2009年度日本数学会賞春季賞

2009年度日本数学会賞春季賞

2009年度日本数学会賞春季賞は

小沢 登高 氏(東京大学大学院数理科学研究科准教授)に
業績題目: 離散群と作用素環の研究

により授賞されます。小沢氏の業績の紹介は、雑誌「数学」で行われます。

なお表彰式は以下の次第で開催されます。

日時
2009年3月27日(金)14:50~15:20
会場
東京大学駒場キャンパス講堂(900番教室)

授賞理由

作用素環とは,ヒルベルト空間の上の有界線形作用素のなす環で,共役作用素 を取る演算で閉じており,さらに適当な位相で閉じているもののことである. ノルム位相で閉じている時,$C^*$-環と呼び,作用素の弱位相で閉じているも のをフォン・ノイマン環と呼ぶ.離散群からフォン・ノイマン環を作る基本的 な方法は二つある.一つは,群の正則表現の像が生成するフォンノイマン環を 考えるもので,これをフォン・ノイマン群環と呼ぶ.もう一つは,群が確率測 度空間に測度を保って作用しているときに,$L^\infty$-関数環の群作用による 半直積をとるものである.これらを含めたさまざまな方法で作られた作用素環 が同型であるかどうか判定することが,作用素環論の根本問題である.

 フォン・ノイマン環論における近年のもっとも大きな成果は S. Popa によるも ので,それまで区別できなかった多くのフォン・ノイマン環が互いに同型では ないことを示したが,小沢氏は作用素空間の理論に源を持つ全く独自の視点か らこの流れに参入して驚異的な成果を挙げたたものである.作用素空間は,積 でも共役演算でも閉じていない,有界線形作用素のなす線形空間であり,この ような手法がフォン・ノイマン環の分類理論に役立つとはまったく期待されて いなかった.

 小沢氏はまず,$C^*$-環論から出発し,離散群の$C^*$-群環について,完全性 と呼ばれる重要な条件の特徴付けを2000年に与え,Gromov の構成した離散群の $C^*$-群環は完全ではないことを示した.これは当時の有名な未解決問題の解 決であり,多くの結果がこれから従う.

 さらに小沢氏は,離散群が双曲群であるときに,そのフォン・ノイマン群環の 「あまり小さくない」部分環の可換子環はすべて,単射的というよい性質を持 つことを示した.自由群のフォン・ノイマン環のテンソル積分解の不可能性に ついて有名な結果が最近知られていたが,小沢氏の結果はこの結果をごく特別 な場合として含んでいる.さらにこの手法を応用して,Popa との共著論文で, 広いクラスの離散群のフォン・ノイマン群環のテンソル積に対し,テンソル積 分解の一意性を示した.これも,自由群のフォン・ノイマン群環2つのテンソ ル積と3つのテンソル積は同型であるか,という有名未解決問題をはるかに一 般的な形で解いたものである.

 さらに最近の Popa との一連の論文では自由群のフォン・ノイマン群環や,自 由群のエルゴード作用に関連して現れる,幅広いクラスのフォン・ノイマン環 について,カルタン部分環と呼ばれる重要な部分環の構造を決定した.カルタ ン部分環はある場合には存在しないことが分かり,ある場合には強い意味で一 意的になることが示されたのである.これはフォン・ノイマン環の構造につい て非常に強力な情報をもたらし,これまで知られていた多くの重要な結果をき わめて特別な場合として含んでいる.

参考

  1. 「作用素空間論とその応用」(小沢 登高,「数学」vol. 56, No.3, pp.297-307)

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