第20回(2021年度)解析学賞

受賞者

業績題目

加藤賢悟(コーネル大学統計学データサイエンス学科)

高次元統計学におけるガウスおよびブートストラップ近似理論

香取眞理(中央大学理工学部)

統計力学と関連する無限粒子系の研究

高橋太(大阪市立大学大学院理学研究科)

Hardy 型不等式の精密化および非線形楕円型方程式の漸近解析

【選考委員会構成】
長田博文(委員長),織田寛,隠居良行,田中和永,濱田英隆,増田弘毅,森藤紳哉,森脇淳(委員会担当理事)


受賞者

高橋太(大阪市立大学大学院理学研究科)

業績題目

Hardy 型不等式の精密化および非線形楕円型方程式の漸近解析

受賞理由

高橋太氏は,Liouville 方程式や4階の非線形楕円型偏微分方程式に対し,漸近解析を駆使した数々の重要な業績で既にこの分野で世界的に著名な研究者である.近年,そうした研究を継続しつつ,解析学の多くの分野に現れる Hardy の不等式をはじめ,Hardy-Leray 不等式などさまざまな臨界的不等式の最適性を詳細に分析し,その精密化を定量的に表現する剰余項の発見と分析手法を推進した業績により,この分野の更なる発展と応用に大きな扉を開いた.
高橋氏の種々の不等式の精密化に関する研究は多岐に渡るが,最近の佐野めぐみ氏,J. Byeon 氏,濱本直樹氏との共同研究等においてとりわけ目覚ましい成果を上げている.特に,自然なスケール普遍性をもった剰余項を含む形での全空間における劣臨界 Hardy 不等式の精密化および次元の異なる劣臨界 Hardy 不等式と臨界 Hardy 不等式とを結びつける絶妙な変換の発見や,また,有界領域上での臨界 Hardy 不等式の最良定数が一般領域と球領域とで異なる状況を明らかにした結果は大変興味深く,特筆すべきものである.さらに,ごく最近の研究では,発散なし,もしくは回転なしのベクトル場に対する Hardy-Leray 不等式や Rellich-Leray 不等式の最良定数および剰余項の研究に関し,精密な結果を得ている.いずれの研究も,多くの関連研究の解析手法を熟知した高橋氏の幅広い知識と不等式に応じた鋭い洞察をうまく組み合わせてはじめて成し遂げられたものばかりで,完成度の高いものである.
一方で,高橋氏は Liouville 方程式に関連した非線形楕円型方程式の漸近解析に関する研究においても,鈴木貴氏,大塚浩史氏や高橋氏自身を含む国内外の多くの研究者による豊富な研究の蓄積を踏まえ,重要な成果をあげインパクトを与え続けている.とりわけ空間非一様な係数をもつ Liouville 方程式の多重凝縮解凝縮点の近くでの精密な漸近的評価と漸近挙動を積み上げることで線形化作用素のスペクトル構造を明らかにした研究や,Liouville-Gelfand type の非線形問題の臨界的解の有界性と空間次元との関係を解明した結果などは重要な成果である.
以上のように,高橋太氏の研究の水準は極めて高いと評価でき,関連分野の今後の研究の推進の礎を与え,さらに大きな波及効果が期待されるものである.これらの業績は,解析学賞を授与されるに誠に相応しい.