2002年度日本数学会賞春季賞

2002年度日本数学会賞春季賞

河東泰之(東京大学大学院数理科学研究科)
作用素環の研究

河東氏は作用素環,特に因子環に関して,多岐にわたる研究業績をあげています.特に,部分因子環に関する業績は著しいものであります.

因子環とは,ヒルベルト空間の有界作用素からなる環で,共役演算と弱位相に関して閉じており,その中心がスカラー作用素のみからなるものであります.その部分因子環の構造を研究する理論がジョーンズの指数理論であり,作用素環におけるガロワ理論とも呼ぶべきものであります.この部分因子環の構造を決定する代数系は,単に群のみには収まらず,パラグループと呼ばれる,有限群を量子化した対象であります.

河東氏は今日ではオービフォールド構成法と呼ばれる,新しい部分因子環の構成法を導入することにより,コクセターグラフD2nに対応する部分因子環を構成し,指数4未満の部分因子環の完全分類に大きな貢献をしました.さらにD. E. Evans氏との一連の共同研究で,より一般的な部分因子環に対するオービフォールド構成法を確立しました.

部分因子環の研究は結び目のジョーンズ多項式の発見に代表されるように,低次元トポロジーや数理物理学などの多くの分野との関係を持ちながら発展してきました.河東氏は解析的な方法と組み合わせ論的な方法を自由に使いこなすことにより,部分因子環と,位相的場の理論や3次元多様体の位相不変量の関係を解明するなど,様々な分野に跨る多くの重要な結果を得ています.最近では,共型場理論と部分因子環理論の関係を精力的に研究しており,モジュラー不変分配関数の部分因子環的見地からの意味を明らかにするなど,代数的場の理論の研究においても多くの成果をあげています.

このように河東氏の作用素環における研究業績は顕著なものであり,2002年度日本数学会賞春季賞を授与するにふさわしいものであります.

日本数学会
理事長 楠岡 成雄