第4回(2005年度)解析学賞

受賞者

業績題目

中西賢次(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)

エネルギー凝縮と非線形波動の漸近解析

藤原英徳(近畿大学産業理工学部)

冪零および可解リー群のユニタリ表現と可換性予想の解決

吉田伸生(京都大学大学院理学研究科)

確率解析による統計物理学的モデルの研究

【選考委員会構成】
石井仁司(委員長),岡沢登,中村玄,野口潤次郎,舟木直久,松本堯生(理事会推薦),吉田朋広,若山正人


受賞者

吉田伸生(京都大学大学院理学研究科)

業績題目

確率解析による統計物理学的モデルの研究

受賞理由

吉田伸生氏の最近の研究テーマは,「ランダムウォークの統計力学」および「格子スピン系の相転移と緩和現象」である.吉田氏は,このような統計物理学に関わる問題について,確率解析の手法を駆使し,深い理解に基づく解析を行い,近年著しい成果を挙げている.特に,統計物理学的モデルにおける新たな相転移現象の発見は,国際的に高く評価されている.
ランダムウォーク,あるいはその連続化としてのブラウン運動は,高分子の数学模型として用いられる.吉田氏は F.Comets 氏,志賀徳造氏との共同研究において,ランダム媒質中の向きづけられた高分子鎖が,3次元以上では媒質との相互作用の強弱により全く異質の形状を呈し,「超拡散/拡散」転移を起こすことを証明した.一方,2次元では常に超拡散的である.特に吉田氏はブラウン運動に基づく連続モデルを提唱し,その結果,精緻な解析が可能になり,揺らぎ指数に対する重要な不等式の導出に成功した.また,種村秀紀氏と共同で,互いに吸着力が働く複数のランダムウォークについて「局在/非局在」転移の存在を示し,さらに磯崎泰樹氏と共同で,界面モデルにおける濡れ転移の解析を行い,壁面からの吸引力の大小によるランダムウォークの「局在/非局在」転移を明らかにし,非局在時に尺度極限を論じた.
一方,緩和現象について,吉田氏は K.Alexander 氏,樋口保成氏と共同で2次元確率 Ising モデルの解析を行い,相転移領域において一般の境界条件の下で,スペクトルの跳びに関する結果を導き,緩和速度が極めて遅いことを証明した.さらに,非有界スピン系にも適用可能な手法を開発し,対数ソボレフ不等式に関わる難問を解決した.
以上のように,吉田氏は統計物理学に動機づけられた問題から出発し,確率解析を広範に応用して目覚しい成果を挙げており,同氏の業績は解析学賞にふさわしい.