第二回(2010年度)福原賞

受賞者

業績題目

利根川吉廣(北海道大学大学院理学研究院)
(2003年度函数方程式論分科会特別講演者)

幾何学的測度論を用いた二層分離問題の解析

太田雅人(埼玉大学理学部)
(2004年度函数方程式論分科会特別講演者)

非線形波動・分散型方程式の定性的性質に関する研究

【選考委員会構成】
小澤徹(委員長),竹井義次,中村玄,小川卓克,長澤壯之,中村周,杉本充,中西賢次,土居伸一,足立匡義,柴田徹太郎,小林孝行,坂井秀隆,西畑伸也


受賞者

太田雅人(埼玉大学理学部)
(2004年度函数方程式論分科会特別講演者)

業績題目

非線形波動・分散型方程式の定性的性質に関する研究

受賞理由

場の理論におけるスカラー場の方程式に代表される非線形 2 階双曲型方程式や非線形分散型方程式は,波動現象を記述する数理モデルとして数理物理の様々な分野で用いられ,特にこれらの問題は定在波解(広い意味でのソリトン解)を持ち,現実の物理現象に対応してその安定性・不安定性の解析は数学的にも物理学的にも,興味深い問題です.1990 年前後に,Grillakis-Shatah-Strauss により,定在波解が安定または不安定となるための十分条件が抽象的な枠組みで与えられましたが,具体的な問題に対し彼らの理論を適用すると,その条件を確かめるのは特別な場合を除き困難であり,問題に応じた固有のアプローチと既存の理論の修正・改良が必要不可欠でした.太田氏は福泉麗佳氏や菊池弘明氏らの共同研究者とともに,定在波解の変分法的特徴付けを用いて Grillakis-Shatah-Strauss の条件を保証する新たな手法を開発し,彼らとは異なる十分条件を証明することにより,この分野で大きな貢献をしました.さらに不安定な定在波解に対して太田氏は Todorova 氏との共同研究で,不安定定在波解の近くから出発した解は有限時間で爆発すること,すなわち強不安定性と呼ばれる性質を示しました.
また久保英夫氏と共同で,異なる伝播速度を持つ非線形波動方程式系の,小さな初期値に対する解の時間大域存在と爆発に関する研究を行い,対称性を壊した場合には解の特異性に影響を与え,異なる伝播速度を持つ非線形波動方程式の連立系に対して伝播速度の相違は "null condition" よりは,弱い効果しか持たないことを明らかにしました.その結果,伝播速度の大小関係についての非対称性が証明されました.このように太田氏の研究は当該分野において基本的なものであり,福原賞受賞にふさわしいものであります.