第17回(2018年度)解析学賞

受賞者

業績題目

川島秀一(早稲田大学理工学術院)

消散構造を持つ非線形偏微分方程式系の安定性解析

今野紀雄(横浜国立大学大学院工学研究院)

量子ウォークの数学的研究とその応用

宮地晶彦(東京女子大学現代教養学部数理科学科)

ハーディー空間とフーリエ乗法作用素・擬微分作用素の有界性に関する研究

【選考委員会構成】
大鹿健一(委員会担当理事),寒河江雅彦,坂口茂(委員長),須川敏幸,谷口健二,種村秀紀,中村周,森藤紳哉


受賞者

宮地晶彦(東京女子大学現代教養学部数理科学科)

業績題目

ハーディー空間とフーリエ乗法作用素・擬微分作用素の有界性に関する研究

受賞理由

宮地晶彦氏の最近5年間の業績は,40年間にわたる研究がそうであったように,主としてハーディー空間とフーリエ乗法作用素・擬微分作用素の有界性に関するものである.アトム分解や補間定理等を巧みに用いた職人芸が宮地氏の研究を極めて精緻なものにしている.最近5年間の業績は,L. Grafakos,H. van Nguyen,N. Tomita らとの共同研究においてなされており,より具体的には「最小限の滑らかさのみをフーリエ・マルチプライアーに課したフーリエ乗法作用素の研究」,及び「双線型擬微分作用素に対する Calderón-Vaillancourt 型の定理の研究」である.これらを少し敷衍すると以下のようになる.前者の研究は Mikhlin(1956),Hörmander(1960),及び Calderón-Torchinsky(1977)のフーリエ・マルチプライアーに関する定理の多重線型版である.マルチプライアーの滑らかさの最小性を見る一つの方法として,Miyachi(1980)によって研究された特別な減衰度と振動をもつ函数が重要な役割を果たす.後者の研究の起源は,Coifman-Meyer による Calderón の交換子の研究(1975)にある.Bényi-Torres(2004)によれば,双線型擬微分作用素の有界性は,通常の場合(Calderón-Vaillancourt の定理)のようにはいかない.それに対して精緻な解析が展開されたのである.
そのような双線型・多重線型作用素の調和解析学は,Lipschitz 曲線に沿った Cauchy 積分の研究に端を発し,1997年には Lacey-Thiele による双線型ヒルベルト変換の評価に関する研究が現われ,以来20年間にわたって,この方面の研究がますます盛んになっている.特に,Grafakos と多くの共同研究者たちの貢献が大きい.宮地氏もまさにその潮流の只中にいる.
国際研究集会の開催にも積極的で,特に2013年以降,毎年「East Asian Conference in Harmonic Analysis and Applications」と題する研究集会を開催している.韓国や中国の数学者とも活発な交流を重ね,更に,若手の調和解析学者への影響も甚大で,そのことは近年の目覚ましい点である.
以上のようなことから,宮地晶彦氏は解析学賞を授与されるに相応しいと考える.