25学会共同シンポジウム「科学・技術による力強い日本の構築」

25学会(38万人)共同シンポジウム「科学・技術による力強い日本の構築」
-我が国の科学・技術の進むべき方向と必要な政策を提言する-

標記のシンポジウム開催にあたり、シンポジウム世話人からアンケートがありました。日本数学会の理事会として下記のように回答いたしました。

(日本数学会理事会、2010年4月20日)

科学技術政策

1)現在の科学・技術政策を評価できるか。以下の(1)~(5)のいずれかを選んでください。
(1)おおいに評価する (2)評価する (3)どちらでもない (4)評価しない (5)まったく評価しない

回答【(2)】

その理由をお答えください。

評価できる点は以下のとおりである。

  • 成長を支えるプラットフォームとして科学・技術および雇用・人材を位置付け、持続的成長のためには長期的視野にたった科学・技術振興の戦略が必要であると明言している。
  • 近年の科学・技術政策によって、科学研究費等を中心に、予算がかなり増えてきている。これは政府が科学・技術政策を重要視している証であると考えられる。
  • 人類が直面する諸課題を解決するために必要なイノベーションの軸として、科学・技術を位置づけている。これは国の科学・技術政策としては適正であると評価する。

問題点は以下のとおりである。

  • 科学・技術政策への政府予算配分は、欧米等と比べ依然として低い水準にある。
  • 人類社会は将来、現時点では予測が不可能な諸課題に直面するであろう。そうした諸課題に立ち向かうためには、人類の叡智を結集して根本的に新しい方法論を開発することが必要となるが、そのような先導的な知識・技術を基礎から構築しようという視点が弱く、後世に対して責任を十分に果たせている政策となっているかが憂慮される。事業仕分けの際のやり方をみると、結局のところ、科学の果実はとるが、科学を種から育てるところには予算配分をあまりしたくない、という考えが見え隠れする。
  • 科学・技術にかかわる人材の育成の必要性を認めているが、それを促す政策が機能していない。科学・技術にかかわる人材育成への長期的な投資を企業に促すために、政策的な投資やインセンティブのある税制の整備などの政策が必要。
2)今後5年間の科学・技術政策の方向を決める第4期科学技術基本計画をよりよく機能させるために盛り込むことを求めたい点があればお書き下さい。
  • 基礎科学と応用科学を両輪としたバランスのとれた科学・技術政策を進めて欲しい。特に、基礎科学の分野においては広範な科学・技術を支える基盤となる若手研究者をアカデミックポジションに雇用し、その上で他分野とも連携できる人材を育成できる環境の整備を要望したい。
  • 基礎・基盤となる知識・技術の重要性を強調して欲しい。そして、そのために深い探究心を動機とする自由で地道な基礎研究に対する一様な支援の必要性を盛り込んで欲しい。
  • 課題解決型融合研究を支えるものは,個々の専門分野に蓄積された体系的な知識であることを確認し、分野ごとの特性や専門性の尊重の重要性の明記することを要望したい。
  • 短期的な科学・技術の戦略については書き方が難しいが、継続的に基礎科学を育てる政策をしなくてはならない、ということを書いて欲しい。
  • 国全体の基礎科学のレベルを向上させることを盛り込んで欲しい。そのためには、初等・中等教育レベルでの数学・理科の教育レベルをより向上する必要がある。
3)その他、政府の科学・技術政策に対する希望をお書き下さい。
  • 財政難を理由に、すぐに結果が出ると騒がれているものに政策的な投資が偏るのはまずい。社会の中の資金の動きを科学・技術に誘導することが望ましい政策であろう。
  • 日本における科学・技術の研究が縦割り構造にある現状を反省して、課題解決型プロジェクトに対して様々な分野からも協力融合できる体制も構築して欲しい。
  • 60年前の高木貞治先生のことば:「一つは、何でも今までは向こうで(西欧で)できたものを輸入して、そういう原理的なものと、すぐ実用になる一番末端的なものと、向こうでは、つながっていますけれど、元のところではね、別々に輸入されてね、こっち(日本)では、原理は原理、最後のその応用は応用とね、そこのところが違いますからね」にあることは今の日本でもやはり同じ状況と思える。原理的なものを発見する基礎科学から、すぐ実用になる一番末端的な技術的なものまで、つながっているということをしっかり認識してもらい、深く社会に根付いた科学を育てる政策を行って欲しい。

