日本数学会の出版物

日本数学会 会報 86
1997年 8月

1.1997年度秋季総合分科会について

会費の徴収

東大での秋季総合分科会では,会期が火曜日から金曜日なので例年通り,会場において会費の徴収を行います.
なお,本会の会費納入は規約上は前納となっておりますので,会員名簿綴じ込みの振り込み票により,9月中に払い込まれますようご協力頂ければ幸いです.
また,'97年度後期会費の郵便貯金からの引きおとしは9月30日(火)となっております.この制度を利用されている会員の方は確認をお願いいたします.

記者会見

1997年度秋季総合分科会に先立ちまして,1997年9月29日午後3時より,東京大学駒場において記者会見を行います. 記者会見は,日本数学会の活動を広く広報するために行われているもので,日本数学会賞秋季賞受賞者の発表,日本数学会賞建部賢弘賞受賞者の公表,日本数学会国際研究集会(MSJIRI)の紹介などを致します.
当日は,秋季総合分科会大会委員長,理事長,広報委員長の他,各賞の受賞者,MSJIRI責任者等の方々が出席します.

レセプション

秋季総合分科会会期中の10月1日午後6時より,東大数理棟コモンルームにおいて懇親会が行われます. 出席ご希望の方は,74頁にある申込み書見本を参考にして,必ず9月22日までにハガキにて数学会事務局にお申し込み下さい.
会費は6000円です.当日会場にてお支払い下さい.
当日は,秋季総合分科会の総合講演者,日本数学会賞受賞者,特別講演者,市民講演者等をご招待致します.
なお,準備の都合上,懇親会のご出席は,恐れ入りますが申し込みをされた方に限らせて頂くことがあります.

企画特別講演について

1996年度秋季総合分科会では,日本数学会50周年を記念して別枠特別講演を行いました.
この形式の継続が評議員で提案,了承されましたので,年会に引き続き1997年度秋季総合分科会の1,3,4日目の午後1時から2時まで,企画特別講演を行います. この企画特別講演は従来のサーベイレクチャーズを発展させたもので,たとえば大学院生が大会に出席して良かった,と思えるような講演を企画して別枠で行うものです.
このプログラムは各分科会の責任評議員とセッション責任者からの提案を基に,プログラム委員会で決定したものです.今後評議員会等でさらに検討を続けてより良いものを目指します.

公聴会

今回の秋季総合分科会において,『開かれた数学会を目指して』と題して公聴会を行います. 飛び入学問題,科学研究費をめぐる問題等について,これまでもテーマごとに,公開討論会等を大会開催時に行って来ました. また,評議員会では理事会の活動を報告して討論を行っています. 日本数学会をとりまく状況や,それについての理事会,評議員会の活動について,数学通信を通して全会員にお知らせしておりますが,本会を全会員に対してより開かれたものにするため,今回の公聴会を企画しました.

  • 日時10月3日(金)14:30 ~ 16:30
  • 場所第IV会場(11号館,1108教室)
  • 出席予定者日本数学会理事長,理事,各種委員会委員長および日本学術会議会員,数研連小員会委員長.

数学会の活動をなるべく広く知って頂き,また,御質問,御意見等を頂戴したいと存じます. ふるって御参加下さい.

2.1997年度日本数学会各種委員について

本年度の各種委員会委員は次の方々に決定しました.

会計委員    佐々木 武  吉田 正章
国際交流委員会 西川 青季(委員長)
        石井 仁司  桂  利行
        小谷 眞一  諏訪 立雄
                西川 青季    吉田 正章
        八杉満利子
出版委員会   谷島 賢二(委員長)
        岡本 和夫(担当理事)
        上野 健爾  砂田 利一
        松本 幸夫    谷島 賢二
学術委員会   野口潤次郎(委員長)
        深谷 賢治(担当理事)
        斎藤 政彦  砂田 利一
        谷崎 俊之  野口潤次郎
        三輪 哲二  吉川  敦
            (以上運営委員)
        大島 利雄  小島 定吉
                渡辺 公夫(以上専門委員)
ICM90記念基金委員会
        浪川 幸彦(委員長)
        野口潤次郎(学術委員長)
        西川 青季(国際交流委員長)
        森  重文(IMU理事)
        数研連委員長
広報委員会   渡辺 公夫(委員長)
        渡辺 公夫  楠岡 成雄
        桂  利行
科研費問題専門委員会    松本 尭生(委員長)
                小田 忠雄  荻上 紘一
                岡本 和夫    加藤 順二
        諏訪 立雄    藤本 坦孝
                堀田 良之
編集委員会
 ジャーナル  後藤 四郎(委員長)
                江田 勝哉  大島 利雄
        後藤 四郎  斉藤  裕
        酒井 文雄  志賀 徳造
         西川 青季  日合 文雄
        藤本 坦孝  松村 昭孝
        松本 幸夫  望月  清
        吉野 雄二  若林誠一郎
 数学    真島 秀行(委員長)
                市村 文男  伊藤 秀一
        太田 琢也  川崎 徹郎
        今野  宏  志村 立矢
        種村 秀紀  筒井  亨
        堤 誉志雄  宮地 晶彦
        山本 博夫  横川 光司
        吉田 朋好  吉田 朋広
              (以上常任)
                今吉 洋一  宇澤  達
        大鍛冶隆司  金子 昌信
        木上  淳    剱持 勝衛
        幸崎 秀樹  小高 一則
        児玉 秋雄  小林  治
        佐藤 栄一  佐藤 圓治
        神保 秀一  寺本 恵昭
        長尾 壽夫  成川 公昭
        野倉 嗣紀  野村 隆昭
        林 実樹広   枡田 幹也
        松澤 淳一
  数学通信   浪川 幸彦(理事長・責任者)
                岡本 和夫(出版担当理事)
              楠岡 成雄(理事)
                小澤  徹  長谷川浩司
                塚田 和美    小林 亮一
        河野  明  難波  誠
                内藤 博夫  鎌田 正良
                    (以上支部評議員)
                真島 秀行(数学編集会)
        水谷 優子(事務長)
 パブリケーション
        藤原 大輔(委員長)
                伊原 康隆  上野 健爾
        落合卓四郎  砂田 利一
        西田 孝明  藤原 大輔
        渡辺 信三
 Advanced Studies in Pure Mathematics
           小田 忠雄(委員長)
                新井 仁之    井川  満
                伊原 康隆    大島 利雄
                小田 忠雄    落合卓四郎
                柏原 正樹    加藤 和也
                川中 宣明    川又雄二郎
                砂田 利一    高橋陽一郎
                谷崎 俊之    西川 青季
                野口潤次郎    三輪 哲二
        向井  茂    森田 茂之
                坂内 英一
  日本数学会メモアール
                柏原 正樹(編集委員長)
                三輪 哲二(編集局長)
                岡本 和夫(担当理事)
        

