第十五回(2023年度)福原賞

受賞者

業績題目

高田了(東京大学・大学院数理科学研究科)
(2014 年微分方程式の総合的研究講演者,
2017 年函数方程式論分科会特別講演者)

非圧縮回転成層流体方程式の数学解析

眞野智行(琉球大学・理学部)
(2009 年微分方程式の総合的研究講演者,
2015 年函数方程式論分科会特別講演者)

大久保型微分方程式と平坦構造の一般化に関する発見を含む複素領域における函数方程式の研究

渡辺達也(京都産業大学・理学部)
(2009 年微分方程式の総合的研究講演者)

非線形楕円型方程式および方程式系に対する変分的研究

【選考委員会構成】
足立匡義(委員長),久保英夫,赤木剛朗,石毛和弘,町原秀二,杉本充,前川泰則,高橋太,高岡秀夫,川下美潮,三沢正史,坂井秀隆,藤家雪朗,木村弘信


受賞者

高田了(東京大学・大学院数理科学研究科)
(2014 年微分方程式の総合的研究講演者,2017 年函数方程式論分科会特別講演者)

業績題目

非圧縮回転成層流体方程式の数学解析

受賞理由

 高田了氏は地球流体力学に現れる非圧縮回転成層方程式に関する研究において顕著な業績をあげた。同方程式の特徴は回転項や浮力成層項が分散効果を生み出すことにあり、通常の非圧縮流体方程式に比して、その解はより多様な挙動を呈するため、近年、活発に研究が行われている。高田氏は、岩渕司氏、Y. Koh氏、S. Lee氏らとの一連の共同研究において、回転項や浮力成層項が生成する時間発展作用素に対して精緻な振動積分解析を展開し、回転速度や浮力周波数が大きい場合の初期値問題の適切性に関して興味深い成果を積み重ねてきた。最近は、浮力成層項が単独で存在する場合に、空間3次元の非粘性成層方程式に対して優れた成果をあげている。この問題においては、線形波の分散関係式が特異性と退化性を有するため、時間発展作用素の解析に困難が生じるが、高田氏はS. Lee氏との共同研究により、異方的Littlewood-Paley分解を導入することによって最適な時間減衰評価の導出に成功した。次いで、高田氏は、その評価に基づいて、十分大きな浮力周波数における大きな初期値に対する長時間可解性を示し、さらに浮力周波数を無限大とする特異極限において、解が2次元Euler方程式の解に収束することを証明した。安定成層の効果による流れの異方化を数学的に証明するという極めて興味深い結果である。これらの高田氏の業績は非常に優れたものであり、函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである。


受賞者

眞野智行(琉球大学・理学部)
(2009 年微分方程式の総合的研究講演者,2015 年函数方程式論分科会特別講演者)

業績題目

大久保型微分方程式と平坦構造の一般化に関する発見を含む複素領域における函数方程式の研究

受賞理由

 眞野智行氏は解析的な函数方程式に関する研究において、数々の独創的で普遍性の高い結果を与えている。
 眞野氏は、モジュラー形式の満たす非線形微分方程式、リーマン・ヴィルティンガー積分、楕円曲線上のモノドロミー保存変形など多彩な問題に取り組み、q差分パンルヴェ方程式の接続問題の研究では「眞野分解」と呼ばれるようになった重要な手法を考案した。
 最近では関口次郎氏、加藤満生氏との共同研究で、平坦構造から計量を取り除いた複素的な構造を発見し、それが大久保型の線形微分方程式やその変形理論と深く関わることを明らかにした。特に複素鏡映群の軌道空間に入る平坦構造、パンルヴェ方程式の代数函数解に付随する平坦構造、パンルヴェ方程式の超越解の解析的表示、といった一連の研究は、様々な題材が一つの幾何学的構造の下に深く関わり合っている様子を明らかにした重要なものである。
 以上のように眞野智之氏の研究成果は大変優れたものであり、函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである。


受賞者

渡辺達也(京都産業大学・理学部)
(2009 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

非線形楕円型方程式および方程式系に対する変分的研究

受賞理由

 渡辺達也氏は非線形楕円型方程式および方程式系の解の存在や解構造の研究において、変分的手法を精密に用いて、またさらにはその手法を改良することによって、多岐にわたり顕著な業績を挙げてきた。特に近年Mathieu Colin(マチュー・コラン)氏との共同研究により、シュレディンガー・マクスウェル方程式系に対して、エネルギー最小解の存在条件を素粒子間の相互作用の強さを表すパラメータを用いて与えることに成功し、物理学的にも有意義な解を構成した。さらに3次非線形項に対してエネルギー最小解の一意性の証明も成功した。この定在波解の一意性はその軌道安定性の証明につながり、この分野の研究をさらに大きく発展させる契機となった。また、足達慎二氏、柴田将敬氏との共同研究では、双対変分構造を持つ準線形楕円型方程式に対して、非線形項の増大度に応じた正値解の漸近挙動を詳細に調べ、それぞれの場合における漸近的プロファイルを完全に解明した。最近ではこの方程式に対する研究で培われた知識と技術を用いて、非線形項に対して遠方での増大度条件を全く課さない半線形楕円型方程式に対して、足達氏、生駒典久氏とともに解の存在やその漸近挙動を解明することに成功し、ますます研究を発展させている。このように渡辺氏の変分的研究における貢献は一際目を引くものであり、その優れた業績は函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである。