第22回(2023年度)解析学賞

受賞者

業績題目

太田雅人(東京理科大学理学部第一部)

非線形シュレディンガー方程式に対する定在波の強不安定性解析

田中直樹(静岡大学理学部)

発展方程式に対する抽象理論の研究

藤越康祝(広島大学名誉教授)

高次元統計学におけるモデル選択理論の研究

【選考委員会構成】
赤木剛朗,片山聡一郎,熊谷隆(委員長),佐々木格,角大輝,高橋太,田中真紀子(委員会担当理事),富澤貞男


受賞者

藤越康祝(広島大学名誉教授)

業績題目

高次元統計学におけるモデル選択理論の研究

受賞理由

藤越康祝氏は,数理統計学の研究,特に多変量解析における検定統計量の漸近理論の開発,変数選択基準の提案とその性質の解明に取り組み,長きにわたり我が国の理論統計学を牽引してきた.初期の有名な研究では,標本数のみを無限にする従来の漸近理論により,多変量解析における代表的な検定統計量の検出力の漸近挙動を明らかにしている.一方で近年,ビッグデータに対応した高次元統計学の研究が求められている.具体的には,標本数だけでなく変数の個数も一緒に無限とする,新しいタイプの漸近理論である高次元漸近理論の下での理論研究である.統計的データ解析を行う際には,適切な統計モデルをどのように決定するか,というモデル選択が問題となり,赤池情報量規準(AIC)とベイズ型情報量規準(BIC)の最小化に基づくモデル選択法がよく用いられる.標本数を無限にした場合に,確率 1 で正しいモデルを選択する性質をモデル選択の一致性といい,好ましい性質の一つとされる.従来の漸近理論の下では BIC は一致性を持つが AIC は一致性を持たないことが知られている.藤越氏は,いくらかの多変量モデルのモデル選択,具体的には主成分分析における主成分数の選択,多変量線形回帰や正準相関モデルの変数選択などにおいて,高次元漸近理論を用いてモデル選択法の一致性を評価した場合,従来の漸近理論で得られる結果とは全く逆の結果,つまり,AIC が一致性を持ち BIC が一致性を持たないという逆転現象が起こることを明らかにした.藤越氏のこれら一連の高次元統計学における逆説的な結果は,世界中の研究者から驚きをもって受け止められ,長年のモデル選択の理論研究に,新たな一石を投じることとなった.
以上のように,藤越氏の高次元漸近理論に基づく変数選択問題に関する優れた研究成果は,近年の高次元統計学分野の発展に大きく貢献し,国際的にも高く評価されており,同氏の研究業績は解析学賞に誠にふさわしいものである.