第18回(2019年度)解析学賞

受賞者

業績題目

坂井秀隆(東京大学大学院数理科学研究科)

パンルヴェ型方程式系の研究

角大輝(京都大学大学院人間・環境学研究科)

1変数有理関数の生成する半群およびランダム力学系の研究

廣島文生(九州大学数理学研究院)

数学的場の量子論における汎関数積分の応用

【選考委員会構成】
金銅誠之(委員会担当理事),坂口茂,須川敏幸,高信敏,谷口健二,利根川吉廣(委員長),矢島美寛,山崎教昭


受賞者

坂井秀隆(東京大学大学院数理科学研究科)

業績題目

パンルヴェ型方程式系の研究

受賞理由

パンルヴェ方程式は,楕円関数や超幾何関数を超える新しい特殊関数を定義するために,後に首相にもなったフランスの数学者パンルヴェ(Paul Painlevé)らによって20世紀の初めに構成され,6種類に分類された2階の非自律非線形常微分方程式系である.坂井秀隆氏は,大学院の学生の時代から一貫して,明確な数学的原理に基づき,パンルヴェ方程式を離散的に,また,高次元に拡張する研究を続け,パンルヴェ方程式を有理曲面によって特徴付け幾何学的に分類を行った代数幾何学的理論(坂井理論)を始め数々の先駆的な業績をあげている.
最近,坂井氏はパンルヴェ方程式の高次元化の問題において,これまで散在的に発見されていた4階のパンルヴェ型の方程式に対して,Fuchs型方程式の変形理論の観点から分類理論に取り組み,次元を特定した場合のモノドロミー保存変形方程式の分類というかたちで統一的な視点を与えた.その結果,新たに坂井氏の発見した一つを含め,最も上流に位置する方程式系が4種類であることが示された.そして,川上拓志氏,中村あかね氏,廣惠一希氏とともに,この4種類の方程式の退化図式の研究を進め,22種類の不分岐型の方程式の完全なリストを作成するなどその下流にある方程式系の分類を行った.この結果はパンルヴェらによるパンルヴェ性を用いた2階の方程式に関する分類を100年ぶりに高次元に拡張した際立った成果である.
その後も,坂井氏は,共型場理論を応用した離散パンルヴェ方程式の解の級数表示式の導出や,ミドルコンボリューションと呼ばれる手法の離散化などパンルヴェ型方程式研究の最先端で活躍を続けており,この分野の世界的な第一人者であり国際的評価もたいへん高い.これらの功績は日本数学会解析学賞の授与にふさわしいものである.