第18回(2019年度)解析学賞

受賞者

業績題目

坂井秀隆(東京大学大学院数理科学研究科)

パンルヴェ型方程式系の研究

角大輝(京都大学大学院人間・環境学研究科)

1変数有理関数の生成する半群およびランダム力学系の研究

廣島文生(九州大学数理学研究院)

数学的場の量子論における汎関数積分の応用

【選考委員会構成】
金銅誠之(委員会担当理事),坂口茂,須川敏幸,高信敏,谷口健二,利根川吉廣(委員長),矢島美寛,山崎教昭


受賞者

角大輝(京都大学大学院人間・環境学研究科)

業績題目

1変数有理関数の生成する半群およびランダム力学系の研究

受賞理由

複素力学系は20世紀初頭のJuliaFatouによる研究に端を発するが,その後は長らく散発的にしか目立った研究は現れなかった.1980年頃のMandelbrotによるコンピュータを用いたフラクタルの描画を契機とし,その後コンピュータ技術の発展も相俟って急速に発展を遂げる.一方で戦後,リーマン面の変形理論から発展したクライン群論もThurstonSullivanによる画期的な研究が端緒となって注目を集める分野に成長した.この2つの概念を自然に包含するものとして有理半群(rational semigroup)の概念が1990年代後半にHinkkanenMartinにより提唱され,角氏はその頃から一貫して有理半群の複素力学系の研究に取り組んできた.有限生成有理半群のジュリア集合が,縮小写像による反復関数系(IFS)の不変集合と同様の集合方程式を満たすという発見を含め,ジュリア集合のハウスドルフ次元を与える公式やパラメータに関する依存性など基本的な結果を数多く導いてきた.
最近ではいくつかの有理関数をランダムに選んで反復合成をすることにより生ずるランダム複素力学系を考え,そのエルゴード理論的な性質を追究し,重要な貢献を数多く行っている.たとえば,多項式に対する古典的なニュートン法では初期値が根から離れている場合はどの根にも収束せず,別の安定周期点に近づくこともある.McMullenはニュートン法のようないかなる代数的なアルゴリズムも,ほとんどすべての初期値から出発した軌道がどれかの根に近づくという良い性質を持たないことを示した.角氏はニュートン法にランダム項を加えることで,有限個の例外点を除くすべての初期値から出発して確率1でどれかの根に収束することを厳密に示した.このアイデアは多項式の根を見つけるための実用的な方法を提供していると言える.
以上のように角氏の研究業績は複素解析はもとより,確率論,フラクタル幾何学,実解析など多方面に及んでおり,解析学賞を授与するにふさわしいものである.