日本数学会の出版物

Vol.79 Mathematics of Takebe Katahiro and History of Mathematics in East Asia

Edited by T. Ogawa and M. Morimoto

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2018年12月発刊

本書は, 2014年8月にお茶の水女子大学で開催された建部賢弘生誕350年記念の国際研究集会報告集である.
建部賢弘(1664~1739)は八代将軍徳川吉宗に仕えた幕臣であるとともに,優れた数学者でもあった.彼は師の関孝和(?~1708)による円周率計算を改良し,今日のエイトケンのデルタ二乗法に匹敵する方法によって円周率を43まで求めた.また円弧の長さがその高さによって無限級数に表されることを発見した.それは現代数学の言葉でいうと,逆三角関数のテイラー展開にほかならない.これらの結果は『綴術算経(てつじゅつさんけい)』として将軍吉宗に献上された.本書の第1論文は,建部賢弘の生涯,数学および数学思想のサーヴェイ記事である.
本書は,日本数学史を中国,韓国を含めた東アジアの数学,数理科学史の一環として論ずるという立場で編集されており,4部と付録に分かれている.第1部は建部の数学,数学思想を巡る報告,第2部は朝鮮の伝統数学に関する報告,第3部は中国の伝統数学に関する報告,第4部は明治以降の数学,数学教育に関する東アジアにおける相互作用,動静を収録している.また付録として関孝和,建部賢弘,建部賢明による『大成算経(たいせいさんけい)』全20巻のうち,第12巻(円理),第17巻(方程式論),第19巻(例題)の英訳が収められている.
東アジアにおける非西洋起源の数学に関心をもつ研究者,大学院生に本書を勧める.