第21回(2022年度)解析学賞

受賞者

業績題目

池畠優(広島大学大学院先進理工系科学研究科)

エンクロージャー法による時間依存偏微分方程式における逆問題の創造

中井英一(茨城大学大学院理工学研究科)

一般化されたモーリー・カンパナート空間と関連する実解析学的研究

松崎克彦(早稲田大学教育・総合科学学術院)

様々な新しいタイヒミュラー空間の理論およびクライン群論の研究

【選考委員会構成】
片山聡一郎,柴田徹太郎,角大輝,盛田健彦(委員長),田中真紀子(委員会担当理事),森藤紳哉,蛹エ宏和,渡邉恵一


受賞者

池畠優(広島大学大学院先進理工系科学研究科)

業績題目

エンクロージャー法による時間依存偏微分方程式における逆問題の創造

受賞理由

池畠優氏は,偏微分方程式の逆問題の分野において長年にわたり大きな貢献を果たしてきた.特に,物体の内部構造を推定する問題において,内部構造の再構成に関する独創的な手法「池畠のエンクロージャー法(囲い込み法)」で世界的に著名であり,今日まで精力的な研究を続けている.逆問題においては,「一意性」(観測データに応じた内部構造の一意性),「安定性」(内部構造の観測データに応じた連続性),「再構成」(内部構造の情報把握)の3つが数学的基本問題になるが,応用上,最も重要なのは「再構成」の問題であろう.池畠氏は楕円型境界値逆問題において,対象物の内部構造に対する再構成の理論構築に研究キャリアの初期から取り組み,「探針法」や「エンクロージャー法」といった独創的な再構成理論を開発した.例えば楕円型境界値逆問題においてエンクロージャー法を用いると,観測データにより物体の内部構造の凸包を得ることができる.また,エンクロージャー法は逆問題の他のどの解析法とも関連性が見当たらず,それ自体独自の解析法であることが確認されている.さらに,エンクロージャー法は再構成の手続きがシンプルであることにより多様な偏微分方程式に適用できるという,大きな汎用性を有している.池畠氏はこの汎用性を存分に活用し,熱方程式,波動方程式,Maxwell方程式,熱弾性方程式などの時間依存型の偏微分方程式により定式化される種々の逆問題における再構成理論を自身の手で発展させてきた.
以上のように池畠優氏の開発したエンクロージャー法は独自の優位性を保ちながら,さらに精度のよい技法に進化し続けている.池畠氏は独創的な発想で逆問題の歴史に新しい側面を切り拓き,多様な問題に対応可能な優れた数学的技法を育て上げた.その研究業績は極めて顕著であり,日本数学会解析学賞を授与されるにまことに相応しい.