2017年度日本数学会出版賞

2017年度日本数学会出版賞

2017年度日本数学会出版賞は以下の方に授賞されます。

上智大学数学講究録(上智大学大学院理工学研究科理工学専攻数学領域)
これは上智大学理工学部旧数学科により出版されていた大学院生向け講義録のシリーズである.私学の厳しい制約のある中で,幅広い分野にわたり,しかも長い年月を通じて継続的に編集・出版されてきたという点に格別な尽力が認められる.一数学教室の活動の記録に留まらず,基本的な文献として貴重なものや,成書となっていない最新の研究内容を紹介したものが含まれているなど,数学の研究・教育および普及への貢献が著しい.さらに各巻の電子化が促進されれば,引き続き大きな貢献が期待される.
松本幸夫氏『多様体の基礎』,『Morse理論の基礎』,『4次元のトポロジー』,『トポロジー入門』など
どの入門書も丁寧で分かり易いと高い評価が得られており,いずれも長く読み継がれている.教科書として採用されることも多く,また自習書としても広く利用されている.読み手を楽しませるような記述や工夫された図版なども大きな特徴であり,単なる良い教科書というレベルを遥かに超えたインパクトのある解説は,初学者から専門家まで多くの人々に多大な影響を与えている.このように松本氏の著作は大学教養数学から現代先端数学への橋渡しという非常に重要な役割を果たし続けており,数学の研究・教育および普及活動への貢献が著しいと認められる.
中村義作氏『マンホールのふたはなぜ丸い?』,『常識を越えた数の世界』,『美の幾何学』,『エッシャーの絵から結晶構造へ』など
組合せ数学・有限数学に関する専門的なものから,一般読者向けの平易なものまで幅広く,期間も1950年代から最近までと長きにわたり,様々な数学関連書を上梓してこられている.簡潔ながらユーモラスで,数学特有のひらめきを得たときの楽しさを雄弁に語る氏の筆致は独特である.版元を変えて長く読み継がれている解説書もあり,またオリジナリティーあふれる数学パズル集で数学の楽しさに開眼した読者も少なくない.翻訳者,翻訳監修者として携わった著作も多数有り,数学文化の普及に果たされた功績は非常に大きい.