第15回(2016年度)解析学賞

受賞者

業績題目

片山聡一郎(大阪大学大学院理学研究科)

非線形双曲型偏微分方程式系における零構造の研究

小池茂昭(東北大学大学院理学研究科)

完全非線形楕円型・放物型偏微分方程式の $L^p$ 粘性解理論

笹本智弘(東京工業大学理学院)

非平衡確率力学系の厳密解による研究

【選考委員会構成】
青嶋誠,小川卓克,小澤徹,小磯深幸(委員会担当理事),渚勝,濱田英隆,舟木直久(委員長),横田智巳


受賞者

片山聡一郎(大阪大学大学院理学研究科)

業績題目

非線形双曲型偏微分方程式系における零構造の研究

受賞理由

一般相対論,相対論的場の理論,プラズマ物理等を担う基礎方程式は,非線形双曲型偏微分方程式の系として定式化される.相互作用を記述する非線形項は,二次あるいは三次の形で,多くの物理モデルに現れる.時間大域的に存在する解の典型例は漸近自由解であり,散乱理論においても中心的な役割を果たす.漸近自由解を想定する限り,初期値問題は,空間次元が高い程,容易になり,低い程,困難となる.発展方程式論の一般論的枠組では扱えない臨界の場合が個別の研究課題となるが,それが真に現実の物理モデルに相当することも多く,極めて興味深い研究対象となっている.低次元空間としての三次元空間において,漸近自由解の一種である小振幅解の存在を,非線形構造との関連で見出したのが1980年代半ばの Klainerman の一連の業績である.その特別な非線形構造は,現在,零構造(null structure)として広く認識されている.
片山聡一郎氏は,非線形波動方程式系や非線形クライン・ゴルドン方程式系をはじめとする非線形双曲型方程式系における零構造について,その分類や特徴付けを通して本質的な理解を与え,単独方程式でない方程式系特有の新しい零構造を見出し,解の漸近挙動と結びつけた理論体系を構築した.特に,多重伝播速度や質量共鳴を持つ零構造が,解の長時間的挙動に与える影響を散乱理論の枠組で記述した功績は優れている.
これらの研究業績の一部は,砂川秀明氏,久保英夫氏,小澤徹氏らとの共同研究によるものである.特に,二次元空間における二次のクライン・ゴルドン系の零条件を,質量共鳴との関連で代数的に完全に特徴付け,代数的正規型の方法に基づいてエネルギー散乱理論を構築した業績は顕著である.
このように,片山聡一郎氏の非線形双曲型偏微分方程式系の零構造の研究は,世界的な業績であり,日本数学会解析学賞に誠に相応しいものである.