第20回(2021年度)解析学賞

受賞者

業績題目

加藤賢悟(コーネル大学統計学データサイエンス学科)

高次元統計学におけるガウスおよびブートストラップ近似理論

香取眞理(中央大学理工学部)

統計力学と関連する無限粒子系の研究

高橋太(大阪市立大学大学院理学研究科)

Hardy 型不等式の精密化および非線形楕円型方程式の漸近解析

【選考委員会構成】
長田博文(委員長),織田寛,隠居良行,田中和永,濱田英隆,増田弘毅,森藤紳哉,森脇淳(委員会担当理事)


受賞者

加藤賢悟(コーネル大学統計学データサイエンス学科)

業績題目

高次元統計学におけるガウスおよびブートストラップ近似理論

受賞理由

数理統計学において中心極限定理とその拡張版が大きな役割を果してきた.とくに,20世紀後半から確率論研究者と数理統計学者のコミュニティの相互交流で,確率近似方法に対するふたつの強力な理論が発展してきた.ひとつは,経験過程理論である.これは関数型の一様中心極限定理等に関わる研究結果であり,複雑なデータに対して,柔軟性と汎用性の高い統計手法の開発とその理論的な正当化におおいに貢献をした.もうひとつは,スタインの方法(Stein's method)によるガウス型近似理論である.これは1972年に Charles Stein が提唱したもので,正規分布等に関する部分積分法を利用し,正規分布とターゲットの統計量(確率変数)の分布間の距離に対して,収束の速さも含めたガウス型近似の誤差評価を導くものである.スタインの方法は,ランダム行列理論やマリアバン解析とも大変相性の良いものである.一方,計算機の普及を踏まえ,ブートストラップ法に代表される計算機集約的な統計手法の開発やその理論的正当化が数理統計学においてなされてきた.
加藤賢悟氏は,Victor Chernozhukov および Denis Chetverikov と共同で,データの次元数がデータ数とともに増大する高次元統計学の設定のもと,高次元統計量に対するガウス型近似理論とブートストラップ法に対する確率近似に関する理論(以下 CCK 理論)を展開した.これら一連の研究は,経験過程理論とスタインの方法を有機的かつ独創的に用いて,ターゲットの統計量およびブートストラップバージョンの分布に対するガウス型近似の誤差評価を,収束の速さも含めて非漸近的に展開する斬新な枠組みを提供するものであり,一部では壮大な急進展(a grand breakthrough)とまで評されるほど重要な結果である.CCK 理論の近似誤差評価法は非漸近的なものなので,ビッグデータ時代の数理統計学やデータサイエンスの理論・応用研究に幅広く適用される潜在的な可能性を持ち,時代の要請に根ざすアクチュアルな研究成果である.この意味で,CCK 理論はビッグデータ時代の情報基盤社会に数学が貢献できるひとつの形を提供したものと言える.以上のように,加藤氏は,斬新な発想と厳密な理論展開により,理論的にも応用的にも汎用性の高い興味深い結果を得た.これは解析学賞にふさわしい大変優れた研究業績である.