各位 電気通信大学・計算科学研究ステーションでは、昨年度と同様に 本年度の活動の報告会を兼ねた研究集会を開催いたします。 名称: 第2回「計算科学研究ステーション」研究集会 日時:    3月1日 午後1時から午後4時まで および   3月2日午前10時から午後4時40分 まで 場所: 電気通信大学情報工学科・西9号館3階AVホール 皆様にはぜひご参加くださいますようお願い申し上げます。 以下はそのプログラムです: 3月1日 1)13時〜13時30分  緒方秀教 (電気通信大学情報工学科) : 周期的ポテンシャル問題に対する複素変数境界要素法 2)13時35分〜14時5分  今村俊幸 (電気通信大学情報工学科) : 粒子法を用いた数値シミュレーションと並列計算の応用 3)14時15分〜14時45分 小山大介 (電気通信大学情報工学科) : 無限領域における水面波動問題に対するDtN有限要素法 4)14時50分〜15時20分  東田憲太郎・加古孝 (電気通信大学情報工学専攻・情報工学科) : 複素固有値の変分公式に基づく声道設計アルゴリズムの実装 5)15時25分〜15時55分  小森喬・山本野人 (電気通信大学情報工学専攻・情報工学科) : 常微分方程式の精度保証法に関する新しい計算技法について 3月2日 1)10時〜10時30分  伊藤 祥司 (筑波大学 大学院システム情報工学研究科) : 反復法に対する体系的な性能評価システムの開発について 2)10時35分〜11時5分 渡部 善隆 (九州大学 情報基盤センター) : 疎行列に対する線形方程式の直接解法を用いた固有値・特異値計算 3)11時10分〜11時40分 須田 礼仁 (東京大学 情報理工学系研究科) : 低階数近似のすすめ 〜 センサーネットワークの自律的同期問題への応用 4)11時45分〜12時15分 宮嵜 武・李 英太・星 伸太郎(電気通信大学 知能機械工学科・大学院知能機械工学専攻) : 準地衡風乱流渦モデルとその統計性 昼休み12時20分〜13時30分 5)13時30分〜14時 名古屋 靖一郎 ((株)アーク情報システム 先端技術センター数理解析部) : 河川流シミュレーションに対するσ座標系の差分法 6)14時5分〜14時35分 藤間 昌一(茨城大学 理学部) : 有限要素関数のランダム三角形上の数値積分 7)14時40分〜15時10分 水谷 明 (学習院大学 理学部) : 4階非線形2点境界値問題に対する解の精度保証 小休止15時10分〜15時30分 8)15時30分〜16時 佐々 成正 (日本原子力研究開発機構) : 原子気体BEC系における非線形波動ダイナミクス 9)16時5分〜16時35分 中村 健一 (電気通信大学 情報工学科) : 非一様場における2種競争系の進行波の伝播速度 なお、翌3月3日・4日に名古屋大学で催される応用数理学会研究部会連合発表会に 引き続き参加される方が多数いらっしゃいますので、残念ながら懇親会は行いません。 ご了承くださいませ。 以下は講演概要です。講演者から受け取ったもののみを、長短はありますが そのまま掲載します: 3月1日 1)緒方秀教 (電気通信大学情報工学科) 周期的ポテンシャル問題に対する複素変数境界要素法 :複素変数境界要素法とはポテンシャル問題に対する境界要素法を複素解析 関数論により再定式化したものであり、解析関数に対するコーシーの積分公式を もとに境界積分方程式を導出、それを離散化して解くことにより近似解を与える。 本講演では、この方法の周期的ポテンシャル問題への拡張について述べる。 2)今村俊幸 (電気通信大学情報工学科) 粒子法を用いた数値シミュレーションと並列計算の応用 3)小山大介 (電気通信大学情報工学科) 無限領域における水面波動問題に対するDtN有限要素法 4)東田憲太郎・加古孝 (電気通信大学情報工学専攻・情報工学科) 複素固有値の変分公式に基づく声道設計アルゴリズムの実装 :定常な母音の特徴を決定づける声道の周波数応答関数は時間定常 問題から導かれる2次の複素固有値問題と密接に関係している。