3.日本学術会議第17期会員について

会報84号でお知らせしましたとおり,日本数学会では,日本学術会議第17期会員候補として,上野健爾氏(京都大学)と岡本和夫氏(東京大学)の両名を,日本学術会議に推薦いたしました.
5月14日に行われた日本学術会議推薦人会議の議を経て,この度上野健爾,岡本和夫両氏が選ばれ,7月22日に正式に任命されました.

4.日本学術会議第17期数学研究連絡委員について

会報84号で告示した標記委員の選挙については,4月の第1回投票,5月の第2回投票が無事終了しました.  この度,日本数学会の推薦する委員の人数は16人である旨日本学術会議から通知がありましたので,選挙結果をもとに本会規約にのっとり推薦を行います. 委員の名簿については確定後次号の会報でお知らせ致します.

5.日本数学会学術委員会報告

(1)学術委員会の構成

運営委員

今年の6月末日に,7年間運営委員を務め前委員長であった川久保勝夫氏と6年間運営委員をされて来ました大島利雄氏が内規により任期満了となり,木上淳委員が1期目で1年任期を残していますが,1年間の外国出張ということで辞任しました. 7月1日より砂田利一,谷崎俊之,斎藤政彦の諸氏が新委員として加わりました. 運営委員の任期は3年です. 従いまして,現在の委員構成は,次の通りです. ( )内は,主たる分担と何期目かを表しています (RW=Reginal Workshop).

野口潤次郎(委員長,2期目),三輪哲二(RW, 2期目),吉川 敦(RW, 2期目),砂田利一(湘南数学セミナー, 1期目),谷崎俊之(1期目),斎藤政彦(1期目),深谷賢治(担当理事,任期1年).

専門委員には,次の諸氏をお願いしています. 専門委員の任期は1年です.

大島利雄(電子便宛名一覧),渡辺公夫(広報・湘南数学セミナー),小島定吉(RW).

(2)学術委員会の受けている諮問事項

学術委員会の内規によれば,学術委員会の目的は次のように書かれています.
第2条 委員会は,日本数学会の学術的
活動全般について企画立案し,理事会に勧告,その承認を得て実行する.
現在,理事会より本委員会に諮問されている事項は次の通りです.

  1. 春季・秋季の学会の際の総合講演者候補の推薦のアンケートをとり,総合講演者候補を理事会に提案する.
  2. 日本数学会国際研究集会の運営.同提案の公募,日本数学会国際研究公募選考委員会の開催,理事会への提案,援助財団情報の提供,企画書・予算書作製依頼,報告書依頼,記録保存,etc. 又,1997年1月18日に日本数学会国際研究集会(MSJ-IRI)報告書を理事長に提出した(数学通信1巻4号117~123頁).
  3. 日本数学会 Regional Workshop の運営.同提案の公募,同公募選考委員会の開催,理事への提案,援助財団情報の提供,企画書・予算書作製依頼,報告書依頼,記録保存,etc.
  4. 湘南数学セミナーの運営(主催(社)日本数学会,(株)湘南国際村協会).1泊2日の開催日程で行ってきた.企画立案,講演者選出依頼,湘南国際村協会との擦り合わせ,参加者の公募,受け付け,報告書依頼,記録保存,etc.(数学通信2巻1号,39~40頁に第2回報告).

活動状況と課題 上記諮問事項について現在の活動状況と課題を番号順に纏めます.

  1. 総合講演候補者は,原則として過去5年間の総合講演を行った人,理事,学術委員会運営委員,及び各分科会責任評議委員を対象にアンケートを行い,大体2名ぐらいを順序を付けて理事会へ答申しています. 過去一時アンケートの集まりの悪い時期もありましたが,現在は数名からそれを上回る回答を得て順調かと思います. ただし受賞者による総合講演は別でその該当選考委員会で決めます. いずれにしましても最終決定は理事会がします. 学術的観点と分野のバランスを主たる判断基準にしています. 海外からの人の場合は,話を聞くチャンスが限定されていることも考慮されます. アンケートの回答数を維持すべく委員が広報に努めないといけないと考えています.
  2. 日本数学会国際研究集会(MSJ IRI=Mathe-matical Society of Japan International Research Institute)は,現在第6回(1997年度)までが実行され,第7回(1998年度)が準備中,これを書いている時点では第8回(1999年度)の公募が終了したところです. 詳しいことは,MSJ IRI 報告書が数学通信第1巻4号,117~123頁に発表されていますので,御参照下さい. 予算的には,数学会が200万円(~250万円)出しています. その他には,これまでの経過をみますと,万国博覧会記念協会に支援してもらえる可能性があります. また,特筆すべきこととして,第7回(1998年度開催)に対しては,数理科学振興会より本シリーズの国際研究集会に援助(100万円)の申し入れがあり,喜んで受けました. 文部省科学研究費には海外渡航費使用の規制緩和等の状況変化もありますが,国際学術研究等とバッティングする使用は認められていませんし,将来どのように変化するか分からない面もあります. 一方,上述のように財政的には初めの頃と比較すれば状況はかなり改善され,開催手順のマニュアルや各種申請書・報告書のサンプル等も整理・準備されていますので,事務局の負担の部分は大分軽くなって来ていると思います(この辺は,ある程度苦労の楽しみのある所もありますが.) 現在の公募方式は,第4回(1995年度)からで,採択は MSJ IRI公募選考委員会が候補を決め,それに基づき学術委員会が理事会へ答申し,理事会が最終決定します.
    集まった公募案と,公募選考委員会の名前は,採択案の決定のお知らせとともに公表されます.第4回から第7回までは,5~10件の公募案が集まり順調でしたが,第8回では2件の案しか集まりませんでした. 一方,国内の研究集団で国際的にもかなりのレベルで活動しているのにこの公募に殆ど応募してこないものがかなりあります.
    一部には,「やると,とてつもなく大変である」といった思い込み違いもあるようで,上述の様な状況を踏まえ,より一層の広報活動を行ない,会員の方々に正しい認識を持ってもらう必要があります.
    また本シリーズの国際研究集会とは理念的に異なるものではありますが,これまで20年以上に亘って年2回ずつ開催され,日本の数学の国際交流の柱を成して来た谷口シンポジウム(数学部門)が1998年度で谷口財団の解消とともになくなることも,MSJ IRIをどう位置付けてゆくかを検討する上で重要なことであると考えます.
    学術委員会としては,このような活動は継続的に行うことが大事であると考えています.
  3. RWは,数学通信第2巻1号,67頁にある主旨で,随時公募中です.この企画は,IRIが比較的規模の大きな(一般的には,中規模)会合を対象とするのに対し,いわば MINI-INSTITUTUE とも言うべき小規模なしかし期間が少し長く滞在型のものを考え企画されました. 1996年度から3年間の試行企画とし,数学会より総額500万円,約10件の企画を考えて出発しました. 現在実行されたもの,計画が決定されたものは次の通りです.

    ⅰ.柴田良弘(筑波大)代表,実解析的方法の非線形発展方程式への応用,於筑波大学,1996年12月2日~13日,1997年1月13日~28日.
    ⅱ.宝来正子(東工大)代表,型理論と証明論,於東京工業大学,1997年9月8日~19日.
    ⅲ.小島定吉(東工大)代表,Cone-Maniーfolds and Hyperbolic Geometry,於東京工業大学,1998年7月1日~10日.

    その他3件が現在検討中です. 募集案内の中で,開催場所について「研究代表者の所属する大学で開催する」と規定してあり,限定的過ぎるので現在緩和の方向で検討中です.
    この企画は,数学会の新しい出版物である「メモアール」(企画進行中)から講義録を出す点が新しく,目玉でもあると思います. 一方,この RW を始めた頃は,現在のような科研費の海外渡航への使用が全く許されてなかった時で,新しい状況の中でこの企画をどのように進めて行くかには難しい点もあります. 当委員会では,この点鋭意検討しつつ進行しますが,皆様のお知恵も頂ければ思います.
  4. 湘南数学セミナーは,神奈川県三浦郡葉山町の山の手にある湘南国際村センター(国際会議場+宿泊室)会場として開催され,日本数学会とそこを経営する神奈川県の第3セクター方式の(株)湘南国際村協会(以下協会と略称する)が共同主催するものです. 広く高校生や一般市民を対象に数学の面白さや,数学に対する正しい認識を持ってもらうものとして企画されました. 第3回 MSJ IRI(1994年度) がここで開かれたのが縁で,その時に協会側から一般市民を対象とした講演会の開催を提案され,実行したところ大変好評で,その後協会の文化活動の一つとして位置付けたそのような数学講座を開催したいとの要請を受け始まったものです. プログラムは,一泊二日で行い,参加者数は50名前後をめどとしています. 月刊誌数学セミナーに広報を載せてもらっています. 宿泊施設もありますので新潟や中四国等の遠方からの参加者もあります.
    その意味で,全国的催し物と言えます.現在2回が行われ,3回目が準備中で,今年の12月末に開かれる予定です. これは,未だ試行錯誤の段階で,定着にはまだしばらく時間がかかることと思いますが,一応好評であると評価して良いと思います.
    学術委員会としては,MSJ IRI とはある意味で対極にある日本数学会の催し物として定着するよう継続的努力をしてゆきたいと考えています. 講演の要請等につき,皆様の中のどなたかに協力要請がありましたときはどうか宜しくお願いします.

(3)Regional Workshop について

「活動状況と課題」の中でも触れられましたが,従来の募集案内で,開催場所について「研究代表者の所属する大学で開催する」と規定してあり,限定的過ぎるとの意見があり関連委員会で検討の結果次のように変更されました: 「組織委員代表者または組織委員の所属する大学で開催する」
今回,37頁に,関連する部分の変更も含め変更済みの「Regional Workshop 提案募集」があります. 既応募分も含め今後は,この方針で運営されます.
皆様の積極的応募をお待ちしています.

(学術委員長 野口潤次郎記)

6.国際交流委員会

(1)来日数学者に対して以下の条件で講演の援助をしておりますので数学会事務局に申請書類をご送付して下さい.
援助の対象者は来日数学者で以下の要件を満たすものです.

  1. 文部省,学振,科研費のいずれより援助のないもの.
  2. 会計年度に来日数学者1人1回に限る.
  3. 一年度に複数回申請し1回目が採択された場合は2回目以降は不利になる.
  4. 助を受けた場合には講演終了後の記録をワープロで作成して提出する.

申請の際には,以下の項目を書いて下さい.

  1. 演の氏名,所属,職名,年齢
  2. 在期間
  3. 航費,滞在費の出所
  4. 助を必要とする理由
  5. 演予定日時,場所,題目
  6. 話人の氏名,所属,連絡先,電話番号,fax, e-mail
  7. 振込先銀行名,支店名,口座番号,名義人氏名(フリガナ付)
  8. 講演者についての紹介.

