第24回(2025年度)解析学賞

受賞者

業績題目

赤木剛朗(東北大学大学院理学研究科)

退化放物型偏微分方程式の函数解析的理論の展開

David Croydon(京都大学数理解析研究所)

ランダムグラフ上のランダムウォーク・離散可積分系とそれらのスケール極限の研究

谷口雅治(岡山大学学術研究院先鋭研究領域)

反応拡散方程式における多次元フロント解と全域解の研究

【選考委員会構成】
内田雅之,隠居良行(委員長),熊谷隆,後藤竜司(委員会担当理事),白川健,内藤雄基,増田俊彦,松崎克彦


受賞者

David Croydon(京都大学数理解析研究所)

業績題目

ランダムグラフ上のランダムウォーク・離散可積分系とそれらのスケール極限の研究

受賞理由

ランダムグラフは統計物理学や情報科学の様々な文脈において自然に現れ,両分野および確率論の多数の研究者により活発に研究されている.多くの典型的なランダムグラフの模型は,ランダムネスを定める確率にパラメーターが付いており,あるパラメーター値(臨界点)を境にグラフの巨視的な性質が大きく変化する相転移現象を示す.臨界的なランダムグラフの「フラクタル的」挙動を純粋数学として厳密な形で定式化し証明することは,現代確率論の大きな潮流の一つであるrandom geometryの中心課題である.
David Croydon氏は,臨界的なランダムグラフ,およびそのスケール極限として現れるランダムフラクタルにおける確率過程の研究で重要な業績を多数挙げている.特に,ランダムツリー上のランダムウォークとそのスケール極限に関する体系的な研究,ランダムグラフ上のランダムウォークのスケール列の局所中心極限定理に関する一般論の構築,有効抵抗形式と呼ばれる範疇でランダムウォークがスケール極限を持つための十分条件の確立など,具体例の解析と一般論の構築の双方で深遠かつ適用範囲の広い結果を導出し,極めて大きな貢献をしている.
さらに,ここ数年の佐々田槙子氏らとの一連の共同研究では,確率論においてPitman変換の名で知られる実数値確率過程に対する操作がある古典的な離散可積分系の時間発展を与える写像に現れることを看破し,不変確率測度の同定やスケール極限(一般化流体力学極限)の存在証明を達成するなど,離散可積分系の確率論・統計物理の立場からの理解を飛躍的に進展させた.
これらの研究業績は時間発展するランダムな系とそのスケール極限に対する解析学の研究を大いに進展させた極めて価値の高いものであり,日本数学会解析学賞を受賞するに相応しい.