第5回(2006年度)解析学賞

受賞者

業績題目

小沢登高(東京大学大学院数理科学研究科)

$II_1$-型因子環の構造解析

木上淳(京都大学大学院情報学研究科)

フラクタル上の解析学の基礎付け

吉田朋広(東京大学大学院数理科学研究科)

確率過程に対する漸近展開理論,統計推測理論の研究とその応用

【選考委員会構成】
赤平昌文,河東泰之,小林和夫,佐藤宏樹,中尾愼宏(委員長),二木昭人(委員会担当理事),舟木直久,柳田英二


受賞者

木上淳(京都大学大学院情報学研究科)

業績題目

フラクタル上の解析学の基礎付け

受賞理由

木上淳氏は,世界に先駆けてシェルピンスキーガスケット上にラプラス作用素を構成し,さらに有限分岐的なフラクタル上にディリクレ形式やラプラス作用素を構成するための一般論を展開した.その成果は,2001年出版の著書「Analysis on fractals」に結実している.書中で木上氏は,resistance form と呼ばれる概念を導入し,対応する拡散過程が強い再帰性をもつようなディリクレ形式を,有効抵抗を用いて効果的に解析する理論を展開している.この理論は,調和解析学・確率論・幾何学など広範囲の研究者に強い影響を与え,上記著書はフラクタル上の解析学に関する良書として,研究者必携の書となっている.
木上氏はさらに,resistance form に関する研究を深化させ,有効抵抗距離と呼ばれる距離を用いて Green 関数や調和関数の詳細な性質を調べた.Resistance form は,有限分岐的なフラクタル上の自然なディリクレ形式をはじめとして数多くの例を含んだ重要な範疇であり,木上氏の一連の研究は,様々な数学の分野で応用され発展している.
B. M. Hambly 氏,熊谷隆氏との共同研究では,フラクタル上に自己相似なディリクレ形式が与えられたとき,基礎となる測度を別の自己相似測度に変えることにより,対応する自己共役作用素のスペクトルの挙動がどのように変化するかを調べ,固有値の漸近挙動にマルチフラクタル性が現れることを解析した.2004年の論文では,解析学の重要な不等式である Nash 不等式の局所版を提唱し,熱核が上から劣ガウス型評価を持つための必要十分条件を,局所 Nash 不等式と脱出時刻に関する評価を用いて与えた.
このように木上氏は,幅広い分野の研究者に影響を与える著しい業績を挙げており,同氏の業績はまことに解析学賞にふさわしい.