第10回(2011年度)解析学賞

受賞者

業績題目

日野正訓(京都大学大学院情報学研究科)

複雑な構造をもつ空間における確率解析

松井宏樹(千葉大学大学院理学研究科)

力学系と $C^*$-環の研究

森本芳則(京都大学大学院人間・環境学研究科)

準楕円型作用素の解析と切断近似のない Boltzmann 方程式の数学的研究

【選考委員会構成】
相川弘明,会田茂樹,河添健,河東泰之,小磯深幸(委員会担当理事),今野良彦,永井敏隆(委員長),松村昭孝


受賞者

森本芳則(京都大学大学院人間・環境学研究科)

業績題目

準楕円型作用素の解析と切断近似のない Boltzmann 方程式の数学的研究

受賞理由

森本芳則氏はフーリエ解析,擬微分作用素論等による超局所解析の手法と関数解析の理論を用いて,準楕円型偏微分方程式の解の存在と解の構造を研究してきた.主部が非負の二階偏微分作用素が準楕円型になるための十分条件として,対数オーダーの weight をもった評価式が成立することを示すとともに,ある種の楕円型作用素についてはその条件が必要でもあることも示した.また対数オーダーの weight を持つ評価式の成立条件を,非負なポテンシャルをもつ Schrödinger 作用素の正値性の問題に帰着させることにより,様々な無限次で退化する2階楕円型作用素について,その準楕円性と解の特異性の伝播を研究する基礎を与えた.さらに,その評価式が成立する偏微分作用素の特徴づけのため,Fefferman-Phong が定式化した数学的不確定性原理を初めて導入し,いくつかの退化楕円型作用素に適用している.
そうした研究の延長線上で,気体・流体力学の最も基礎的な方程式である Boltzmann 方程式の衝突切断近似が無い場合に,解の平滑化効果に関する画期的な成果をあげ,この分野の研究を大きく進展させた.Boltzmann 方程式は相空間上の粒子密度の方程式であり,その解は,時・空変数および速度変数の関数であって,非線形作用である衝突積分作用素は速度変数にのみ関係する.切断近似のない衝突非線形項から速度変数に作用する分数べきラプラス作用素としての効果が生じ,熱方程式のように解の平滑化現象が速度変数に関して起こることが予想されるが,他方,空間変数に関しては輸送作用があり一階双曲型作用素としての効果しか期待できない.森本氏は,R. Alexandre 氏, 鵜飼正二氏, C.-J. Xu 氏, T. Yong 氏らと共同で,それまで自身が研究を進めていた準楕円型作用素に対する研究を基礎に,速度変数ラプラシアンを空間変数に対する無限次退化楕円型作用素と見なし,速度変数に関する楕円型作用素と空間変数に関する双曲型作用素の相互作用により,両変数に関する解の平滑化作用が生じることを示した.これは切断近似のない Boltzmann 方程式が解に対する $C^\infty$ 平滑化作用(smoothing effect)を初めて示したもので,この方程式の研究における新しい方向を示唆する研究として高く評価されている.
このように森本氏の研究は非常に画期的で内外でたいへん高く評価されている.解析学賞としてまことにふさわしい業績である.