であり、学問の深い喜びまでも提供してくれる。また共著「ゼータの世界」や共編著「多変数超幾何函数」などの著作活動を通しても、梅田氏の数学の教育・普及への貢献は大きく、出版賞に相応しいものである。