(2)国際交流委員会では以下の要領で援助をしておりますので 1998年4月1日から1999年3月31日までに開催される国外研究集会に対して援助を希望される方はご応募下さい.

国外研究集会援助規則

  • *主旨現在経済的に困難な状況に陥っている地域において,数学の発展及び数学者の交流を促進するため,国際交流委員会は,その地域で開催される国際研究集会に対して財政的な援助をすることができます.
  • *援助の条件1.経済的に困難な状況にある地域で開催されること.
    2.日本数学会会員がその研究集会に組織委員,プログラム委員または招待講演者のいずれかの形で関係していること.
    3.その研究集会の報告集が出版され,その報告集に数学会の援助が銘記されること.報告集を一部日本数学会に寄付すること.
  • *援助の決定 1.申請は,当該研究集会に関係する日本数学会会員が行う.
    2.申請に対して国際交流委員会が審査の上,援助を決定する.
    3.援助を受けた研究集会終了後,申請者は速やかに研究集会の報告を国際交流委員会に提出するものとする.
  • *申請書類 1.研究集会名,主催者名,開催地,期間,組織委員とプログラム委員の名簿
    2.研究集会の内容と目的,主な講演者名
    3.数学会の援助の必要性を示す資料(研究集会開催のための予算と財源の概要)
  • *申請期限毎年2月末日

(前国際交流委員会委員長 小谷眞一記)

7.出版委員会報告

平成8年7月から平成9年6月までの出版委員会の活動をご報告いたします.

  1. 以前にもお知らせ致しましたが,日本数学会による新しい不定期刊行物の出版を理事会に提案し,理事会において決定されました. これは,日本数学会50周年を記念することを直接の動機としたものでしたが,このような不定期刊行物の出版により,欧文ジャーナルや雑誌「数学」では扱いにくい長い論文や国際会議の議事録,講義録,優れた博士論文,興味ある集中講義の記録等を,臨機応変に出版することが可能になると期待されます.
    すでに,岡本和夫氏を担当理事とし,柏原正樹氏を Chief Editor,三輪哲二氏をManaging Editor とする体制で活動がはじまっています. 当面,英文の MSJ Memoirs というシリーズで刊行予定です.
  2. 日本数学会編集,岩波書店発行の「数学辞典」「第4版」の出版を理事会に提案しました. これを受けて,平成8年12月14日の理事会で,「第4版」の出版にむけて諸問題を検討することが決定されました.
    いずれにせよ,「数学辞典」「第4版」の出版は日本数学会会員の多くの方々の協力なしには不可能であると考えられます. 次回の評議員会でも検討致しますが,広く会員の方の意見を聞くための第一歩として,1997年度秋季総合分科会での公聴会の折りに,「第4版」発行に関して皆様のご意見を伺うことに致しました. どうぞよろしくお願い致します.
  3. 平成9年7月1日付けで,出版委員長が谷島賢二氏に代わりました. これは,前委員長の松本幸夫が6月30日に任期切れになったためです. なお,出版委員会の内規により,前委員長は1年間出版委員会に留まります. 新しい出版委員会のメンバーは次の通りです.

    委員長:谷島賢二,出版担当理事:岡本和夫,委 員:上野健爾,砂田利一,松本幸夫.

(前出版委員長 松本幸夫記)

8.ASPM編集委員会

Advanced Studies in Pure Mathematicsシリーズ新刊について

赤堀隆夫(姫路工大), 小松玄(阪大), 宮嶋公夫(鹿児島大), 難波 誠(阪大), 山口佳三(北大)各氏の編集になる Advanced Studies in Pure Mathematics 第25巻 CR-Geometry and Overdetermined Systems(約425ページ)が1997年7月に発行されました. 今後とも, 日本数学会国際研究集会や, 京都大学数理解析研究所プロジェクト研究等を核とした続巻を刊行すべく企画が進行中です.

(ASPM編集委員長 小田忠雄記)

9.広報委員会

[マスコミ対策]

広報委員会は春・秋の学会に先立ち,記者発表会を行い,広報活動に努めてきた. しかし,記者発表会の後に受賞者の名前・業績に関して広報活動したのでは,情報の鮮度か落ち,新聞への掲載率が低いという状態が続いた.
次回からは,理事会での受賞決定に従い,受賞者とその業績に関する情報を学会前日の記者発表に先立ち,広報委員会がまとめ,前もって新聞各社に送ることとなった.

[シンボルマーク]

50周年記念行事として,数学会のシンボルマークを公募した. 広報委員会で検討し,理事会に提出したが,確定にいたらず. しばらく,川崎氏の knotted torus を従前通り使用し,様子をみることとなった.

[パンフレット]

理事長の交代,建部賞の新設,東南アジア数学会会長の交代等に伴い,パンフレットを更新することとなった.

[公開講座]

各大学での体験学習として,数学の公開講 座の開催が盛んに行われている.日本数学会 としては

  • 湘南数学セミナー(年一回,夏休み,あるいは冬休み)
  • 学会での市民講演会(年二回)

を行っているが,これらは大都市に集中しがちである. したがって,これらを補完するものとして移動する数学セミナー「サロン・ド・すーがく」を開催してきた. 試行期間を経て運用に向けて準備中である. 目下,目的を明確化し,運用に関するマニュアルを作成中である.

(広報委員長 渡辺公夫記)

10.日本数学会科研費問題専門委員会について

日本数学会理事会では,科学研究費をめぐる様々な問題に対処するため,科研費問題に関するワーキンググループを設けて,情報の収集,広報活動を行って来ました. この度,このような活動をより充実させるために,ワーキンググループを発展的に解消して,科研費問題専門委員会を設置することにいたしました.
この設置は,4月24日の理事会で認められました. 専門委員会は,科学研究費に関する,日本数学会として対応すべき種々の問題についての理事会の諮問に対し,専門的立場からこれを検討して理事会に答申します. また,常に資料収集に努め,会員に対する広報活動を行います. 科研費ワーキンググループとして行った,外国旅費の使用状況に関するアンケート結果は,会報85ですでに紹介したところです. また,科研費審査委員推薦のあり方について,理事会からの諮問も受け,さしあったて,平成10年度の審査委員推薦方法については,その案を理事会に提出しています.

