小平邦彦賞 授賞題目・授賞理由

第1回日本数学会賞小平邦彦賞 授賞題目・授賞理由

砂田 利一(明治大学・教授/東北大学・名誉教授)

授賞題目
幾何解析及び関連する諸分野の研究
Study on geometric analysis and related fields
授賞理由
砂田利一氏は,御自分を幾何学者と称されていますが,複素解析幾何学,スペクトル幾何学,力学系,確率論,グラフ理論等の数学,さらには結晶学,材料科学まで含む多くの分野とのかかわりの中で優れた業績を挙げられてきています.その研究は流行にとらわれず独創的なもので,むしろ新たな学問の流れを創出しているといえます. 砂田氏の業績としては1.初期の複素解析.非線形解析の研究,2.「幾何学における数論的方法」という観点からリーマン多様体のスペクトル幾何学の研究,3.対称性を持つ空間上でのスペクトル解析,4.熱核の漸近解析とその結晶学への応用,5.量子力学と幾何学との関連研究等があげられますが,そのうち代表的なものである2,4について説明します. 2に関しては,一つはカッツの問題“太鼓の形を聞くことができるか?”の反例である等スペクトル多様体の組織的構成で,この分野の発展の礎となりました.また他に,素数の幾何学的類似である力学系の素閉軌道の周期の分布に関する密度定理も示されました.これらの業績により,1987年度日本数学会彌永賞を受賞されています. 4については,上記密度定理の研究と熱核(熱伝導の方程式の基本解)の長時間の振る舞い(漸近挙動)との関連を見抜き,漸近挙動の精密解析,結晶格子の標準的実現,中心極限定理や大偏差原理等の研究を推し進めました.さらに,これらを結晶学と結び付け,K4結晶格子というダイヤモンド結晶格子の双子ともいうべき構造を幾何学的視点から再発見しました.この研究は数学以外の他分野でも話題となり,科学ニュースとして取り上げられました. 最後に,以上のような研究に加えて,数多くの啓蒙的な書籍を出版され,その功績で2013年度日本数学会出版賞を受賞されています.以上の説明にありますように,砂田利一氏の業績は日本数学会賞小平邦彦賞に誠に相応しい業績です.