2008年度日本数学会賞春季賞

2008年度日本数学会賞春季賞

高岡 秀夫(神戸大学理学部)
非線形分散型方程式に対する大域理論

非線形発展方程式の解の時間大域的性質は,配位空間においては方程式の線型化作用素と非線形項との解析的・微分代数的兼ね合いにより決定される.一方,運動量空間においては,コルモゴロフの乱流理論に見られる様に,非線形相互作用のもたらす低周波から高周波へのエネルギーの流れ及びその逆の流れが解の大域的性質を支配するものと考えられているが,数学的に完全な理解には至っておらず,臨界的相互作用に関する様々な問題の障壁となっている.高岡氏はColliander(コリアンダー),Keel(キール),Staffilani(スタフィラニ),Tao(タオ)との共同研究により,非線形シュレディンガー方程式やKdV方程式に対して,運動量空間における非線形相互作用の数学的構造を解明し,その解析的手法を開発し,解が意味を持つ最大の関数空間で大域理論を構築した.特に,ソボレフ臨界相互作用をもつ非線形シュレディンガー方程式に対して時間大域解の存在を証明し,永年に亘る未解決問題に最終解答を与えた.またKdV方程式に対しては,その力学系をシンプレクティック構造の入る最大の関数空間で構成し,Gromovの意味でのnon-squeezing性を持つ事を証明し,幾何学的理解を格段に深めた.この解析方法は,非線形分散型方程式の研究者からはBourgain(ブルガン)の方法,非線形双曲型方程式の研究者からはKlainerman-Machedon(クライネルマン・マケドン)の方法と呼ばれていた方法論の真の一般化,精密化であり,現在ではI-method(アイ・メソッド)と呼ばれ,多くの研究者に用いられている.

また,高岡氏はKenig(ケニッグ)との共同研究により,Benjamin-Ono(ベンジャミン・小野)方程式の大域解を最大の関数空間で証明し,エネルギークラスに関するTao(タオ)の結果を完全に含む理論を構築した.

以上の結果を始めとする高岡氏の業績は顕著であり,日本数学会賞春季賞に誠に相応しいものである.

日本数学会
理事長 谷島 賢二