2023年度秋季総合分科会

市民講演会

日時: 9月23日（土・祝）14:00--16:45
会場: 東北大学百周年記念会館川内萩ホール 2階会議室
主催: 日本数学会
後援: 東北大学大学院理学研究科
プログラム
14:05--14:10　挨拶　鎌田聖一（日本数学会理事長・大阪大学）
14:15--15:15　講演　宮岡礼子（東北大学名誉教授）: 　「$i$の発見と波面の幾何学」
講演概要: 虚数単位$i$の発見により，全ての代数方程式は複素数の範囲で解けます。複素関数は複素平面上に角を保つ共形変換を引き起こし，特に複素一次変換は円を円に移します。では円を円に写す変換はこれだけでしょうか？半径を膨らませたり縮めたりする膨張変換はもちろん円を円に移します。次元をあげてボールの表面である球面を球面に移す変換も，共形変換と膨張変換から得られ，高次元でも事情は同じで，これらを合わせてLieの接触変換といいます。
その後$i, j, k$を加えた四元数が発見され，さらに八元数とよばれる数につながりました。四元数はスピン，八元数は弦理論にも関わります。これらは積構造において可換性が，また八元数では結合法則がみたされず，積構造を保つ自己同型変換群は，八元数では古典群からはみ出て，例外リー群とよばれる$\mathrm{G}_2$となります。水面上の同心円波面の拡張である波面の幾何学では，最も複雑な図形として$\mathrm{G}_2$の軌道が13次元球面内に現れます。高次元は目には見えませんが，グラフィックを用いてその様子をご紹介します。また，四元数から発展したクリフォード環の表現からも波面が登場し，これらのLie接触変換による像を含む興味深い研究対象があります。波面を通じ，代数，幾何，解析，そして物理の美しい関係に触れたいと思います。
15:30--16:30　講演　岡部真也（東北大学大学院理学研究科）: 　「数学と医療の交叉点～癌治療と関わるある数理モデル～」
講演概要: 数学に興味がある方であれば，数学が社会の中で役に立っている例を幾つかご存じのことと思います．本講演では，がんの治療法と関わる数理モデルを題材に，医療における課題に対する数学的アプローチの一例を紹介したいと思います．
本講演では，男性がかかるがんの中では最も患者数が多いと言われる前立腺がんのある治療法に関わる数理モデルについてお話しします．前立腺がんはアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンの刺激によって進行すると言われています．そのため，前立腺がんに対する治療法の一つに，薬剤や外科手術によって男性ホルモンの生成を抑えることで前立腺がんの進行を抑える，ホルモン療法というものがあります．しかし，ホルモン療法には，長く継続していると治療の効果が弱くなりがんが再燃することがある，という課題がありました．その課題を克服することを目的として，ホルモン抑制を行う治療期間と治療休止期間を組み合わせる間欠的ホルモン療法というものが考案されました．間欠的ホルモン療法は，身体的な負担軽減などの長所を持つ一方で，治療期間と休止期間をいつ切り替えるかの判断が医師の経験に委ねられるなどの課題もあります．本講演で紹介する数理モデルは，間欠的ホルモン療法における治療期間と休止期間を切り替える適切なタイミングを数学的に説明しようとする目的のもとで考えられたものです．講演では，内容を理解するための数学的な基礎知識は最小限にとどめつつ，参加者の皆さんが数学的な観点から間欠的ホルモン療法を理解できるように，工夫して説明したいと思います．
ポスター: Poster.jpg

事前参加登録不要

お車でご来場の方へ：駐車場は講演終了後17:00までに閉鎖施錠されますので16:55までに　　　　　　　　　　お車を退出願います。

市民講演会の参加をご検討されていらっしゃる方に当日の昼食についてお知らせしたいことがあります。
本来営業しない祝日にもかかわらず大学の生協食堂を一部営業してもらえることとなりました。ただし当日混雑することが予想されますので、参加前に学外で食事を済ませておくことをおすすめいたします。それでは当日お会いできますことを楽しみしています。