第5回(2006年度)解析学賞

受賞者

業績題目

小沢登高(東京大学大学院数理科学研究科)

$II_1$-型因子環の構造解析

木上淳(京都大学大学院情報学研究科)

フラクタル上の解析学の基礎付け

吉田朋広(東京大学大学院数理科学研究科)

確率過程に対する漸近展開理論,統計推測理論の研究とその応用

【選考委員会構成】
赤平昌文,河東泰之,小林和夫,佐藤宏樹,中尾愼宏(委員長),二木昭人(委員会担当理事),舟木直久,柳田英二


受賞者

小沢登高(東京大学大学院数理科学研究科)

業績題目

$II_1$-型因子環の構造解析

受賞理由

小沢氏は,作用素環論において衝撃的な結果を連発しており,すでに新しい世代の世界的リーダーである.離散群の完全性の特徴づけ,可分 $C^*$-環の純粋状態空間の等質性(岸本,境両氏との共著),$AF$-環への埋め込み問題の研究,可分普遍 $II_1$-factor の非存在など,著名な結果は数多いが,ここでは業績題目「$II_1$-型因子環の構造解析」に直接関係する3編の論文について述べる.
まず,2004年に小沢氏は,双曲群の von Neumann 群環においては,極小射影を持たない部分環の相対可換子環は常に単射的であることを示した.これより前の1998年に M. Ge 氏は,自由群の von Neumann 群環が無限次元環二つのテンソル積に分解しないという有名な結果を示していたが,この Ge の定理のはるかに強い一般化が,小沢氏の結果の系として直ちに従う.証明の方法も斬新で,Ge 氏の路線とはまったく異なるものである.
ついで S. Popa 氏と共にこの結果の応用として,双曲群の von Neumann 群環のテンソル積について,しかるべき意味でのテンソル積分解の一意性を示した.これによりたとえば,自由群因子環 $n$ 個のテンソル積は $n>m$ の時,$m$ 個のテンソル積には埋め込めないことがわかる.これは有名な未解決問題をはるかに強い形で解決したことになっている.
さらに続けて,$II_1$-型因子環の自由積について,群論における Kurosh の定理の類似を得た.特に,ある種の von Neumann 群環 $M$ について,$n$ 個のコピーから自由べきを作ると,できる作用素環は $n$ ごとに異なることがわかる.自由確率論における驚異的な結果である.
以上いずれも,驚くべき方法によって,驚くべき結果があっという間に証明されており,今後の作用素環論の進むべき方向を示す,きわめて重要な結果である.解析学賞を授与するのは当然のことと言えよう.