これより、 最適問題として声道設計アルゴリズムを実装し、複素固有値に対する変分 公式と共役方向法を用いることによって数値計算を実行する。 5)小森喬・山本野人 (電気通信大学情報工学専攻・情報工学科) 常微分方程式の精度保証法に関する新しい計算技法について :常微分方程式初期値問題の精度保証の方法として、中尾理論に基づく 境界値問題の精度保証法を利用したものを開発した。これは、従来の 方法に比べて終時刻における誤差限界を小さくできることが期待される 方法である。数値例を通して、初期値問題の精度保証法として代表的な ものであるLohner法との比較を行い、その有効性を論じる。 3月2日 1)伊藤 祥司 (筑波大学 大学院システム情報工学研究科) 反復法に対する体系的な性能評価システムの開発について : 線形方程式求解アルゴリズムに対して,求解性能を示すデータに 基づいた体系的な性能評価を行っている.これまでの取組みの中で 構築してきた情報システムや評価方法について説明する.これらを 用いて,典型的なテスト問題を解いて得られた,求解アルゴリズム の性能を示すデータから確認できる事柄について紹介する. 2)渡部 善隆 (九州大学 情報基盤センター) 疎行列に対する線形方程式の直接解法を用いた固有値・特異値計算 : 近年広く普及しつつある疎行列に対する連立1次方程式の直接解法を援用した 固有値・特異値計算について,アルゴリズムの概要,疎行列に対する連立1次 方程式の各種解法の性能比較,固有値・特異値問題に対する演算性能・計算精度 の測定結果を報告する. 3)須田 礼仁 (東京大学 情報理工学系研究科) 低階数近似のすすめ 〜 センサーネットワークの自律的同期問題への応用 : 特異値分解などから得られる低階数近似は、計算量やメモリ量の軽減に役立つ 便利な近似である。講演では、センサーネットワークが自律的に時計を同期する 問題における低階数近似の応用例を紹介する。 4)宮嵜 武・李 英太・星 伸太郎(電気通信大学 知能機械工学科・大学院知能機械工学専攻) 準地衡風乱流渦モデルとその統計性 : 大規模な地球流体運動は、地球自転にともなうコリオリ効果と安定密度成層効果のため、 鉛直高さの異なる層ごとに二次元運動とみなせる。したがって、粗い近似では各層ごとに 二次元Euler方程式で記述されるが、各層間の相互作用を考慮する場合には「準地衡風方程式」 で近似される。 準地衡風乱流の数値計算結果によると、時間発展とともに秩序渦構造が出現し、その 相互作用が乱流の動力学を支配する。我々のグループは、これらの秩序渦構造(N個の渦)を 点渦(N自由度)、回転楕円体渦(2N自由度)さらには楕円体渦(3N 自由度)で近似する 乱流渦モデルを開発した[1-4]。これらの渦力学系は、幾何学的意味の明確な正準変数を 用いたHamilton力学系として定式化される。エネルギー、渦重心、角運動量が3つのPoissn可換な 保存量となり、点渦系では4体以上、回転楕円体渦と楕円体渦系では2体以上の自由度を持つ 渦力学系はカオス的な挙動を示す。2体の渦構造の相互作用に関する楕円体渦モデルの予想は、 準地衡風方程式の数値計算(CASL法)結果とよく一致する。 大自由度の渦力学系の統計的性質を調べるために、分子動力学専用計算機MDGRAPE-3を用いて 点渦系の大規模数値計算(N=2000)を行った。時間発展にともない渦分布は軸対称な平衡状態に 達する。この平衡渦分布は、極大エントロピー理論に基づいて(エネルギー・角運動量保存の 制約条件のもとで情報エントロピーを極大とする)理論的に求めた平衡渦分布とよく一致する。 