第9回(2010年度)解析学賞

受賞者

業績題目

中村周(東京大学大学院数理科学研究科)

シュレーディンガー方程式の超局所解析とスペクトルの研究

長井英生(大阪大学大学院基礎工学研究科)

長時間大偏差確率最小化に関するリスク鋭感的制御を通じた研究

永井敏隆(広島大学大学院理学研究科)

走化性モデルに対する解析学的研究

【選考委員会構成】
会田茂樹,川島秀一(委員長),小磯深幸(委員会担当理事),小林良和,神保雅一,田村英男,林仲夫,宮嶋公夫


受賞者

中村周(東京大学大学院数理科学研究科)

業績題目

シュレーディンガー方程式の超局所解析とスペクトルの研究

受賞理由

シュレーディンガー方程式は,自然界における微視的現象を記述する量子力学の基礎方程式である.中村氏は,シュレーディンガー方程式およびシュレーディンガー作用素に関わる数学的問題を関数解析と偏微分方程式論の立場から独創的なアイデアを駆使し,広くかつ深く研究し,多くの著しい研究業績をあげている.最近の数年間では,超局所特異性の伝播問題やランダムシュレーディンガー作用素のスペクトル理論などの研究において精力的な活動を展開し,シュレーディンガー方程式論の世界的な指導者の一人として活躍している.シュレーディンガー方程式の超局所特異性の伝播問題は,Craig-Kappeler-Strauss の先駆的な仕事以来,長く研究が行われてきた.しかし,双曲型方程式に比して,特異性の伝播速度が無限大となるため,明快な理論の構築は困難とされてきた.中村氏は,古典力学的散乱理論と超局所解析,半古典解析の手法を組み合わせる事により,超局所的特異性の伝播問題を解決した.さらに,この手法は,André MartinezVania Sordoni との共同研究において解析的特異性の伝播問題に拡張された.また,伊藤健一との共同研究において,これらを Richard Melrose らにより研究されてきた散乱多様体上のシュレーディンガー作用素に拡張すると共に,標準的な時間依存型の手法による散乱多様体上の散乱理論を構築し,これまで難解とされてきた,いわゆる幾何学的散乱理論に平易で簡明な定式を与えた.また,中村氏は,Frédéric Klopp との共同研究において,不定符号の局所ポテンシャルを有するランダムシュレーディンガー作用素に対して,エネルギー下限での Lifshitz 特異性の存在とアンダーソン局在を証明した.この結果は,摂動の単調性に強く依存していたアンダーソン局在の証明に新しい視点を加える斬新なものである.以上に述べたように,シュレーディンガー方程式の数学解析に関する中村氏の多岐にわたる優れた研究業績は,解析学賞にまことにふさわしいものである.