第11回(2012年度)解析学賞

受賞者

業績題目

隠居良行(九州大学大学院数理学研究院)

圧縮性粘性流体の平行流の安定性解析

坂口茂(東北大学大学院情報科学研究科)

拡散方程式の不変等温面と領域の幾何学

谷口正信(早稲田大学理工学術院)

時系列解析における統計的漸近最適推測理論の研究

【選考委員会構成】
芥川和雄(委員会担当理事),小池茂昭(委員長),小林孝行,今野良彦,田中直樹,辻元,西山享,日野正訓


受賞者

隠居良行(九州大学大学院数理学研究院)

業績題目

圧縮性粘性流体の平行流の安定性解析

受賞理由

隠居良行氏は,ある無限に伸びた境界に対して発生する圧縮性粘性流体の定常流に対する安定性解析の研究を行ってきた.圧縮性ナヴィエ・ストークス方程式系は,双曲型・放物型の混合連立系であって,領域および波の伝播や粘性による拡散の影響で,解の正則性や解の時間無限大における漸近挙動等が異なるなど,その解析には多くの困難が生じる.さらに,非線形定常流の周りの安定性を議論するためには,その線形化変数係数方程式を考察する必要がある.また,扱う領域の境界が非有界であるため特有の難しさを有し,これまで未解決に残されたままであった.これらの困難を克服するためには,エネルギー法だけでなく,各々の線形化方程式の詳細な解析が必要である.特に,非線形問題を解くためには,線形化作用素のスペクトルの様子を調べ,非線形問題に固有な関数空間における消散型・分散型評価を確立することが要求される.
隠居氏は,無限層状領域の平行流である静止状態,ポアズイユ流,平面クエット流,そして無限柱状領域の静止状態などの安定性解析に対して,各々の線形化方程式の詳細なスペクトル解析を行い,それぞれの定常解に即した関数空間を設定し,その上でのレゾルベント評価を確立した.そして,その評価を利用して線形化問題の大域的消散型評価を導き,定常解の時間安定性を証明した.これらの成果は,単に定常解の周りでの線形化作用素のスペクトルを調べる線形化安定性に留まらず,非線形問題の解の漸近安定性をも証明しており,定常流への漸近速度の解析学的に詳細な結果を与えたものである.
このように隠居氏の研究は,圧縮性粘性流体方程式の数学解析,特にパターンを持った定常流の安定性解析に新境地を拓き,多大な貢献を与えた解析学賞にふさわしい業績である.