第22回(2023年度)解析学賞

受賞者

業績題目

太田雅人(東京理科大学理学部第一部)

非線形シュレディンガー方程式に対する定在波の強不安定性解析

田中直樹(静岡大学理学部)

発展方程式に対する抽象理論の研究

藤越康祝(広島大学名誉教授)

高次元統計学におけるモデル選択理論の研究

【選考委員会構成】
赤木剛朗,片山聡一郎,熊谷隆(委員長),佐々木格,角大輝,高橋太,田中真紀子(委員会担当理事),富澤貞男


受賞者

田中直樹(静岡大学理学部)

業績題目

発展方程式に対する抽象理論の研究

受賞理由

発展方程式は(しばしば無限次元の)抽象的空間における微分方程式を指し,通常,作用素を含む形で与えられる.発展方程式を定める作用素から半群を生成する流れと,逆に半群を与えてそれに対応する無限小生成作用素(ひいては発展方程式)を決定する流れを合わせていわゆる半群理論が構成される.吉田耕作による半群理論の誕生以来,発展方程式の抽象理論の研究は加藤敏夫氏,宮寺功氏,田辺広城氏,高村幸男氏をはじめ日本人研究者の寄与が非常に大きな分野である.田中直樹氏はこれまで,リプシッツ半群の理論を小林良和氏との共同研究で確立し,発展方程式の抽象理論の研究に重要な貢献をなしてきたが,近年は非自励系への拡張や積公式の証明などを通してリプシッツ半群の理論にさらなる発展をもたらした.また加藤敏夫氏が開拓した抽象準線形発展方程式の研究では,定義域が基礎空間上で稠密にならないような作用素に関する理論を構築した.さらに非自励系に関して,岡裕和氏,松本敏隆氏と共同で作用素の時間依存性に関する仮定を強可測性まで弱めるという決定的な結果を得ることに成功した.一方,田中氏はこれらの半群理論の研究に於ける長年の未解決問題の解決に加えて,距離空間上の発展方程式など,近年,他分野からも注目を集める新しい研究テーマにも取り組み,重要な研究成果を多数挙げている.またそのような新しい発展方程式論の枠組みから小林氏・田中氏のリプシッツ半群理論や加藤氏らの準線形理論を改めて導出するなど,半群理論の研究に長年携わってきた田中氏ならではの視点とその深い洞察力が随所に活かされており非常に興味深い.このように,田中氏は独自のアイデアを駆使することで発展方程式の抽象理論における問題点を克服し,数多くの優れた研究業績を挙げている.田中氏は現在,日本の発展方程式論の研究を牽引する原動力となる研究者であり,日本数学会解析学賞受賞者として誠に相応しい人物である.