2016年度秋季総合分科会

2016年度秋季総合分科会

数学連携ワークショップ
---物質材料科学に潜む『数理』を探る---

日時
9月16日(金)9:30-12:00
会場
関西大学千里山キャンパス第4学舎3号館3202教室
主催
文部科学省,統計数理研究所「数学協働プログラム」
共催
日本数学会
座長
松江要(統計数理研究所,数学協働プログラム)
プログラム
9:30--9:35 開会の辞
小谷元子(日本数学会理事長,東北大学)
9:35--9:40 趣旨説明
松江要(統計数理研究所,数学協働プログラム)
9:45--10:25
(講演30分,討論10分)
講演1「製鉄プロセスにおける数理的研究の現状と,数理科学と物質・材料の連携の展開について」
中川淳一(新日鐵住金株式会社技術開発本部先端技術研究所数理科学研究部)
【概要】製鉄プロセスは大型装置で高温物質を扱うとともに相変化を伴う現象が多数存在し,大規模・複雑系の典型事例です.さらに,鉄鋼材料ではナノスケールの結晶格子,メソスケールの多結晶組織,マクロスケールの製品をマルチスケールの視点で制御することが求められています.製鉄プロセスと鉄鋼材料には,数理モデリング,逆問題,最適化,制御,ビッグデータ解析等,多くの数学・数理科学の問題を包含しています.
本講演では,製鉄プロセスにおける数学の適用事例を使って,数学連携に関する講演者の考え方(コンセプト)を紹介した後,いろいろな専門分野の純粋数学者と学術連携で議論中の物質・材料科学系分野の未解決問題である「結晶群から対称性の数値指標を取り出す」,「材料のマクロな特性を決定する重要因子である結晶格子の乱れを記述する」,「ミクロ(離散)とマクロ(連続)を合理的・明示的に繋ぐための階層構造の仕組みを記述する」,ための取り組み事例を紹介します.
10:30--11:10
(講演25分,討論15分)
講演2「電池用材料アモルファスSiOの構造モデリング」
平田秋彦(東北大学原子分子材料科学高等研究機構,産総研・東北大数理先端材料モデリングオープンイノベーションラボラトリ)
【概要】原子配列に周期性の無いアモルファス構造の解析は非常に困難であり,この分野では挑戦的な課題である.今回は,リチウム電池の電極材として期待され,既に実用化も始まっているアモルファスSiOに注目して解析を行った.アモルファスSiOに関してはナノスケールでの不均一性を示唆する実験データがこれまでに報告されており,その構造は極めて複雑であることが予想される.これらを踏まえ,我々はサブナノスケールの電子ビームを使った電子回折法と放射光X線散乱を用いた測定を行った.得られた実験データに整合するような不均一モデルを分子動力学法や逆モンテカルロ法を併用して作製したところ,モデル中には2種類のナノ領域と特徴的な界面が見られた.電子回折では局所的な情報を,X線散乱では全体からの平均情報を得ることが可能であるため,両情報を相補的に組み合わせることで不均一アモルファスに対し,従来と比べてより正確なモデリングが可能となった.
参考文献: Akihiko Hirata, Shinji Kohara, Toshihiro Asada, Masazumi Arao, Chihiro Yogi, Hideto Imai, Yongwen Tan, Takeshi Fujita, and Mingwei Chen, Atomic-scale disproportionation in amorphous silicon monoxide, Nature Communications 7, 11591 (2016)
11:15--11:55
(講演25分,討論15分)
講演3「天然岩石の間隙形状の数学的な記述方法」
辻健(九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)
【概要】石油生産,CO2地中貯留,地熱発電などの資源・エネルギー開発の分野では,岩石の内部構造(間隙)を特徴化し,その間隙内部を流れる流体挙動を調べることが求められている.高解像度のCT技術を使えば,天然岩石の3次元間隙形状(デジタル岩石)を,1μm程度の解像度で抽出することができる.我々の研究グループでは,このデジタル岩石に対して,スーパーコンピューターを使った間隙流体シミュレーションを適用し,浸透率といった水理特性を計算してきた(例えばJiang and Tsuji, 2015; Tsuji et al., 2016).しかし天然岩石の複雑な間隙形状を何らかの数学的手法(例えばTopology)でモデル化し,岩石内部の流体挙動を予測することができれば,工学的なインパクトは非常に大きい.現在,我々のグループでは,岩石の間隙形状を記述する方法としてPersistent homology(Edelsbrunner and Harer, 2008; Hiraoka and Shirai, 2015)の適用を試みている.また,この手法を用いて,岩石の不均質性に伴うスケール依存性の研究も進めつつある.本発表では,これまでの我々の成果を紹介するとともに,今後の課題を整理する.さらにPersistent homology以外にも岩石の間隙形状を記述できる数学的なアプローチがあると考えられる.ご助言頂ければ幸いである.
参考文献: Edelsbrunner, H. and Harer, J. (2008), Persistent homology---a survey. Surveys on discrete and computational geometry, 257--282, Contemp. Math., 453, Amer. Math. Soc., Providence, RI.
Hiraoka, Y. and Shirai, T. (2015), Minimum spanning acycle and lifetime of persistent homology in the Linial-Meashulam process.
Jiang, F., and Tsuji, T. (2015), Impact of interfacial tension on residual CO2 clusters in porous sandstone, Water Resources Research, 51(3),1710--1722.
Tsuji, T., Jiang, F., Christensen, K. (2016),
Characterization of immiscible fluid displacement processes with various capillary numbers and viscosity ratios in 3D natural sandstone, Advances in Water Resources.
11:55--12:00 閉会