第七回(2015年度)福原賞
受賞者 | 業績題目 |
伊藤健一(神戸大学大学院理学研究科) | 多様体上のシュレーディンガー方程式の数学解析 |
岡部真也(東北大学大学院理学研究科) | 弾性エネルギーから導かれる勾配流方程式の解のダイナミクスの研究 |
熊ノ郷直人(工学院大学基礎・教養教育部門) | ファインマン経路積分の数学的定式化に関する研究 |
【選考委員会構成】
長澤壮之(委員長),利根川吉廣,石毛和弘,立川篤,太田雅人,清水扇丈,中西賢次,片山聡一郎,小池達也,内藤雄基,仙葉隆,岩崎克則,小薗英雄,小川卓克
受賞者 |
熊ノ郷直人(工学院大学基礎・教養教育部門) |
業績題目 |
ファインマン経路積分の数学的定式化に関する研究 |
受賞理由 |
熊ノ郷直人氏は,難解な問題として知られるファインマン経路積分の数学的正当化において,これまでに時間分割近似法を用いた非常に顕著な成果を上げている.ファインマン経路積分は,作用と呼ばれる古典力学で与えられる量を位相関数とした一種の振動積分と捉えられ,その正当化は時間分割された区分的な古典軌道で経路を近似する方法を用いた藤原大輔氏らによりある程度成功していたが,熊ノ郷氏は他の様々な経路の近似法を考察するとともに,振幅に相当する経路に対する汎関数を考慮に入れた場合でも経路積分の正当化ができることを証明し,それら汎函数のクラスを同時に確定した.これらのクラスは,汎関数の和や積などの基本的な操作について閉じているのみならず,時間に関する汎関数の積分と経路積分との順序交換,極限操作の順序交換,微分積分学の基本定理に相当する事実が成り立つなど,解析学で現れる基本的な演算について閉じている広いクラスになっており,量子力学の基礎理論においてファインマン経路積分により期待される性質のほとんどを厳密に正当化することに成功している.この成果は,半古典近似の低階項を求めた藤原大輔氏との共同研究における土台としての役割を演じるなど,応用面においてもその真価を発揮している. |