第16回(2017年度)解析学賞

受賞者

業績題目

柴田徹太郎(広島大学学術院(大学院工学研究科))

非線形楕円型方程式の固有値問題の漸近解析と逆分岐問題の解析

竹井義次(同志社大学理工学部)

完全 WKB 解析による線型・非線型微分方程式の漸近解析

竹田雅好(東北大学大学院理学研究科)

対称マルコフ過程の確率解析とその応用

【選考委員会構成】
大鹿健一(委員会担当理事),長田博文,小池茂昭,寒河江雅彦,中村周(委員長),濱田英隆,松本敏隆,峯拓矢


受賞者

竹田雅好(東北大学大学院理学研究科)

業績題目

対称マルコフ過程の確率解析とその応用

受賞理由

ブラウン運動を含む確率過程の概念としてマルコフ過程が知られている.ブラウン運動の推移確率はラプラシアンの熱半群として古典的なディリクレ積分と対応する.この対応を一般化したものが対称マルコフ過程とディリクレ形式の理論であり,70年代に福島正俊氏と Martin Silverstein 氏によって発展してきた.その後,対称マルコフ過程の確率解析の理論が福島正俊氏によって提起され,古典的確率解析を超えた理論として拡張整備されてきた.
竹田雅好氏は対称マルコフ過程の確率解析を用いて Donsker-Varadhan 型の大偏差原理を発展させ,多くの応用を見出してきた.田原喜宏氏と共同で対称化測度がグリーン緊密な加藤クラス測度のときに正規化された滞在時間分布への大偏差原理を確立し,基底状態の一意存在を示した.さらにグリーン緊密でないときにも基底状態の一意存在への十分条件を与えた.また係数測度がある種のグリーン緊密性を持つときに,基底状態の一意存在に基づき,劣臨界性,臨界性,優臨界性の特徴付けを与えた.一方で一次元安定過程で臨界的な場合にシュレディンガー作用素による有界調和関数の存在を示し,さらにシュレディンガー半群による劣調和関数の最大値原理を特徴付けた.また,和田正樹氏とファインマン・カッツ汎関数の詳細な漸近挙動を対称安定過程の場合に調べた.
最近の特筆すべき成果は,対称化測度がグリーン緊密な加藤クラスの場合に,マルコフ半群のコンパクト性とその固有関数の有界性,さらにディリクレ形式の定義域の基礎となる $L^2$-空間へのコンパクトな埋め込みである.そのことに基づき田原喜宏氏と土田兼治氏と共同で様々な具体例においてマルコフ半群やファインマン・カッツ半群のコンパクト性への判定条件を与えた.
以上のように,竹田雅好氏の研究は,マルコフ過程やポテンシャル論を基にした解析的諸問題への高度な応用が見込まれており,その独創性は際立っている.国際的な評価も極めて高い.その優れた業績は日本数学会解析学賞に誠に相応しいものである.