現在の委員と任期はつぎの通りです.

 委員長 松本尭生  (1997.5-1999.2)
 委 員 小田忠雄  (1997.5-1998.2)
     荻上紘一  (1997.5-1998.2)
     加藤順二  (1997.5-1998.2)
     諏訪立雄  (1997.5-1998.2)
     藤本坦孝  (1997.5-1999.2)
     堀田良之  (1997.5-1999.2)
     岡本和夫  (1997.5-1999.2)
        

11.文部省科学研究費補助金について

ー細目が変わるー

平成7年11月に科学技術基本法が施行され,科学技術基本計画に基づいて政府の研究開発投資額の抜本的拡充が図られ,制度面でも柔軟かつ競争的な研究環境を整備することがうたわれています. その一環として,平成8年度には上記補助金の総額が1千億円を超え,厳しい財政改革の中でも,増額が続いています. この助成金は「大学等における優れた研究を格段に発展させることを目的とし,学問全般にわたり,研究者の申請に基づき,学術審議会に設けられた審査組織における専門的見地から優れた研究を選択的に支援する」(平成8年7月学術審議会中間まとめ)ものです.
「大学等の真に基礎的な研究や,先駆的でリスクの大きな萌芽的研究,若手研究者の優れた着想による研究など,我が国の研究基盤を形成する研究を助成する」という考えにより,数学分科にも申請件数・申請金額をもとに全体の1%程度が配分されてきました.
今年も申請時期が近づいてきたので,いくつか注意を喚起すべき事項を整理したいと思います. 調書の書き方については三町さんが別に書いてくださるので,ここでは細目の変更予定などについて記します. 細目は申請件数が300を超えないようにしたいという配慮から「解析学」が「基礎解析学」と「大域解析学」に分れ,他の細目のキーワードも少しずつ変わり,旧来の4細目が5細目に再編された形になるようです.キーワードの確定したものは公募要領を見ていただくことになりますが,学術月報4月号によれば,細目(暫定キーワード)は,

代数学  (数論,代数幾何,代数一般,群論,環論)
幾何学  (微分幾何,複素多様体論,位相幾何,複素解析幾何,微分トポロジー)
基礎解析学(複素解析,実解析,関数方程式,関数解析,確率解析,代数解析)
大域解析学(関数方程式の大域理論,変分法,非線形現象,多様体上の解析,力学系,作用素環)
数学一般 (数学基礎論,確率論,統計数学,応用数学,組合せ論,情報数理,有限数学)

