● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者:安井 弘一 (大阪大学大学院情報科学研究科・准教授)

授賞題目:構成的手法による4次元多様体の微分構造の研究

授賞理由:安井氏は,低次元トポロジー,特に4次元多様体の構成に関する研究を行なっており,数々の重要な成果を挙げている.1986年に Harer, Kas, Kirby は,有理楕円曲面のエキゾチック構造として知られる (2, 3) 型の Dolgachev 曲面のハンドル分解には1ハンドルが必要であろうと予想した.安井氏は2008年に Journal of Topology に掲載された論文 “Elliptic surfaces without 1-handles” において,無限個の楕円曲面に対して1ハンドルの無いハンドル分解を構成し,Harer-Kas-Kirby 予想を大きく一般化した形で否定的に解決した.なお,元の予想については Akbulut 氏も独立に反例を与えている.

さらに,安井氏はエキゾチック構造を構成する上で重要な,コルクと呼ばれる可縮な4次元多様体について,それまでに知られていた Mazur 多様体などを含む無限個の例を発見し,Akbulut 氏との共同研究などを含む多様な成果を挙げた.特に Stein 曲面への応用についても顕著な結果を得ており,例えば与えられた有限表示群を基本群に持つ任意有限個のエキゾチックなコンパクト Stein 曲面の構成,与えられた対称双線型形式を交叉形式に持つ任意有限個のエキゾチックな単連結コンパクト Stein 曲面の構成などを行なっている.また,安井氏は4次元多様体のコルクツイストの手法を用いることにより,40年近く未解決であった,結び目コンコーダンスに関する Akbulut-Kirby 予想を否定的に解決した.さらに,Legendre 結び目に関する Lidman-Sivek の予想を否定的に解決した.安井氏がこれらの研究で与えた様々な例や構成法は,その後の多くの研究に影響を与えている.

また,安井氏は2019年に Geometry & Topology に掲載された論文 “Geometrically simply connected 4-manifolds and stable cohomotopy Seiberg-Witten invariants” において,4次元多様体の Bauer-Furuta 不変量が消滅する新しい十分条件を与えた.さらに,加藤毅氏と中村信裕氏との共同研究で,Seiberg-Witten 不変量に関する基本的な予想の一つである単純型予想の mod 2 版を部分的に解決した.

以上のように,安井氏は,構成的手法によって,4次元多様体の微分構造に関して重要な成果を挙げ,結び目理論への応用など,周辺分野にも大きな波及効果を与えている.安井氏の業績は2026年度幾何学賞に誠に相応しいものである.


幾何学分科会のトップ・ページに戻る
幾何学賞のページに戻る