2011年度日本数学会賞秋季賞

2011年度日本数学会賞秋季賞

二木 昭人(東京工業大学大学院理工学研究科)
二木不変量によるアインシュタイン計量の研究

二木昭人氏は,複素幾何と微分幾何の交錯する分野で精力的に研究を行っています.特にKähler--Einstein計量,定スカラー曲率Kähler計量,Extremal Kähler計量, さらには佐々木計量などの特殊計量の存在と一意性に関連する問題で数多くの業績を挙げています.

1970年代後半にS.T. Yauは,Kähler--Einstein計量の存在に関して,リッチ曲率が零または負の場合にカラビ予想を肯定的に解決し,これらの業績によってフィールズ賞を受けました.しかしリッチ曲率が正の場合のカラビ予想は,いまだに未解決問題として残っています.

この未解決問題と関連して,二木氏が1980年代前半に導入した積分不変量は,二木不変量とよばれ、コンパクト複素多様体上にKähler--Einstein 計量(もっと広く定スカラーKähler計量)が存在するための最も著名な障害として知られています。最近ではその考え方が様々な局面に応用され、その有用性がさらに広く認識されるようになってきました.たとえば、トーリック・ファノ多様体についてのカラビ予想は,X.J.Wang--Zhuにより,Kähler--Einstein計量の存在が二木不変量が零かどうかのみで判定されることが分かりました.またカラビ予想のさらなる一般化として知られるDonaldson--Tian--Yau予想を述べるのに不可欠な概念として,TianやDonaldsonによって導入されたK-安定性が知られていますが,その定義ではテスト配置の‘Donaldson--二木不変量’という量が本質的で,その符号の正負が決定的な意味を持つことも分かってきました.

最近では,二木氏は小野肇やG.Wangらとグループを組んで,X.J.Wang--Zhuによるトーリック・ファノ多様体の場合のカラビ予想の解決の一般化として,‘トーリック佐々木多様体が必ずEinstein構造を持ちかつその計量が一意的’という目覚ましい結果を得ました.これは S.T.Yauらからも高く評価されています.その証明では,佐々木多様体に対する‘二木不変量’のアナロジーが重要な意味を持ちました.またこの結果から,今までに知られていなかったEinstein佐々木多様体の具体例が数多く見出され,AdS/CFT対応の検証に用いられるEinstein佐々木多様体の豊富な体系が大量に見出されました。

二木氏の近年の研究では,二木不変量をもっと大きな枠組みでとらえ,漸近Chow半安定性に関する障害を積分不変量の系列として見事に定式化しました.この積分不変量の系列の応用から,Nill--Paffenholtzのトーリック多様体上では‘K-安定性が漸近Chow安定性を必ずしも導くわけではない’ということを見出した小野--佐野--四ツ谷の驚くべき例をいち早く予見したのも,二木氏本人でした.さらにこの例が Donaldson--Tian--Yau予想のアプローチにも大きな一石を投じ,専門家の話題にもなっています.

以上の説明にありますように,二木昭人氏の業績は日本数学会秋季賞にまことに相応しい業績です.

日本数学会
理事長 宮岡 洋一