となっています. 大枠は変わらないと思いますが,一部変更があるかも知れません.
審査は細目ごとに行われるので,申請に当たっては,キーワードを充分考慮の上,研究代表者の判断で細目を選択ください. 後述するように採択率はどの細目でも同じです. また,審査委員の方々には細目分類はある意味では便宜的なものであるという点にも充分配慮いただき,広い観点から審査いただけるようお願いしたいところです.
申請および研究実行は研究代表者が主体的・専権的に行うものであるということを強調しておきます. 研究分担者以外に旅行を依頼することも,ときに理由を書く必要がありますが,それ以上の問題点は何1つありません. 図書を備品で買うことも必要なら当然の行為です. また,研究期間が2年以上のものは研究報告書が冊子で必要なことにも留意下さい.
一昨年まであった総合研究Aは異なる研究機関に属する複数の研究者が研究を行う基盤研究(1)に含まれた形になっております. 従って,総合研究Aと一般研究を重複申請する代わりにその合計金額で基盤研究(1)を1つ申請するという考え方は昨年と変わり無い筈です. この場合も,研究集会等の旅費を使用するだけならば,基盤研究(2)でも可能です.総合研究A的な研究はこれまで数学の進歩に大きな役割を果たしてきたと思われますので,その利点を生かした研究方法を各専門分野等で続けていただければ幸いです.
研究(1)を選択するのは,研究分担者の半数以上他の研究機関の研究者をいれるか,補助金を分担者に配分する場合です. (1)では研究代表者が経理責任者になるので,あまり細かい配分をしない方が賢明です.
種目の重複申請の可能性は各年度で変わりうるので,必ず公募要領を熟読ください. 昨年は基盤研究に,(一般),(展開研究),(企画調査)の区別があり,それぞれ1件以内ならば重複申請可. 奨励研究Aは採択率がよい代わりに他種目への重複申請は不可.萌芽的研究は基盤研究C(一般)・奨励研究A以外とは重複申請可でした. 記述が肯定ではなく否定で書いてあるので注意が肝要です. さらに,重点領域研究の公募研究への応募はほとんど重複申請が可能です. また,数学関係からの応募実績は確認しておりませんが,特別推進研究というのも有ります.
重点領域の研究領域の申請は,時期が別ですが,その準備は従来総合研究Bで行うことになっていましたが,昨年から基盤研究(企画調査)で行うことになっています. 「無限可積分系」の実績も有りますので,研究領域の申請も是非とも行ってほしいものです.
基盤研究(一般)は特色ある研究を格段に発展させるものとなっていますが,真に基礎的な研究の独創的,先駆的なものを推進するものです. 学術研究は,その研究成果が人類共通の知的財産になるという表現が先にも引用した平成8年7月の学術審議会の科学研究費補助金の充実(中間まとめ)にあります. 個々の研究の申請が審査されるわけですが,単なる申請技術の競争に堕することなく,レベルの高い研究を奨励し,その総体としては数学界全体の健全な発展に寄与し,文化的価値を高めるようにしなければならないと考えます.
科学研究費補助金は実験を主体に考えられてきたので,数学研究の立場からは少々異質なところもあります. 一方,旅費が研究費の大半を占める研究計画についても無限可積分系以来文部省でも理解はある程度進んでおります. これからは数学や文化を担う学問の研究にはどのような研究費が有効かについても提言出来るよう準備が必要です. 現状でも,研究者の育成・研究環境の整備に有効利用することは可能であり,重要です. 事後の評価についても検討されているようですので,何が大事かについて共通認識が持てるようにする努力も必要でしょう.
審査については,日程を含む審査方針が公表されています. 昨年はこの部分が大々的に配布されました.公表されたものにほんの少し内情探索を加えると,第1段審査員が書面審査で5段評価を行い,それを審査員毎に2桁の点数(Tスコア化)に換算し3ー6名の審査員の点数を合計したものによって〇や△がついたものが基礎資料となり,第2段審査はそれから総合的な観点から合議によって採択課題を決めるようです. 数学分科の第2段審査はバランスも考えて大変な努力をしております.しかし,基本的には第1段審査員の評点で決まります.
審査が公正で,数学界の健全な発展に寄与できるよう,専門委員会でも理事会の諮問を受けて委員の推薦方法や各種資料の収集提供等を検討しております.
採択された課題の一覧は科学新聞,ぎょうせい発行「文部省科学研究費補助金採択課題・公募審査要覧」の他,学術情報センターのデータベースに登録される予定です. とくに採択課題・公募審査要覧には配分基本方針,配分審査,種目ごとの採択率等も詳しく載っているので,是非とも参考にしてください. とくに,それぞれの考えでデータの整理をされた方はその結果をお知らせいただけると幸いです.
採択率は決して低くないのですが,固定客が増える傾向に有り,申請をしても採択されないと思ってしまう人が多くなる可能性があります. その人たちが申請を止めると,分科への配分が申請件数と申請金額に関する比例配分であることから,実は数学分科への配分が確実に減るという大変なことが起こります. それは研究種目ごとの分科への配分額が次の式で決まるからです.  分科への研究種目ごとの配分額=A+(BーA)×(5a+5b)/10 ただし,それぞれの研究種目に対して,A=継続研究課題の本年度分の内約額,B=当該研究種目の本年度配分予定額,a=新規申請本年度研究経費の内その分科の分/新規申請本年度研究経費,b=新規申請研究課題数の内その分科の分/新規申請研究課題数.  採択された研究代表者もこのことをご理解いただいた上で,研究の実施をお願いいたします. また,不運にもその年は採択されなかった申請者は,研究集会等への参加に当たっては堂々と主催者や関連の研究代表者に旅費の支給を願い出ていただきたいと思います. 勿論多くの場合資金不足で無理と思いますが,余裕がある場合には,事情が考慮されると思います.
審査委員についても過去のものが採択課題・公募審査要覧に本人の了承のもとに公表されています. その一部をを採録しましょう.
平成元年からの理学小委員会委員は小田忠雄(1年),難波完爾(1・2年),荻上紘一(2・3年),村松寿延(3・4年),近藤武(4年),加藤順二(5年),松本尭生(5・6年),諏訪立雄(6・7年),藤本坦孝(7・8年),堀田良之(8年)です. 第1段審査員の公表は平成7年度からで,代数学:森田康夫,川中宣明,渡辺敬一(7年),坂内英一,上野健爾,織田孝幸(7・8年),伊吹山知義,向井茂,野海正俊(8年),幾何学:荻上紘一,酒井隆,森田茂之,高橋恒郎(7年),河内明夫,西森敏之(7・8年),坂根由昌,西川青季,河野明,佐々木武(8年),解析学:橋爪道彦,望月清,水田義弘(7年),藪田公三,河野実彦,加藤崇雄(7・8年),風間英明,島倉紀夫,藤原英徳(8年),数学一般:三好哲彦,榎本彦衛,藤越康祝,永島孝(7年),江田勝哉,河野敬雄(7・8年),池田勉,小沢正直,柳川尭,小林孝次郎(8年)でした. 平成9年度の委員の公表は来年度ですが,今度の審査は平成10年度の委員が担当します.
審査の要点は要覧に詳しく載っており,三町さんの解説もあります.そちらを参考にしてください.大変すばらしい解説です.
第2段審査のときに付き合ってくださる学術調査官経験者の1人が科学研究費補助金のホームページを開設しています.こちらも是非ともご参照ください.

http://www.pe.titech.ac.jp/MizumotoLab/kaken/index.html

(科研費問題専門委員会委員長松本尭生記)

12.16期数学教育小委員会の報告

数学教育小委員会の委員長を1期3年にわたってさせていただいた. 責任の大きい仕事であることは承知していたが,実際になかなかしんどかったというのが実感である.
数学教育小委員会は数学研究連絡委員会に属する委員会で,日本学術会議から公認された小委員会である. その構成委員は日本数学教育学会から推薦された2名の数学研究連絡委員とさらに数学教育に関心のある数学研究連絡委員に加え,さらに若干の委員を補充する. そのとき,数学教育のための研究連絡委員会は無いので,数学教育関係の諸学会からの代表が複数入るように考慮することになっている. ここで数学教育というのは主に普通教育での数学教育をさすが,大学の数学の基礎教育なども関心のうちにあっていい.

小委員会の仕事は大別すると国際対応と国内対応に分かれる.

国際対応:
ICMI(International commisーsion on mathematical instruction) という国際組織がありこれはIMU(Internationalmathematical union)の中の委員会であって,この国内対応の委員会として,数学教育小委員会が機能している. だからICME(数学教育世界会議,4年に一度,ICMの開かれない偶数年に開催される)への代表派遣や国際的な数学教育関係会議も小委員会が関わることがある. 数学教育小委員会の委員長はICMIの日本の代表者となることが普通である. ただし,ICMIはICMのときの総会で役員が決まり,翌年から4年間が任期なので,研連の委員の任期とずれることもあり,必ずしも自動的に変わるわけではない.
国内対応:
数学教育に関連したことはいろいろある. 数学教育の小委員会で意見をまとめて,数研連で議論して成案ができれば,学術会議会員を通して学術会議に働きかける事が可能である. 具体的には入試センター関係のこと,教育関係の審議会(中央教育審議会,教育課程審議会)への要望をまとめて出すことがある.

