第4回(2005年度)解析学賞

受賞者

業績題目

中西賢次(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)

エネルギー凝縮と非線形波動の漸近解析

藤原英徳(近畿大学産業理工学部)

冪零および可解リー群のユニタリ表現と可換性予想の解決

吉田伸生(京都大学大学院理学研究科)

確率解析による統計物理学的モデルの研究

【選考委員会構成】
石井仁司(委員長),岡沢登,中村玄,野口潤次郎,舟木直久,松本堯生(理事会推薦),吉田朋広,若山正人


受賞者

中西賢次(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)

業績題目

エネルギー凝縮と非線形波動の漸近解析

受賞理由

エネルギー空間(通常は,ソボレフ空間 $H^1(\mathbf{R}^n)$)は,非線形偏微分方程式の解を考える関数空間として,数学的にも物理的にも自然な空間である.しかし,非線形相互作用により,無限遠を含む $\mathbf{R}^n$ のある点の近傍で,解のエネルギーの塊が生じたり,あるいはさらにエネルギー凝縮が起こる可能性がある.そして,このようなエネルギーの集中は,解の大域的な性質を決定する.中西賢次氏は,Bourgain(1999)がソボレフ臨界指数の非線形性を持つ Schrödinger 方程式に用いた議論を発展させ優れた研究業績を挙げた.
中西氏の研究業績は,以下の三つに要約される.一つは,空間1次元と2次元の非線形 Klein-Gordon 方程式と Schrödinger 方程式に対するエネルギー散乱理論の構成である.これは,1985年に GinibreVelo が空間3次元以上を解決して以来の未解決問題であったが,中西氏は時間変数を含む新しい Morawetz 不等式を開発し,これを用いてエネルギー塊が生じないことを示した.二つ目は,Maxwell-Dirac 方程式の初期値問題に対するエネルギー空間における弱解の存在と一意性である.1994年に KlainermanMachedon が,Maxwell-Klein-Gordon 方程式の初期値問題に対しエネルギー空間における適切性を示したが,それと類似の構造を持つ Maxwell-Dirac 方程式については未解決のままであった.中西氏は Masmoudi 氏とともに,短い時間内ではエネルギー凝縮が起こらないことを示した.三つ目は,相対論的波動方程式の光速を無限大にしたときの非相対論的極限を考え,Masmoudi 氏とともに,極限移行の際に生じる特異性(すなわち,エネルギー凝縮)を特徴付け新しい評価式を得た.これにより,どのような場合にどの極限に移行するのか,ほぼ完全に分類することに成功した.
以上,中西賢次氏の研究業績は優れたものであり,解析学賞にふさわしいものである.