第17回(2018年度)解析学賞

受賞者

業績題目

川島秀一(早稲田大学理工学術院)

消散構造を持つ非線形偏微分方程式系の安定性解析

今野紀雄(横浜国立大学大学院工学研究院)

量子ウォークの数学的研究とその応用

宮地晶彦(東京女子大学現代教養学部数理科学科)

ハーディー空間とフーリエ乗法作用素・擬微分作用素の有界性に関する研究

【選考委員会構成】
大鹿健一(委員会担当理事),寒河江雅彦,坂口茂(委員長),須川敏幸,谷口健二,種村秀紀,中村周,森藤紳哉


受賞者

川島秀一(早稲田大学理工学術院)

業績題目

消散構造を持つ非線形偏微分方程式系の安定性解析

受賞理由

川島秀一氏は1980年代半ば,気体力学の基礎方程式である圧縮性 Navier-Stokes 方程式や離散速度 Boltzmann 方程式を包括する一般の双曲・放物型非線形偏微分方程式系の持つ消散構造を代数的条件として定式化することに成功した.その条件は後に「川島条件」と呼ばれ,非線形解析において重要となる線形化方程式の解の減衰評価を統一的に得ることを可能にした.さらに安定性解析で重要な非線形構造の理解のために,これらの一般の双曲・放物型非線形偏微分方程式系に対して,川島氏は Godunov や Friedrichs-Lax による数学的エントロピーの概念を一般化することに成功し,統一的な数学解析を可能にした.川島条件を有する非線形偏微分方程式系と一般化された数学的エントロピーからなる川島理論は様々な非線形波の安定性解析において重要な役割を演じてきた.
最近,川島条件の枠に収まらない新たな消散構造をもつ数理物理の偏微分方程式系が注目を集めている.線形化作用素の高周波部分のスペクトルの挙動に起因して,線形化半群の減衰評価において可微分性の損失を生じ,その数学解析に大きな困難さを伴うものである.川島氏はこれらの方程式系の中で弾性体力学に現れる梁の振動を記述する Timoshenko 方程式系やプラズマ物理に現れる Euler-Maxwell 方程式系を含む偏微分方程式系の可微分性損失型消散構造の定式化を川島条件に新たな条件を追加する形で与えた.さらに,対応する数学的エントロピーの概念の拡張を与えた.他方,$L_p$-$L_q$-$L_r$ 法という非線形問題の大域可解性を証明する解析手法を開発するなど,非線形問題に対する安定性解析の一般理論構築に向けて着実に研究を遂行している.また,Cattaneo の法則を考慮した温度入りの Timoshenko 方程式系や Euler-Maxwell 方程式系など,より複雑な偏微分方程式系の可微分性損失型消散構造の研究も展開している.
川島秀一氏の研究は偏微分方程式論において新たな意義深い研究分野を開拓するものであり,その業績は解析学賞に相応しい.