16期の数学教育小委員会まとめ

  1. 今期の委員は数研連委員の他にもかなりの方に委員をお願いした.
    委員の人数は数学(主として)関係者と数学教育(主として)関係者がほぼ同数になるように配慮した. 日本数学会,日本数学教育学会,数学教育学会,数学教育協議会,日本応用数理学会の会員に参加していただいた. 幹事は当初は澤田,松本両委員,95年7月から浪川,茂木両委員も加わった. そのため委員の数は多くなり,26名となった.
  2. 毎年7,11,3月に委員会を開き,会場は主として学習院大学理学部を使った.
  3. 国際対応では,ICME8(スペインのセヴィリヤで開催),ICME9(2000年に東京/幕張で開催予定)及び,第1回東アジア数学教育会議(1998年8月韓国)への対応を主に相談した.
  4. 主に委員が寄稿して,中教審に意見を伝えるべく数学教育小委員会編「数学教育の重要性をあえて訴える」を作り,中教審の委員,文部省職員,課程審の委員,マスコミ等に配布した(95年4月,10月に増補版).
  5. 「次期教育課程に向けての要望」をとりまとめ日本数学会,日本数学教育学会,日本応用数理学会の会長の声明とあわせて,中教審会長に提出した(95年10月).
  6. 「教育課程審議会への要望書」(第3回国際数学・理科教育調査の国際比較結果を参考に)を作り,教育課程審議会会長に提出した.(97年2月)
  7. 中教審の審議に関係し数学教育懇談会を2度オープンな形で開いた. 各回20名程度の参加者があり,文部省から4,5名の参加を得てはなはだ有意義であった.

(飯高 茂記)

13.日本学術会議第16期数学研究連絡

委員会ー応用数理小委員会活動報告

◇今期の活動の反省

前期15期に山口委員長の下で活動を行った応用数理小委員会は,引き続き今期も15名の委員をもって構成し,活動を行った. 15名中10名は数学研究連絡委員会委員が,また数学研究連絡委員会委員以外の5名としては工学系学部の出身者または在籍者が参加した. 委員長は森が,また幹事は牛島,西田の両委員がつとめた.
今期初頭には,応用数理小委員会が今期中に検討したことを応用数理白書のような形でまとめて外部にも公表することを計画したが,諸般の事情で実現しなかった. また,工学系学科および数学科の学生のための応用数理カリキュラムを提案することも計画していたが,実現に至らなかった. そこで,これまでに開催された小委員会の会合記録をもとに,今期の活動のまとめを作成し,このメモの形で次期の委員会に申し送ることにした.

◇応用数理をとりまく環境

数学は元来それ自体閉じた学問体系として独自に研究対象となるところに大きな特徴がある. 一方数学は,自然科学,工学をはじめとしてさまざまな学問分野の論理的背景を支えるものであるために,必然的に数学以外の分野との接触を免れるわけにはいかない. 実際,自然科学や工学では数学は不可欠の道具であり,逆にこれらの分野から純粋数学の新しい研究課題が生まれてくる. したがって,数学を強力な道具として活用している研究者あるいはそのような視野から数学自体を研究対象としている研究者が数学以外の学問分野に大勢いる. 一方,数学界の中にも応用を指向した数学を課題として研究している数学者がいる. 応用数理とは,そのような研究者の研究対象の総称あるいは研究態度の総称であると考えることができよう.
近年のコンピュータの発展と普及によって数学の重要性が著しく高まったといわれているが,実際には応用数理の置かれている環境はそれほど楽観できるものではない. たしかに,産業界においても数学の果たしている役割は厳然として大きく,とくにソフトウェア技術の基盤を支えるものは数学であるといっても過言ではない.しかしながらわが国の産業界では,応用数理的技術の開発に対する必要性は認識していてもそれが実行に移されるケースは少なく,したがって,応用数理的技術の発展に対する産業界からの寄与は,数学界からの寄与と同様,あまり大きいとはいえない.
一方,数学はあらゆる学問分野あるいは技術分野を横断する共通言語,共通基礎技術である. しかしながら,学界と産業界の間はもとより,学界内,産業界内においてさえ,専門分野が少しでも異なると相互間の連携あるいは情報交換はあまりないのが通例で,数学という共通言語は実際上機能していないといっても差し支えない. さらに,数学と工学との仲をとりもつことができる人材は,わが国にはきわめて少ない. このような能力をもつ優秀な人材を多数育成し,これらの人々を仲介として数学と工学あるいは周辺諸科学との交流と連携を深めなければ,わが国の産業の発展と応用数理の新しい研究課題の創出は望めない.

◇応用数理のための学会活動

このような状況を打破し,かつ応用数理という学問分野の振興を図るために,同じ意志をもつ研究者と産業人が協力して,1990年に日本応用数理学会を発足させた. 発足時には800名程度であった会員も現在では1800名を越え,活発に学会活動を行っている. 数学者と応用数理学者との交流,応用数学者と産業人との交流は盛んになり,相互理解も次第に深まっている. 産業人は数学を工学あるいは技術により適切に応用するようになり,逆に数学者が応用の中に数学の問題を発見する機会は増大しているといえる. しかし,その成果は,学界あるいは産業界に多大の影響を与えるまでには至っていない.
国外に目を転ずると,イギリス,アメリカ,ドイツ,フランスでは,かなり以前から応用数理の重要性を認識し,それぞれの国で応用数理のための学会を設立して活動を行ってきた. そして,1987年にこの先進4ヶ国の学会が合同して,第1回の応用数理の国際会議をパリで開催した. 一方,日本応用数理学会が発足したとほとんど同時期に,中国,イタリア,ブラジル,北欧などでも新しい応用数理の学会が次々と誕生した. その後これら後進の学会も加わった国際委員会が組織され,その委員会の運営により4年ごとに3000ないし4000人規模の国際会議が開催されている. しかし,わが国からの参加者は毎回50名程度と少ない.

