第二回(2010年度)福原賞

受賞者

業績題目

利根川吉廣(北海道大学大学院理学研究院)
(2003年度函数方程式論分科会特別講演者)

幾何学的測度論を用いた二層分離問題の解析

太田雅人(埼玉大学理学部)
(2004年度函数方程式論分科会特別講演者)

非線形波動・分散型方程式の定性的性質に関する研究

【選考委員会構成】
小澤徹(委員長),竹井義次,中村玄,小川卓克,長澤壯之,中村周,杉本充,中西賢次,土居伸一,足立匡義,柴田徹太郎,小林孝行,坂井秀隆,西畑伸也


受賞者

利根川吉廣(北海道大学大学院理学研究院)
(2003年度函数方程式論分科会特別講演者)

業績題目

幾何学的測度論を用いた二層分離問題の解析

受賞理由

ディリクレ積分に,2 つの異なる値,例えば $\pm1$ で最小値 $0$ となる関数 $V(u)$ の積分を加えた汎関数を考えると汎関数の定義域に制約がなければ,恒等的に $1$ または $-1$ となる関数が,汎関数値を最小にすると考えられます.境界条件などの制約によりこのような関数を許容しない場合を考えるとディリクレ積分の前に小さな正のパラメータ $\epsilon$$V(u)$ の前に大きなパラメータ $\frac{1}{\epsilon}$ を付け,$\epsilon$$0$ に近づけたとき,汎関数値を最小にする関数の極限は,関数値が $\pm1$ の部分すなわち「二層」に分離することになります.「二層」の境界は,「界面」と呼ばれ,関数の微分の極限は,界面にディラック測度として集中しますが,汎関数値が小さくなるためには,界面は,さらに最小面積,すなわち,極小曲面になると考えられます.しかしながら,一般には界面が古典的な意味での曲率を有する程度になめらかになることが保障されないことがこうした問題の根本的な障害でした.利根川氏は,幾何学的測度論を用いて,この困難を解決し,一般化された平均曲率の意味で,界面が極小曲面になることを示しました.また,汎関数を最小する関数列の極限の考察だけでなく,汎関数の停留点の極限に関しても研究され界面の正則性についての研究も顕著であります.以上のように,利根川氏の研究業績は,解析的にも幾何学的にも大変興味深く,また優れたものであり,函数方程式論福原賞にふさわしいものであります.