2001年度日本数学会賞春季賞

2001年度日本数学会賞春季賞

斎藤 毅(東京大学大学院数理科学研究科)
数論幾何におけるガロワ表現の研究

代数多様体からは,l進エタールコホモロジーをとることで,ガロワ表現が生まれる.とくに代数体や局所体,有限体などの数論的な体上に定義された代数多様体の場合に,代数多様体の性質と,そこから生ずるガロワ表現の性質の関係を知ることは,数論の様々な問題に結びつく重要な主題であり,それに関して多くの予想が立てられ未解決なままで残されているものも多い.

斎藤毅氏はこの重要で困難な主題に大きな進展を与え,いろいろな予想を解決し,新しい方法を導入してきた.

たとえば,代数多様体上のl進層から生ずるガロワ表現の行列式が,l進層の分岐に伴うヤコビ和と,代数多様体の微分加群によって表される,という斎藤氏の結果は,アーベルなモチーフがヤコビ和によってあらわされるであろうというDeligneの予想や,クリスタリン判別式に関するOgusの予想に,肯定的な結果をもたらした.また斎藤氏のこの仕事は,数論幾何にあらわれるガロワ加群の最近の多くの研究において,本質的な役割をはたしている.

斎藤氏の仕事は多岐にわたり,代数多様体上のl進層から生まれるガロワ表現に伴うϵ因子や2次形式の解明,保型形式に伴うl進ガロワ表現のl進体上の性質の解明,代数曲線の導手と判別式の一致の証明,ガロワ表現の分岐の深さと微分加群の退化を結びつけるBlochの予想の解決,高次元のスキームにあらわされる分岐の,rigid幾何などを用いる解明など,数多くの重要な進歩と新しい方法をもたらしてきた.

斎藤氏のこれらの研究はいずれも重要で世界的に高い評価を受けており,また多くの応用をもたらしている.

斎藤氏の業績は日本数学会賞春季賞を授与されるに相応しいものである.

日本数学会
理事長 楠岡 成雄