第17回(2018年度)解析学賞
受賞者 |
業績題目 |
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川島秀一(早稲田大学理工学術院) |
消散構造を持つ非線形偏微分方程式系の安定性解析 |
今野紀雄(横浜国立大学大学院工学研究院) |
量子ウォークの数学的研究とその応用 |
宮地晶彦(東京女子大学現代教養学部数理科学科) |
ハーディー空間とフーリエ乗法作用素・擬微分作用素の有界性に関する研究 |
【選考委員会構成】
大鹿健一(委員会担当理事),寒河江雅彦,坂口茂(委員長),須川敏幸,谷口健二,種村秀紀,中村周,森藤紳哉
受賞者 |
今野紀雄(横浜国立大学大学院工学研究院) |
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業績題目 |
量子ウォークの数学的研究とその応用 |
受賞理由 |
量子ウォークは量子力学の応用例として1960年代から Feynman など何人かの物理学者によって提案され研究された.それが2001年の Ambainis らの論文によって,量子計算の典型例である量子探索を駆動するアルゴリズムとして定式化され,その優れた計算効能が示されたことにより多くの注目を集め,現在様々な分野において精力的に研究がなされている.今野紀雄氏は量子ウォークを確率過程の基礎であるランダムウォークの量子的類似として捉え,新しいタイプの極限定理を導いた.この極限定理では,時刻と空間とのスケーリングが同じ(弾道的)になっており,時刻の平方根が空間をスケールする(拡散的な)ランダムウォークの不変原理とは大きく異なっている.極限分布は一般に絶対連続部分と特異部分を持つが,絶対連続部分は,現在,今野分布とよばれている.特異部分は,量子ウォークがある点に存在する確率が時刻無限大の極限でも正となる,いわゆる局在現象に対応していることもこの極限定理で重要な点である.この“弾道性”と“局在性”は相反する現象と考えられるが,今野氏は,量子ウォークがこの二つを同時に兼ね備えていることを証明したのである.この極限定理により量子ウォークは,様々な物理現象を新たな側面から解析するために有効な確率モデルとして応用されている.一例として,トポロジカル絶縁体への応用がある. |