力学系の理論は古くから作用素環論と密接な関係を持って進展してきた.松井氏の業績は,この関連を大きく前進させる深い結果であり,二つの大きなテーマからなっている.
一つ目は,Cantor 集合上の極小的作用において,軌道同値と呼ばれる同値関係での分類を与えるものである.これについては,Giordano,Putnam,Skau の3人が ${\mathbb Z}$-作用の場合に,$K$-理論を用いたきれいな分類定理を与えていた.群 ${\mathbb Z}^d$ の極小作用の場合も,軌道の性質を調べることにより,${\mathbb Z}$-作用の場合に帰着できるか,ということが大きな未解決問題であったが,松井氏は独自のアイディアを持ってこの問題の研究に参入し,上記の3人と共に,最終的な解決を肯定的に与えることに成功した.
もう一つのテーマは $C^*$-環上の群作用の分類である.作用素環の上の群作用の分類は Connes による1970年代の偉大な成果以来,作用素環論の中心的な問題であり続けている.たちのよい von Neumann 環の上では,離散従順群の作用についてきれいな分類定理が先行して得られており,本質的には群が ${\mathbb Z}$ の場合と同様の結果が成り立つことがわかっている.性質の良い $C^*$-環についても同様の結果を得たいのだが,そううまくはいかず,群が ${\mathbb Z}^d$($d>1$)のときですでに,${\mathbb Z}$ の場合とは本質的に違った困難が現れる.松井氏はこの困難を突破する新しいテクニックを開発し,さまざまな $C^*$-環上の ${\mathbb Z}^d$-作用の分類について,多くの深い結果を得た.
以上の二つはいずれも作用素環論の進展においてたいへん意義の深い結果であり,技術的にもきわめて困難なものである.これらより,松井氏の成果は解析学賞に十分にふさわしいものと言える. |