第十回(2018年度)福原賞

受賞者

業績題目

神本晋吾(広島大学大学院理学研究科)
(2012 年微分方程式の総合的研究講演者)

ボレル総和法や再生函数の理論に基づく漸近解析に対する研究,及びその微分方程式への応用

澤田宙広(岐阜大学工学部)
(2017 年微分方程式の総合的研究講演者)

ナビエ・ストークス方程式に関する非有界領域および非減衰流れの解析

【選考委員会構成】
立川篤(委員長),久保英夫,石毛和弘,熊ノ郷直人,杉本充,清水扇丈,片山聡一郎,小池達也,内藤雄基,仙葉隆,原岡喜重,小薗英雄,岩崎克則,利根川吉廣


受賞者

神本晋吾(広島大学大学院理学研究科)
(2012 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

ボレル総和法や再生函数の理論に基づく漸近解析に対する研究,及びその微分方程式への応用

受賞理由

 神本晋吾氏は完全WKB解析の研究に取り組み,数々の重要な結果を与えた.そしてその研究の中で,真性特異点を持つ再生函数を取り扱う必要に迫られたことを契機として,再生函数の基礎理論に取り組み,そこで数々の基本的な結果を得ている.
 神本氏は河合隆裕氏,竹井義次氏らとの共同研究でMathieu方程式などについて完全WKB解析的な変換級数のBorel総和可能性を証明した.この問題は従来の解析学の枠組みを超えるものであり,神本氏は実質的な解析部分を担当している.また神本氏は小池達也氏とも共同研究を行い,Airy方程式の場合にBorel総和可能性を証明している.ここではHartogs現象にヒントを得て神本氏が導入した画期的なアイデアが成功の大きな鍵となった.
 Ecalleの再生函数の理論はBorel総和法の精密化として20世紀終わり頃に現れ,微分方程式の新しい解析手法として注目を集めた.しかし基本的な定義に曖昧な点が多く,使いやすい形に整備されていなかった.神本氏は再生函数理論の第一人者であるDavid Sauzin氏との共同研究を始め,「フィルター付けられた離散特異点集合」の概念を導入し,理論の核をなすendless continuabilityに明確な定義を与え,普遍リーマン面を構成した.これらの結果は今後この分野の研究の基本となるであろう.
 以上のように神本氏の業績は大変優れたものであり,函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.