第19回(2020年度)解析学賞

受賞者

業績題目

二宮広和(明治大学総合数理学部)

特異極限解析による高次元パターンダイナミクスの研究

松本健吾(上越教育大学大学院学校教育研究科)

記号力学系と $C^*$-環の相互関連の研究

宮地秀樹(金沢大学理工学域数物科学類)

タイヒミュラー空間上の複素解析的構造の研究

【選考委員会構成】
隠居良行,神本丈,高信敏,利根川吉廣,廣島文生(委員長),増田弘毅,森脇淳(委員会担当理事),山崎教昭


受賞者

二宮広和(明治大学総合数理学部)

業績題目

特異極限解析による高次元パターンダイナミクスの研究

受賞理由

空間的な構造が時間とともに自律的に変化していく過程はしばしば反応拡散方程式を用いて数学的にモデル化され,定常状態や進行波の存在と安定性については,漸近解析,特異摂動法,分岐論的手法を用いた研究によって数学的な理論が大きく発展した.しかしながら,高次元領域における時空間パターンの解析に有効な数学的手法は限られており,これまでは数値計算を援用した研究が主流であった.二宮広和氏は反応拡散方程式とそれに関連する発展方程式系に対して反応拡散近似と呼ばれる手法を発展させ,この手法を各種の問題に適用して高次元領域における時空間パターンに対して数学的に厳密な解析を行った.より具体的には,自由境界問題,交差拡散系,非局所方程式,低階の偏微分方程式など,いろいろなタイプの発展方程式が反応拡散方程式系の特異極限として得られることを証明し,高次元領域における各種の伝播現象が界面と呼ばれる遷移層ダイナミクスの解析へと帰着されることを示した.また,反応拡散方程式の特異極限を詳細に調べることより,スポット状のパターンが移動するような進行波解や界面が曲線あるいは曲面となって移動するような進行波の存在および安定性について明らかにした.特異極限による反応拡散近似の理論は高次元パターンダイナミクスの数学的解明に強力な手法を与えるだけでなく,数値計算手法への応用も期待されている.
以上のように,二宮氏は斬新なアイディアと卓越した解析能力により,反応拡散方程式系における高次元パターンダイナミクスに関して理論的にも応用上も重要かつ興味深い結果を得ている.これは解析学賞にふさわしい大変優れた研究業績である.