◇数学教育の危機

最近,わが国における数学教育の地盤沈下が危惧されている. この地盤沈下は,産業基盤を危うくするだけでなく,日本人の生活基盤そのものを危うくする可能性があるとさえいわれている. 産業界でも,最近の景気低迷を背景に,応用数理を基礎に据えたような基礎研究には思うようには投資することができず,もしも数学が必要になればその時に自前でやるという方針をとっているように見える. 大学における数学教育においても,大学院高度化の浸透と授業科目の大綱化の影響で,工学系学部では数学の専門家による基礎数学の講義が停滞ないしは消滅しつつあり,ここでも数学教育が必要であれば自前でやるようになってきている. さらに,情報工学や情報科学の分野でさえ数学を教えなくなる傾向にあるといわれている. したがって今後,応用数理学者および数学者が,工学系学部,情報系学部の数学教育担当者との連携を強め,かつこれらの学部の人々全体の数学に対する理解の回復につとめることは,数学教育そのものの弱体化に歯止めを掛けるためと応用数理学者の職場を確保するためという両面で,緊急の課題であるといえよう.
さらに根本的に重要なこととして,初等,中等教育における数学教育の地盤沈下に歯止めを掛け,その回復に努める必要がある. そのためには,学会活動などを通じて応用数理の重要性に対する産業界の認識を一層深めるよう努力し,さらにその認識に基づいて,産業界の側から一般国民および行政面に,数学教育の再興を図るべく働きかけてもらうようにつとめるべきであろう.

◇応用数理指向の若者の養成

わが国の数学界は,物理学界とは比較的連帯意識が強いが,工学界との連帯意識は伝統的に弱い. 工学で要求されている数学と純粋数学との間のギャップが大きいこともあるが,前述したように両者の仲をとりもつことのできる応用数理学者が少ないことにも問題がある. これまで全国の数学科では純粋数学指向の若者の養成が教育の主眼となっていたために,わが国では応用数理指向の研究者が系統的には育っていない. その少ない応用数理学者は,数学分野だけでなくさまざまな学問分野に分散して研究教育活動を行っている. そのために,応用数理分野の研究者が得ることのできる職場は自ずと限られたものになり,したがって後継者が育たないという悪循環に陥っている. しかも上述したように,これまで応用数理学者の職場として機能してきた工学系学部の数学教育の場が失われつつある. また,科研費の申請においても,各々の応用数理学者が活動している当該分野からは研究内容が数学の理論に寄り過ぎると見られ,一方数学界からは応用に寄り過ぎると見られ,科研費取得にも概して厳しいものがある.
このような状況を改善するためには,ある程度の数の応用数理指向の数学専攻の学生を養成し,世に送り出すようなシステムが必要であろう. そのためには,従来の数学科においてはより多くの学生に応用数理的指向をもたせるように図り,かつ応用数理学科に相当する学科を新設ないしは増強することが望まれる. また,応用数理の専門家を多く養成するだけでなく,大学の工学系学部,情報系学部における基礎数学教育の弱体化を阻止し,工学系,情報系学部出身の学生の数学的素養のレベルを回復させなければならない.
結論として,数学的才能に恵まれしっかりとした数学的訓練を受けた多くの若い人たちが,自ら進んで応用数理の課題に挑戦する気風を醸成するような環境づくりを,数学界,産業界双方が一体となって推し進めることを期待したい.

◇次期への申し送り事項

以上の状況分析の下に,次期数学研究連絡委員会に向けて次のことを申し送りたい.

  1. 引き続き上記諸問題の解決を図るために,次期も応用数理小委員会の設置を要望する.小委員会の委員として,工学系の応用数理研究者が多数参加することが望まれる.
  2. 異なる研究連絡委員会の間の「専門委員会」,あるいは部を越える「専門委員会」の設置の可能性の検討を進め,実現を図る.

◇付記

  1. 日本学術会議第16期数学研究連絡委員会応用数理小委員会委員名簿

          森正武(委員長),西田孝明(幹事),
          牛島照夫*(幹事),山口昌哉**,
          藤田宏**,荒木不二洋,安藤毅,植竹
          恒男,上野健爾,梶原壌二,山田俊雄,
          伊理正夫*,河原田秀夫*,菊地文雄*,
          三井斌友*

        (註:** 印は日本学術会議会員,*印は数学研究連絡委員会外からの委員)
  2. 小委員会開催日

          第1回 平成7年1月20日(金)学士会 館本郷分館(東京)
          第2回 平成7年6月17日(土)学士会 館本郷分館(東京)
          第3回 平成8年9月25日(水)東京大 学数理科学研究科(東京)
          第4回 平成9年3月 6日(木)東京大 学大学院工学系研究科(東京)

(文責:森 正武記)

14.会費払い込みのお願い

日頃は会費の払い込みにご協力頂きまして,誠にありがとうございます. この度も,下記の通り宜しくお願い致します.

  • 今年度後期会費を未納の方は,9月末日までにお払い込み下さい. (数学会では前納制をとっております.)
  • 今年度の前期会費を未納の方は,至急お払い込み下さい. なお,既にお払い込み済みの方は,なにとぞご容赦下さい.
  • ご送金にあたりましては,会員名簿とじこみの会費払込票をご使用下さい. また,郵便局備え付けの振替用紙ご使用 の場合には,振替口座 00150-1-179048 社団法人 日本数学会を記入し,さらに必ず会員番号のご記入もお願い致します.
  • 学割扱いをご希望の方は,送金毎に,必ず,在学証明書をお送り下さい.
  • 高齢会費をご希望の方は生年月日をご記入の上,書面にてお申し出てください. 最初に一度だけで結構です.

1997年度前期会費 9,000円
  学割・高齢(70歳以上)6,000円
1997年度後期会費 9,000円
  学割・高齢(70歳以上)6,000円