日本数学会の伝統とこれから

日本数学会の伝統とこれから

日本数学会 理事長 清水 扇丈

日本の近代的学校制度である学制が定められた5年後の明治10年(1877年)に、日本で初めての学会として日本数学会の前身である東京数学会社が会員数55名の組織として発足しました。終戦後の昭和21年(1946年)に、日本物理学会と組織を分け、現在と同じ名称の日本数学会が会員数751名で設立され、令和3年(2021年)現在、会員数5039名の組織となり今日に至っております。

「数学は科学の女王である—Die Mathematik ist die Königin der Wissenschaften—」というガウスの言葉に象徴されるように、数学は科学の根幹をなします。数学で論理的に正しく真と証明された定理は、1つの例外もなく成立し、永遠に正しいという特性をもちます。証明された定理は汎用性をもち、数学に限らず、科学や情報、また経済や医学に信頼できる理論として応用されます。

戦後の日本の復興と重なる時期に、日本の数学が果たした功績は世界的にも極めて優れたものでした。小平邦彦博士、広中平祐博士、森重文博士は数学界のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞し、日本の数学は欧米と肩を並べ、世界における指導的地位を築いてきました。大きな問題の解決にはそこに至るいくつもの道筋と派生する問題の解決があり、これまでの一つ一つの研究に携わってこられた先輩方の努力に敬意を表します。21世紀を担う我々は、諸先輩方が築いてこられた数学の文化的財産を引き継ぎ発展させていかなければなりません。

2020年は世界史に残るであろう、コロナウィルス感染症(COVID-19)という未曾有の事態に世界中が見舞われました。このパンデミックを一体誰が予想したでしょうか。今後も、このように想定されない事態が生じる可能性があり、不可知なことに対応する能力が要求されますが、そのときに、物事の本質を見抜く力、正しい情報を選ぶ力として、数学的思考や科学の知識・技能は役に立つはずです。

日本数学会は、数学的思考の重要性を認識し、多くの人々が数学的思考を有効に活用できるよう必要な発言を行なっていくとともに、市民講演会や数学通信などを通じて数学の重要性を広めてまいります。また、ダイバーシティを念頭に置いて、年齢、性別、経歴、所属機関に関係なく多様性を活かして活躍できる数学会を目指し、数学を通じて社会に貢献できるよう進んでいく所存です。数学の研究を志す皆様に対しては、日本数学会はサポート体制の充実を図ってまいります。各界や企業の方々には、数学の重要性に対するご理解とご厚情に拝謝するとともに、今後とも変わらぬご支援の程よろしくお願い申し上げます。