第十四回(2022年度)福原賞

受賞者

業績題目

猪奥倫左(東北大学・大学院理学研究科)
(2011 年微分方程式の総合的研究講演者,
2021 年函数方程式論分科会特別講演者)

臨界型函数不等式に付随する変分問題および一般化された藤田型方程式の研究

柳青(沖縄科学技術大学院大学)
(2018 年微分方程式の総合的研究講演者)

退化を許す非線形放物型方程式の解の形状の解析

【選考委員会構成】
仙葉隆(委員長),久保英夫,赤木剛朗,石毛和弘,町原秀二,杉本充,足立匡義,片山聡一郎,高岡秀夫,川下美潮,三沢正史,坂井秀隆,熊ノ郷直人,内藤雄基


受賞者

猪奥倫左(東北大学・大学院理学研究科)
(2011 年微分方程式の総合的研究講演者,2021 年函数方程式論分科会特別講演者)

業績題目

臨界型函数不等式に付随する変分問題および一般化された藤田型方程式の研究

受賞理由

 猪奥倫左氏は,函数解析において現れる臨界型函数不等式とそれにまつわる変分問題,さらにはそれらの不等式にまつわる臨界型非線型偏微分方程式に関する研究において優れた成果を収めてきた.猪奥氏の研究は,函数の再配列理論,実補間定理を用いた函数不等式の最良性の探求をベースとしつつ,従来開発されてきた手法では取り扱うことが困難であった楕円型・放物型の非線型偏微分方程式の解析に対して独創的な手法や視点を与えるものである.特にハーディ・ソボレフ不等式に関する石渡通徳氏らとの一連の共同研究では,最良定数の到達不可能性と最適な剰余項の特定に関して非常に精密な結果を得ている.また一般領域で最良定数の到達不可能性が知られている臨界型ソボレフ不等式に対して,球を保存するようなあるスケール変換を導入し,これを用いて球上で最良定数を達成する修正ソボレフ不等式を考えた.この研究はその後,同様の構造を持つ多くの函数不等式に対する派生研究を通じて様々な新たな結果を生み出す契機となった.また,藤嶋陽平氏との共同研究では,スケール不変性を伴わない藤田型方程式に対して,局所適切性や解の漸近挙動を明らかにし,さらに一般的な爆発項を持つ藤田型方程式の極限方程式が本質的には冪乗型と指数型へ分類できることを導出した.このように猪奥氏の一連の研究成果は秀でたものであり,その業績は函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.


受賞者

柳青(沖縄科学技術大学院大学)
(2018 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

退化を許す非線形放物型方程式の解の形状の解析

受賞理由

 柳青氏は,平均曲率流方程式をはじめとする非線形放物型方程式について,その解の形状の解析を中心とした数学解析の発展に大きく貢献している.平均曲率流方程式では,特異点のある曲面を初期値とする解の非一意性は,対応する退化を許す放物型方程式の解の等高面が内点を持つという肥満現象に対応している.柳青氏は,この問題に対して,Kohn-Serfaty (2006) によって導入された解の微分ゲームの値関数による近似表現を用いて,応用範囲の広い,放物型方程式の一般論を用いない簡易な証明を与えることに成功している.平均曲率流方程式は凸性を保つが,これについても微分ゲームの手法で簡易な証明をA. Schikorra, X. Zhouと与え,さらに浜向直氏との共同研究により動的境界条件の場合に拡張している.これらの研究においては,微分できない解を扱う粘性解理論が重要である.それについても距離空間における粘性解の理論の開拓を中安淳氏らと行うなど貢献している.その他,F. Ferrai, J. Manfrediとの共同研究による,ハイゼンベルク群上の平均曲率流方程式についての等高面方程式理論の確立や,冪乗曲率流方程式の冪無限大やゼロ極限の解の特徴づけなど,その研究成果は多方面に及ぶ.非線形方程式の解の形状解析に新しい道を拓いた柳青氏の貢献は大きく,函数方程式論分科会福原賞にふさわしいものである.