小平邦彦賞 授賞題目・授賞理由

第1回日本数学会賞小平邦彦賞 授賞題目・授賞理由

石井 仁司(津田塾大学・研究員/早稲田大学・名誉教授)

授賞題目
完全非線形偏微分方程式の粘性解理論
Viscosity solution theory for fully nonlinear partial differential equations
授賞理由
数理モデルに現れる様々な偏微分方程式の研究はシュワルツ超関数としての弱解の導入により発展して久しいですが,その枠組みに馴染まない偏微分方程式(幾何学に現れる様々な曲率流方程式,最適制御や確率微分ゲームに現れるBellman-Isaacs型方程式,画像処理や数理ファイナンスに現れる方程式等)の研究は「粘性解」と呼ばれる弱解の導入によって飛躍的に発展しました.粘性解は,CrandallとLions(1983年)によってまず未知関数の一階偏導関数までを含む一階偏微分方程式に対し導入されました.その後二階偏微分方程式を対象に含め,現在に至るまで粘性解の様々な研究が展開されています.こうした中で,石井仁司氏は,粘性解の誕生時から現在までの長きに渡り,偏微分方程式の粘性解理論とその応用研究の中心として活躍を続けています.特に,粘性解の存在と一意性という最も基本的な命題を完成させた事で石井氏は粘性解理論の第一人者として認識されています. 一意性を示すために用いた手法は今日「石井の補題」と呼ばれています.石井仁司氏の業績は日本数学会賞小平邦彦賞に誠に相応しいものです.