科学者・学会の役割

1)科学・技術政策に関する問題解決のために学会は何ができるかお答えください。
  • 学会間の連携や情報交換は可能である。
  • 地方国立大学法人大学を中心として、やや規模の小さな研究教育組織での研究環境や人材育成環境が問題を多く抱えているのが顕著である。これに対し、科学者や学会が連携ネットワークを組織して相互に協力し合える体制を作れるのではないか。
  • 経済界などに対し科学・技術の重要性の理解を求め、また社会における科学・技術のニーズを理解するために懇談の場を設けることもできるのではないか。
  • 基礎的な科学から技術的な応用まで、どのようにつながっているか、社会一般にもっと知ってもらう広報活動ができるのではないか。暗号の話(フェルマーの小定理、素因数分解がデータ送受信と安全性に係わっているということ)は、テレビ番組「魔性の問題―リーマン予想」でも取り上げられ、数学者の間でも、よく一般の人に話すとき例示されるようになった。このような例示をもっと周知させる地道な活動はできるのではないか。
  • 国際的(特にアジアの)協力体制の整備が出来ると良い。ヨーロッパ統合に寄与するソクラテスプロジェクトによるEU国間のポスドクの交換制度を参考にして、アジアの国々の間でポスドクを交換する新制度を創設することが望ましい。
  • 幅広い政策に関する協議に参加し、専門家からみた方策を提案することが出来ると良い。
2)学術研究・技術開発への政府投資について国民への理解を深めるために科学者・学会はどのような活動を増強すれば良いかをお答え下さい。
  • 社会から科学技術政策に対するサポートと理解を得られるような普及活動。
  • 産業界や経済界とのインターフェース、課題解決型研究の提案、教育貢献。
  • 質の高いアウトリーチ活動。広報活動。

大学と研究独法の役割と存在意義

1)日本の高等教育を一層充実させ国際競争力を向上させる上での主要な課題は何でしょうか。
  • 国際的研究者、国外若手研究者の招聘、アジア研究者との交流等、国際研究交流の促進。
  • 若者が将来の展望を描けるようにキャリアパスが充実した安定した高等教育を提供すること。知識が尊重される社会の確立,特に頑張ったこと,教育経歴(博士号など)が正当に評価され,キャリアに反映されるような社会構造。
  • 今は教員がどんどん減っていき、教育を充実するどころか、維持することさえ難しい状況で、それに歯止めをかけてもらうことがやはり必要ではないでしょうか。
  • 教育(あるいは若手研究者の育成)と研究が一体であることを基礎に置いた大学・大学院の教育研究の全体のレベルの向上。
  • 大学に入学する学生のレベル向上のための、初等・中等教育者を含む教育機構との連携や支援。学力低下の問題を所与の事実として、大学の前期課程において基礎的な科目への単位、教員数などの資源配分を増やすこと。
2)その課題解決に対して大学関係者・科学者の活動を支援するのに必要な政策は何でしょうか。
  • 海外からの研究者の招聘への支援。
  • 科学・技術が日々の暮らしを支えていることに関して国民の理解を得る機会や、そのような社会教育活動への支援。
  • 科学インタプレテータ等の育成とそのキャリアパスの確保。
  • 初等・中等教育者の学問的専門性の向上を支援する。 その観点からの博士号取得や,研修制度, 再教育制度の充実する。
  • 国立大学法人の運営交付金および私学助成の維持、原状復帰(大学の運営交付金減の政策がなくならない限り、教員を減らしていることはなくならないので)。
  • 教育研究支援スタッフの充実。
  • 初等.・中等教育から高等教育に至る一貫した教育ビジョンの確立。そのために初等・中等教育と科学技術政策や高等教育との柔軟な連携を図れる支援体制の確立。
3)日本の科学研究において研究独立法人の果たす役割について以下の(1)~(5)のいずれかを選んでください。
(1)大幅に増強すべき、 (2)増強すべき、 (3)どちらでもない、 (4)縮小するべき、(5)大幅縮小するべき

回答【(2) 】

その理由をお答え下さい。
  • 今回の事業仕分けの結果、国際事業の活動がかなり減額されている。特に、海外特別研究員等の国外若手研究者の招聘が減っている。日本の国際的な立場を向上させるためにぜひ増やして欲しい予算である。このような国際的支援こそ、日本がアピールできる。
  • 研究独立法人については官僚の天下り先として、事務的制度的におかしな点もあり、それは改善してもらってよいと思うが、研究機能はやはり増強すべきである。
  • 研究法人を画一的に議論するのではなく、個々の「研究独立法人」について、判断すべきものと思う。

以上