参考文献 [1] T. Miyazaki, M. Shimada and N. Takahashi, "Quasi-geostrophic wire-vortex model," J. Phys. Soc. Japan 69 (2000) 3233. [2] T. Miyazaki, Y. Furuichi and N. Takahashi, "Quasi-geostrophic ellipsoidal vortex mode\ l," J. Phys. Soc. Japan 70 (2001) 1942. [3] T. Miyazaki, H. Taira, H. Niwa and N. Takahashi, "Refinements on the quasi-geostrophic wire-vortex model," J. Phys. Soc. Japan 74 (2005) \ 359. [4] Y. Li, H. Taira, N. Takahashi and T. Miyazaki, "Refinements on the quasi-geostrophic ellipsoidal vortex model," Phys. Fluids 18 (7) (2006) 076604 1-8. 5)名古屋 靖一郎 ((株)アーク情報システム 先端技術センター数理解析部) 河川流シミュレーションに対するσ座標系の差分法 : 河川流量に応じて川幅が変化し,冠水や干出が起こる現象を再現する差分法 による計算法について述べる.その際,鉛直方向のみに境界適合したσ座標系を 用いた3次元の計算法を適用する.非粘性浅水波方程式についてのリーマン問題 の厳密解による冠水モデルの妥当性の検討,常流・射流が混在する河川流の再現, 河川氾濫シミュレーションなどの計算結果を示す.また,結果が出ていれば, 河床変動計算などについても紹介したい. 6)藤間 昌一(茨城大学 理学部) 有限要素関数のランダム三角形上の数値積分 : 三角形分割上に対応して定まる有限要素関数(連続な区分的$k$次関数)の ランダムに指定される三角形(分割に現れる三角形自体ではないが緩い関係 はある)上の数値積分を考える。被積分関数は滑らかでないが、滑らかさを 前提とする高次の数値積分公式の有効性が、ある状況では、誤差の平均を縮 小する観点で説明できることを示す。 7)水谷 明 (学習院大学 理学部) 4階非線形2点境界値問題に対する解の精度保証 : 渡部義隆・山本野人・中尾充宏の3氏は日本応用数理学会論文誌(2005)の論説で、 2階非線形楕円型境界値問題に対する解の精度保証について詳細に論じた。 私たち(大学院生岡田佐登子と私)は「2階を4階に変えたらどうなるか?」を 目標とし、まず手始めに1次元の問題を考察した。 その結果、基本となる関数空間と有限要素空間を変更し、一部評価の手直しをするこ とにより、上記論説がそっくりそのまま4階でも成り立つことが確認できた。 そのことについて報告したい。また、いくつかの例で数値計算を行ったところ、 解の精度保証に成功した例では、思いのほか良い精度が得られた。実際には、精度保 証で得られた範囲が有限要素解の真の誤差の2倍弱で求められた。 ”精度保証で得られる値は過大なもの”という先入観があったため、この結果の良さ は意外だった。それは上記論説のアルゴリズムのよさの現れだと思う。 それについても報告したい。また、間に合えば、2次元の場合にも触れたいと思って いる。 8)佐々 成正 (日本原子力研究開発機構) 原子気体BEC系における非線形波動ダイナミクス : 原子気体ボーズーアインシュタイン凝縮系の巨視的波動関数に対する数値 シミュレーションを元に、量子乱流状態を中心にした系の非線形ダイナミクスに ついて議論をおこなう。 9)中村 健一 (電気通信大学 情報工学科) 非一様場における2種競争系の進行波の伝播速度 : 生態のよく似た近縁の生物が限られた場所で生息しているとき, えさ やなわばりをめぐって激しい競争が繰り広げられている。本講演では、 共通の資源を求めて競争をしている2種の生物の個体数密度の変化を 記述するロトカ・ボルテラ方程式を題材に、一方の種が他方を駆逐 して生息域を広げていく様子を、数値計算および漸近解析により 調べるとともに、環境の不均質性が生息域の拡大速度に与える影響を 定量的に評価する。 以上よろしくお願いいたします。 計算科学研究ステーション幹事: 加古孝(電気通信大学情報工学科) 山本野人(同上) 緒方秀教(同上) 今村俊幸(同上) お問い合わせ先: 〒182-8585 調布市調布ヶ丘1-5-1 電気通信大学情報工学科計算科学講座 山本野人